第12話 水を売る者たち
モニターの男は笑っていた。
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まるで全てを見透かしているように。
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「久しぶりだな、リア」
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低い声。
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冷たい目。
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その視線だけで空気が重くなる。
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アクアは思わず息を呑んだ。
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「誰……?」
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リアの表情が険しくなる。
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「水商人連合総帥」
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一拍。
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「グレイ・マーチャント」
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男は軽く会釈した。
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「紹介ありがとう」
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どこか余裕がある。
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それが逆に恐ろしかった。
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「リア」
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「お前も無駄なことをする」
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グレイは肩をすくめる。
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「世界は今のままで回っている」
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「変える必要はない」
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アクアは思わず叫んだ。
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「何言ってるの!?」
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「人が死んでるんだよ!」
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グレイは笑った。
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「知っている」
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あまりにも自然に。
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あまりにも平然と。
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その言葉を口にした。
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アクアの背筋が寒くなる。
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「じゃあどうして!」
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グレイはモニター越しにアクアを見る。
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「君は研究者だろう?」
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「なら考えてみろ」
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指を一本立てる。
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「水不足がなくなったら」
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「誰が困る?」
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アクアは答えられない。
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グレイは続ける。
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「オアシスコーポレーション」
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「水圏政府」
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「輸送業者」
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「投資家」
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「兵器企業」
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一拍。
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「全員だ」
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静寂。
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リアが目を閉じる。
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まるで聞き慣れた言葉だった。
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「水不足は市場だ」
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グレイは笑う。
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「巨大な市場だ」
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「だから終わらせるわけにはいかない」
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アクアは拳を握る。
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信じられなかった。
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人の命より。
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利益が大事だというのか。
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「最低……」
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グレイは首を傾げる。
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「違うな」
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「現実だ」
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その言葉に。
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リアが反応した。
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「その言葉」
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「昔から変わらないわね」
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グレイは笑う。
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「君も同じだろう?」
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「リア」
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「ジョウより私を選んだ」
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アクアは驚いた。
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リアの目が揺れる。
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初めてだった。
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英雄が動揺したのは。
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「違う」
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リアは静かに言う。
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「私は人類を救うために合成飲料水を作った」
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「そうだ」
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グレイは頷く。
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「だから私は資金を出した」
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アクアの目が見開かれる。
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「え……?」
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リアは黙った。
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それが答えだった。
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Water Warが始まる前。
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リアの研究資金。
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その一部は。
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水商人連合から出ていた。
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アクアは言葉を失う。
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「そんな……」
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リアは俯く。
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「当時は他に方法がなかった」
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その声は苦しかった。
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本当に苦しかった。
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グレイは楽しそうに笑う。
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「だがジョウは違った」
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その名前が出た瞬間。
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空気が変わる。
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「ジョウは馬鹿だった」
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「利益を理解しなかった」
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「市場を理解しなかった」
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一拍。
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「だから嫌いだった」
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アクアの中で何かが切れた。
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「お父さんを侮辱するな!」
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叫ぶ。
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グレイは微笑んだ。
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まるで待っていたように。
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「なら証明してみろ」
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「清水アクア」
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画面の向こうで立ち上がる。
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「ジョウの夢が正しいと」
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「この世界を変えられると」
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通信が切れる。
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静寂。
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誰も喋らない。
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しばらくして。
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アクアは呟いた。
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「絶対にやる」
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ペンダントを握る。
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最後の一滴。
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父の希望。
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世界を救う鍵。
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「絶対に完成させる」
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その言葉に。
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リアが微笑んだ。
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二十年ぶりに。
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本当に嬉しそうに。
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「ジョウにそっくりね」
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アクアは少しだけ笑った。
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そして二人は振り返る。
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巨大ホログラム。
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ブルーマーズ再生計画。
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進捗率。
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【99.999999%】
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残る最後の欠片。
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それは。
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アクアの胸元で静かに輝いていた。




