第2話 2019年12月26日・『やさしい雨音』
美雨と再会した律は、彼女が将来のために夢を諦めかけているのを知る。
そこで律は、二人の思い出の曲を『完成させてほしい』と美雨に申し込む。
やさしさや、よろこびが、
いつの間にか僕を通り過ぎて
哀しみや、切なさを、
青い月が横目で見ている
いつまでも“永遠”を追い続けるほど
僕は子どもじゃないけど
あるがままを受け止められるほど、
まだ、大人じゃなくて……
ああ、遠く瞬く踏切の赤を、この目に焼き付けたまま、
知らない街へと、僕は消えてゆく……
(『知らない街へ』作詞:東雲美雨)
★ ★ ★ ★ ★
「ここね」
麻衣さんが腕を組んでそういう。
「……懐かしいな……」
僕は、3年ぶりのサークルボックスが、あまり変わっていないことに安心するとともに、あの頃、音と戯れていた日々を思い出して、懐かしさのあまりそう言った。
「このボックスだけ、やけに大きいわね?」
「ドラムやギターの音が漏れないようになってますし、ロック研やフォーク研も共有ですからね。
中はスタジオが二つと調整室が一つ、そしてミーティング室が二つですよ」
僕はそういいながら、重たいドアを開ける。
途端に、ドラムロールが聞こえてきた。
「やってるわね」
「はい」
僕はそう答えたが、その実、ドラムのレベルの高さにちょっとびっくりした。
これなら、僕が高校時代に組んでいたバンド『アルカディア』に匹敵すると思ったほどだ。
「こんにちは」
僕はそういいながら、調整室のドアを開ける。途端に楽器の音がぴたりとやんだ。
「あっ、先輩。本当に来てくれたんですね!?」
スタジオから、ベースを抱えた八木沢理央さんが、そう言って笑いかける。するとみんな口々に、
「やったあ~! あたしたちのために『伝説のギタリスト』が来てくれるなんてサイコー!」
スティックをクルクル回しながら、児島有紀さんが叫ぶと、
「わあ~い! 律さんだぁ~! 本物だあ~」
身体とは不似合いなほど大きなエレキギターをぶら下げた、玉森嘉穂さんも飛び上がって喜ぶ。
「……ども、来てくれてうれしいです、先輩」
芦原エリカさんも、周囲を囲うように配置されたシンセサイザーの間から顔を出して言う。
「編成は、ベース、ギター、ドラムとパーカッション、そしてキーボードとシンセだね? 何か一曲、聴かせてくれないか? 君たちの鉄板曲でいいから」
僕がそう言うと、メンバーはしばし顔を見合わせていたが、全員がにっこりとしてそれぞれの楽器をスタンバイした。そして、スネアドラムのリズムとともに、演奏が始まった。
想像していたより、彼女らの演奏は格段に上手く、そして嘉穂さんの可愛らしい顔に似合わないハスキーなヴォーカルと、理央さんの透き通るようなコーラスがマッチしていた。
一曲終わると、僕は拍手して言った。
「すごいすごい、グッドだよ」
すると麻衣さんは、目を細めて理央さんに聞いた。
「あなた方のオリジナル・ソングはないのかしら?」
「あります。ライトなのとヘヴィーなのと、どっちがいいでしょうか?」
「できるだけへヴィーなのを一曲お願いできるかしら?」
「分かりました」
理央さんが答え、メンバーは再びスタンバる。そして、今度の曲はさっきとは全く印象が違う曲だった。今度は理央さんと嘉穂さんのダブル・ヴォーカルで、それぞれの声質をよく生かしていると思った。
「次は、できるだけシンプルでライトなのをお願い」
拍手しながら麻衣さんが注文する。理央さんがうなずくと、今度は理央さんのア・カペラから歌が始まり、途中でヴォーカルが嘉穂さんにタッチする、明るい感じの曲を演奏した。
僕は、3曲とも上手いと思った――けれど……。
『彼女たちは、たぶん上手いと思うわ。けど、ただそれだけ……』
なぜか、いつかの麻衣さんの言葉が浮かんできた。
「律くん、どう思うかしら?」
メンバー全員が注目する中、麻衣さんが聞いてきた。ここで彼女たちを褒めるのは簡単だ。実際、称賛に値する演奏だったとは思う。けれど……。
「……う~ん、上手だとは思う。思うんだけど、なんて言ったらいいか分からないけど、何かが足りない気がするんだ。
プロでも十分通用する演奏技術だったとは思うけど、プロとして輝くには、何かが足りない気がする……まだプロになって3年足らずの僕が言うのもなんだけど」
思い切って僕が言うと、メンバーは割と冷静に聞いててくれた。
やがて、はあっというため息とともに、エリカさんがつぶやいた。
「やっぱりプロが聞くとそうですか。
なんか足らないって、ずっと言われてたですよ」
「何なんだろうね、あたしたちに足りないものって……」
理央さんもそう言って首をかしげる。
そんな彼女たちに、麻衣さんが話しかけた。
「みんな、ちょっとこっちに来てくれるかしら。
それから律くん、あっちで何か演奏してちょうだい」
僕は彼女らと入れ替わりに、スタジオへ入った。
「あなた方に欠けているものを、律くんの演奏を聴きながら感じてちょうだい。律くん、演奏、お願い」
「ギターを持って来ていませんけど……」
「あ、よかったら私のギターを使ってください」
嘉穂さんがそう言ってくれたので、ありがたく借りることにして、そっとストリングスを弾いてみる。うん、さすがにチューニングはばっちりだ。
「じゃあ、嘉穂さん、君のギターをお借りするよ」
「私のはエレキですけど、いいんでしょうか? 先輩のいつものギターはアコースティックかクラッシックですよね」
そうつぶやく嘉穂さんに、麻衣さんが笑って言った。
「よく聴いておくことね。律くんの演奏を」
僕は、ゆっくりと目を閉じて、何を弾こうかを考える。そして、ゆっくりと僕のデビュー作である『やさしい雨音』を弾き始めた。美雨のことを思い出しながら……。
「えっ……これ、アコースティックの音?」
調整室では、スタジオから流れてくるギターの音色に、嘉穂がびっくりしていた。
先輩が弾いているのは私のエレキギターなのに、なぜ、アコースティック・ギターのような優しい音色が出せるんだろう……。
隣では、芦原エリカが涙ぐんでいた。
「なんか、優しいですよ。優しいくせに、切ないですよ……。きゅうっと胸が締め付けられるような気がするです」
目を閉じて聞いていた理央は、演奏が終わると目を開けて、ため息交じりに言った。
「あたしたち、弾くことに精いっぱいだったみたいです。先輩の音色は、本当に先輩の声みたいで……先輩の心が伝わってきました。あたしたちも、これからはあんな演奏……ううん、語りかけがしたいです」
それを聞いて、麻衣さんは莞爾とした表情でみんなに言った。
「気づいてくれてうれしいわ。あなた方に欠けているものを探してちょうだい。
探し当てたら、あたしの事務所にスカウトしたいくらいよ。あなた方なら、律くんに負けないアーティストになれると思うわ」
「ほんとですか?」
麻衣の言葉に、全員が目を輝かせて聞く。麻衣はニコリとしてうなずいた。
★ ★ ★ ★ ★
「……って言っても、あんな演奏は先輩だからできることよね」
律と麻衣が帰った後、スタジオでは『DIAMOND-DUST』の4人が難しい表情をしていた。
「どうやったらあんな素敵な演奏ができるか、嘉穂、分かんない」
「……あれはもはや、技術の問題じゃないわね」
腕を組みながら児島有紀が言う。
「技術じゃなきゃ、何なのよ?」
理央が聞くと、有紀はきっぱりといった。
「先輩は天才なのだよ。だから、凡人であるあたしたちは、逆立ちして100年経っても追いつけない」
「いや、100年も逆立ちできないですよ。
その前におばあちゃんになっちゃうですよ」
エリカが言うと、有紀がそのボケに反応する。
「なんで『逆立ちしても敵わない』ってんだろうね? 普通でも敵わないなら、逆立ちしたら余計に不利じゃん」
「相手が逆立ちするとか?」
「おお、エリカ! それはナイスな考えだ!」
漫才を繰り広げる有紀とエリカをしり目に、理央と嘉穂は二人で考えていた。
(私たち、『DIAMOND-DUST』に足りないものは、どこにあるんだろう?……)
「彼女たち、見つけられるでしょうか?」
僕は、『DIAMOND-DUST』のみんなの顔を思い浮かべながら、隣を歩く麻衣さんに聞く。
「彼女たちなら、きっと見つけられると思うわ。でないと、せっかく見つけた律くんの後釜にできそうな原石が、無駄になっちゃう」
「……じゃ、麻衣さんは彼女たちがプロで通用するって思ってるんですね?」
「あなたはどうなの? 彼女たちから、何か感じない?」
「そうですね。確かに彼女たちのレベルは高いです。今のままでも、バックバンドとしてなら、十分に通用すると思います」
「あたしも同じ意見よ。今のままでも技術的には問題ないレベルだわ。
でも、彼女たちの個性が生きていない。そこをなんとかできれば、輝くと思うわ……ところで、律くん」
「何でしょうか?」
「あたしはいったん事務所に帰るわ。明後日まで仕事は入ってないから、彼女とゆっくりしてなさい」
麻衣さんは、そう言いながら笑って校舎の陰を指さす。そこには美雨がつくねんと立って、僕たちを見ていた。
「美雨……」
「まったく、本当に引っ込み思案なお嬢さんね、律くんの妹さんは。せっかく再会して、お互いにまた交流が始まったんだから、声をかけてくればいいのに……。
じゃ、あたしは行くわね。すっぱ抜かれるんじゃないわよ?」
麻衣さんはそういうと、僕と美雨に手を振って、ずんずんと校門の方へと歩いて行った。
麻衣さんを見送った後、僕は美雨に声をかけた。
「美雨、今帰りかい?」
すると美雨は、恥ずかしそうに顔を赤らめながら僕に近寄ってきて言う。
「ううん……今から、『チェリー』でバイトなの」
「バイト?」
「うん、平日は午後5時から7時までで、学校が休みの時は午前10時から午後6時まで」
「大変だな。自分の時間ってないんじゃないか?」
「うん、でも、先のことを考えとかないとね? 『星の子園』にいられるのも、あと少しだし……」
1週22時間のバイトなら、1カ月だいたい88時間だ。時給が千円だとしても、9万円弱にしかならない。税金や保険が引かれていたら、美雨の手元には月7万も入ればいいところだろう。今は施設に入ってるのでいいが、退所したらどうやって暮らしていくのだろう。
僕はそう思うと、いたたまれなくなった。あの日、『星の子園』に向かうバスに乗る美雨のことを思い出したからだ。
「美雨、お前、まだ詩は書いてるか?」
すると美雨は、笑って言った。
「お兄ちゃん、まだ約束覚えていたんだ? でも、私はもう、詩は書いていないんだ。キーボードも、もう諦めちゃった……」
「美雨……」
「私さ、ずっとお兄ちゃんとの約束、憶えていたよ?
お兄ちゃんがCD出した時はとっても嬉しかった。お兄ちゃんのCDは全部持ってるし、お兄ちゃんの曲にどれだけ救われたか知れない。
でも、何回かお兄ちゃんのコンサートやライブを観に行ってるうちに、お兄ちゃんがとっても遠い人になったような気がしちゃったんだ。ああ、高野律ってひとは、もう私だけのお兄ちゃんじゃなくなってしまったんだなって……私の思い込みやわがままだけどね?」
一気にそう言った美雨の目は、あの日と同じように、傷ついた仔猫のような眼をしていた。
「なあ美雨、僕さ、『星の子園』にお邪魔していいかな?」
すると美雨は、びっくりしたような眼で僕を見て聞いた。
「なんで?」
「いや、一度、『星の子園』で演奏したいんだ、美雨のためにさ。
その時、美雨が『やさしい雨音』を一緒に歌ってくれればいいけどなって思って」
「なんで?」
「僕がデビュー曲を『やさしい雨音』にしたのは、演奏するとき、いつも美雨の歌声が聞こえていたからなんだ。だからあの曲は、僕にとって特別なんだ。
でも、まだ一度も完成形をみんなの前で弾いたことはない。美雨のキーボードと歌があってこそ完成形だから……美雨、一緒に『やさしい雨音』を完成させてくれないか?」
それは僕の本心だった。美雨は顔を伏せて、僕の言葉を黙って聞いていたが、やがて顔を上げて微笑んで言ってくれた。
「お兄ちゃんって、ホント、ずるい……一回だけだよ?」
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
次の日、僕はバスに乗って、『星の子園』がある隣町へと向かった。大学がある街からは20分程度のところだった。
美雨から教えてもらったバス停でバスを降りると、そこは住み慣れた都会の喧騒から離れた、ゆっくりとした時間が流れている場所だった。
「いらっしゃい、お兄ちゃん」
そこにはすでに美雨が来ていて、少しはにかんだように僕を迎えてくれた。
「突然、演奏させてくださいなんて、迷惑だったかな?」
僕が言うと、美雨は首を振って言った。
「園長先生はとても喜んでくださったわ。児童養護施設って、子どもたち向けの、面白いことが少ないのよ。お客さんって言っても、子どもたちが喜ぶようなお客はあんまり来ないし……。
特にうちみたいに小さくて、辺鄙なところにある施設にはね。だから、園長先生もすぐにOKしてくださったわ」
「そうか。それなら安心したよ」
「でもお兄ちゃん、本当にノーギャラでいいの? 園長先生、最初は信じてくれなかったのよ。『高野律さんをノーギャラで呼べるわけがない』って……」
「ま、今日は僕は仕事で来ているんじゃなくて、美雨のために来ているんだ。
そう園長先生に言うのが恥ずかしければ、僕の気まぐれだと思ってもらえばいいよ。気にするな」
「そう言ってくれると、園長先生も喜ぶと思うわ」
美雨はそう言って嬉しそうに微笑む。僕は、今まで見たことがないくらいの笑顔に、思わず見とれてしまった。
「な、なに?」
美雨が顔を赤くして言う。僕は慌てて言った。
「い、いや、何でもない。子どもたちって、どんな曲がいいのかなって思ってさ」
「そうねえ……うちの施設には、割合小さい子が多いから、アニメの曲とかいいんじゃないかしら?
私たちくらいの年代だったら、お兄ちゃんの曲でもいいよ。みんな、高野律のファンだし。
だから、中学生以上の子たちは、お兄ちゃんを見てびっくりするんじゃないかしら」
「それは光栄の至りだよ。いい演奏をしないとね」
そうこう話しているうちに、僕たちは『星の子園』の門の前までついた。そこにはすでに中学生くらいの女の子たちが僕たちを見つけて騒いでいた。
「あっ! ホントに高野律さんが来た!」
「園長先生、美雨姉さんが高野律さんを連れてきたわよ!」
がやがやと騒ぐみんなをしり目に、美雨はまっすぐ僕を園長室に連れて行ってくれた。
「お初にお目にかかります。私はこの施設の園長で、来栖歳三と申します。今日は本当にありがとうございます」
園長は、僕が想像していたよりはるかにいい人だった。もう老人といっていいお年に見えるが、元気がよくて、何より人が好さそうだった。
「こんにちは、今日は突然のお願いを快く承諾いただきまして、ありがとうございます」
僕が言うと、園長先生はにこにこ顔を崩さずに言う。
「とんでもない。音楽鑑賞は、子どもたちにとってもいい機会です。
ましてや高野さんのような一流の演奏家の演奏は、子どもたちにとってもいい影響を与えてくれるものと思っています。
しかし、美雨さんの話では、ギャラを払わなくてもいいということでしたが?」
「ええ、今日は僕の気まぐれだと思っていただければと思います」
僕の言葉に、園長先生は目をしばたたかせていたが、ゆっくりと言った。
「美雨さんの幼なじみだそうですね?」
「はい。僕が中学2年までは、兄妹同然にしていました」
「そうですか……彼女の部屋に飾ってある写真に一緒に写っているのは高野さんなんですね?
彼女はいい子です。芯も強くて、家庭的で。しかし、やっぱり家族がいないというのは寂しいものです。高野さんと彼女が再会できたのも、神様の思し召しかもしれません。どうか、美雨さんのことをよろしく頼みます」
園長先生は、胸の前で十字を切って、僕をじっと見つめた。僕はどうしていいか分からなかったが、とにかくうなずいた。
「おお、もうこんな時間ですね。子どもたちが待っています。教会の方へどうぞ」
園長先生は、壁にかけてある時計を見てそう言った。
「皆さん、こんにちは、高野律です」
僕は、教会のステージの上からあいさつした。この『星の子園』には、現在40人ほどの子どもたちが入所しているそうで、そのうち中学生以上は20人程度いた。みんな明るい子たちばかりだった。
僕は、小さな子たちのために童謡やアニメソングなどを適当に織り交ぜ、僕のオリジナル曲も何曲か演奏した。
そして、最後の一曲となった。
「最後は、僕のデビュー曲で『やさしい雨音』をお届けしたいと思います」
そう言うと、中学生や高校生はもちろん、園の指導員の皆さんまで拍手してくれる。僕は続けて言った。
「この曲は、僕が中学2年の時に作っていたものです。その時は、ギター一本で弾く曲ではなく、ギターとピアノの曲で、詩もありました。
今日は、その詩を書いてくれた女の子に、ピアノ演奏とヴォーカルをお願いして、本当の『やさしい雨音』をお届けしたいと思います。本邦初公開、『やさしい雨音』完結編です。では、ピアノとヴォーカルを東雲美雨さんにお願いします」
僕がそういうと、会場がざわめいた。そのざわめきの中、美雨がゆっくりとステージに上がり、ピアノの前に座って、僕に笑いかけた。
僕も笑って、ゆっくりとイントロを演奏する。8小節目から、美雨のピアノがギターの音色に重なってきて、やがて美雨の透き通った声が流れ始めた。
(やさしい雨音 作詩・東雲美雨 作曲・高野律)
ポツポツと、傘の上で、雨粒が何かを語りかける
失くしてきた、大切なもの、思い出すことがつらい僕に
いつまでも、こんな日々が続くと、無邪気に信じていた
手を伸ばせば、届くはずの、あたたかな人たちは今はもう……
静かな雨が降る日には、思い出たちと寄り添って
約束した笑顔のまま、僕は、うたうよ……
やさしい雨にうたれながら、あの日のうた口ずさんで
約束した笑顔のまま、君とまた会える日を、待っている……
穏やかな雨の日は、窓の外を見つめていても
にじんだような世界だけで、誰も僕のことを知らない
大切な思い出が、『大切だったもの』になるころ
何一つ、つかめなかった、この手を寂しく見つめるよ
まぶたの中に消えてゆく、思い出たちを追いかけて
約束を忘れないように、僕は眠るよ……
やさしい雨にうたれながら、一人でうたを歌っていた
約束は消えないのに、君とまた会える日が、見えなくて……
静かな雨が降る日には、思い出たちと寄り添って
約束した笑顔のまま、僕は歌うよ……
やさしい雨にうたれながら、あの日のうた口ずさんで
約束した笑顔のまま、君とまた会える日を、待っている……
君とまた会える日を、待っている……
美雨の歌は、澄んだハイトーン・ヴォイスで、やさしく、切なく、けれど明るい感じで歌い上げた、すばらしい歌だった。
歌が終わってからもしばらくの間、客席からは、音一つ聞こえなかった。
やがて、園長先生の拍手で、みんな我に返ったかのように、割れんばかりの拍手が起きた。
「ありがとう、美雨」
僕が笑いかけると、顔を真っ赤にしていた美雨も
「うん、私、お兄ちゃんと歌えて、とっても幸せだよ」
そう答えてくれた。
この日が、ヴォーカル・東雲美雨が誕生した日だった。
(A Beautiful rainy day2)
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
美雨は、『自信がない妹』から一歩踏み出しました。
二人がこの後、どんな軌跡をたどるのか楽しみです。
では、次回までごきげんよう(美雨の真似)。




