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『愛され娘の私は18年かけて純粋培養された「商品」でした〜極上のまま狂った富豪に出荷される絶望のバースデー〜』  作者: 月神世一


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完成された純白の自動人形(オートマタ)――狂宴へのカウントダウン

完成された純白の自動人形(オートマタ)――狂宴へのカウントダウン

瀬尾蓮という名の「希望」が理不尽な形で外界の闇に飲み込まれ、完全に姿を消してから、一年半の月日が流れた。

季節は巡り、浅田有希子は17歳の冬を終えようとしていた。

あと一ヶ月もすれば、彼女は18歳の誕生日を迎える。

聖カトレア学園の最上級生となった有希子は、学園内で「生きた氷の彫刻」あるいは「完璧な自動人形(オートマタ)」として畏怖の念を集めていた。

彼女は図書委員を自ら辞任し、休み時間になっても誰とも口を利かず、ただ静かに席に座って両親から与えられた高尚な文学書を読んでいるだけだった。体育の授業や屋外での活動は「肌が傷つくから」という理由で、泰造が学校側に莫大な寄付金を積んで特別に免除させている。

周囲の生徒たちは、有希子の息を呑むほどの美しさに憧憬の眼差しを向けつつも、決して彼女に近づこうとはしなかった。彼女の周囲には、目に見えない絶対零度の壁が張り巡らされていたからだ。

有希子にとって、それは「救い」であった。

外の世界の人間は、いつ自分を裏切り、見捨て、あるいは泥水の中に引きずり込むかわからない恐ろしい獣たちだ。言葉を交わせば汚れる。情を移せば、あの時のように耐え難い喪失感に苛まれる。

(私は、お父様とお母様、そしておじさまの言うことだけを聞いていればいい。この鳥籠の中だけが、世界で唯一の安全で、美しい場所なのだから)

有希子の精神は、完全に自立を放棄していた。

自らの意思で考えることをやめ、大人たちが引いたレールの上を歩くことだけに無上の喜びと安心感を覚えるようになっていたのである。

 * * *

「有希子。今日も肌の調子は完璧ね」

浅田家の豪奢なバスルームで、母親の恵美子が有希子の背中に最高級のローズオイルを塗り込みながら、うっとりとしたため息を漏らした。

有希子はバスタブの縁に身を預け、されるがままに目を閉じている。

「お母様が毎日、丁寧にケアしてくださるおかげですわ」

「ええ、そうよ。あなたのこの透き通るような肌は、私たちが十数年かけて磨き上げた最高傑作なのだから。……さあ、上がって。コルセットを着けるわよ」

有希子は従順に立ち上がり、ふかふかのバスタオルで水分を拭き取られると、神宮寺から与えられた特注のコルセット下着を身に着けた。

成長した有希子の女性らしい曲線を容赦なく締め付け、平坦な「無垢な少女」のシルエットへと強制的に押し込めるその下着は、今や有希子の体の一部となっていた。

肋骨が軋み、呼吸が浅くなる苦しさすらも、有希子にとっては「愛されている証(束縛)」として心地よいものにすり替わっていた。

「準備ができたわね。さあ、リビングへ行きましょう。今日はおじさまが、あなたの大切な日のために『特別な贈り物』を持ってきてくださっているのよ」

「特別な贈り物……? まあ、楽しみです」

有希子が完璧な笑顔を作ってリビングの扉を開けると、そこには、ソファーに深く腰掛けた神宮寺善三と、彼に媚びへつらうように葉巻の火を点ける父親・泰造の姿があった。

「やあ、有希子ちゃん。今日も妖精のように美しいね」

「おじさま、ごきげんよう」

有希子が優雅にカーテシー(お辞儀)をすると、神宮寺の瞳孔が爬虫類のように縦に細く収縮した。

神宮寺の視線は、衣服の上からでもわかる有希子の完璧なプロポーションと、そして何よりも、自我を完全に喪失し「飼い主の顔色を窺うだけの空虚な瞳」に釘付けになっていた。

(素晴らしい。あの小僧が消えてからのこの一年半、有希子は自ら進んで私の手の中の泥に沈み込んだ。反抗期の欠片もない、極上の純白の奴隷だ)

神宮寺は立ち上がり、背後に控えていたスーツ姿の男――お抱えの高級テイラーを呼び寄せた。

「有希子ちゃん。来月はいよいよ、君の18歳の誕生日だ。大人のレディへの仲間入りを祝して、最高級のシルクで君だけの特別なドレスを仕立ててあげよう」

「私のために……? ありがとうございます、おじさま!」

有希子は歓喜の声を上げ、神宮寺の前に進み出た。

テイラーがメジャーを取り出そうとしたその時、神宮寺がそれを手で制した。

「いや、私が測ろう」

神宮寺はメジャーを受け取ると、有希子の背後に回り込んだ。

「失礼するよ、有希子ちゃん」

「はい……」

神宮寺の分厚い手が、有希子の両腕を軽く持ち上げ、メジャーを有希子の胸の周りに這わせる。

衣服越しとはいえ、そのねっとりとした手の動きは、採寸というよりも「商品の品定め」に近い、露骨で卑猥なものだった。

神宮寺の指先が有希子の脇腹からウエスト、そしてヒップのラインをなぞるように滑っていく。

ゾワリと。

有希子の背筋を、本能的な悪寒が駆け抜けた。

しかし、彼女は身じろぎ一つしなかった。

(おじさまは、私のためにドレスを作ってくださるのだから。これは愛情表現の一環よ。嫌がったりしたら、悪い子になってしまうわ)

有希子は必死に恐怖を押し殺し、作り物の微笑みを顔に貼り付けたまま、人形のように直立不動を貫いた。

その「怯えながらも耐え忍ぶ姿」こそが、神宮寺の嗜虐心と歪んだ欲望をこれ以上ないほどに刺激していた。

「……ウエスト56センチ。見事だ、浅田くん。ミリ単位での体型管理、完璧な仕事だ」

「ありがとうございます、会長。有希子の食事と運動は、すべてコンピューターで徹底的に管理しておりますので」

泰造が誇らしげに胸を張る。

実の娘の身体を他人の男にまさぐらせ、その数値を「商品のスペック」として報告し合う異常な光景。しかし、洗脳され切った有希子には、これが狂気であると気づく術はすでになかった。

 * * *

採寸が終わり、有希子が「お勉強の時間ですから」と自室へ戻された後のリビング。

空調の効いた部屋に、カチン、カチンと氷の鳴る音が響いていた。

「浅田くん。いよいよ来月だな」

神宮寺は、最高級のコニャックを喉に流し込みながら、愉悦に満ちた声で呟いた。

「ええ。長かった18年の投資計画も、いよいよ回収の時を迎えます」

「舞台の用意はできているかね?」

「抜かりはございません。誕生日の夜、都内最高の外資系ホテル『グランド・インペリアル』の最上階、ペントハウス・スイートを完全貸し切りにしております。防音設備は完璧。外界からのアクセスは専用エレベーターのみ。……誰の邪魔も入らない、会長のための完璧な密室です」

泰造の報告に、神宮寺は満足げに頷いた。

「有希子には、『18歳の大人の仲間入りを祝う、家族だけの特別なパーティー』だと伝えてあるわ」

恵美子が、自らの手入れの行き届いた爪を眺めながらクスクスと笑う。

「あの子ったら、何の疑いもなく喜んでいましたわ。『お父様たちに恩返しができるような、素敵なレディになります』ですって。本当に、馬鹿で可愛い私の商品だわ」

「ふふっ……はははははっ!」

神宮寺が、腹の底から湧き上がるような下劣な笑い声を上げた。

「最高だ! これ以上の極上のエンターテインメントがあるだろうか! 自分が誰よりも愛され、祝福されていると信じて疑わない18歳の夜。豪華なディナーの席で、優しい両親が突然部屋から消え……鍵がかけられ、絶望の事実を突きつけられる」

神宮寺の瞳孔が、興奮で異様に開ききっていた。

「約束の10億円は、有希子ちゃんが私のベッドで完全に『啼いた(ないた)』のを確認した翌朝、君たちのスイス銀行の口座に振り込もう。……決して傷をつけるなよ。あの果実の皮を破るのは、私だけなのだから」

「もちろんでございます、会長。我々も、その日が待ち遠しくてなりません」

金と欲望に塗れた大人たちの嗤い声が、広大なリビングに重く、禍々しく響き渡っていた。

 * * *

そして、運命の誕生日の七日前。

夜の静寂に包まれた有希子の寝室を、母親の恵美子が訪れた。

「有希子、まだ起きているかしら」

「お母様? ええ、本を読んでいたところです」

ベッドの上で読書灯を点けていた有希子に対し、恵美子は銀のトレイに乗せた小さなグラスを差し出した。

中には、琥珀色をした透明な液体が入っている。

「来週はいよいよ、あなたの18歳のお誕生日ね。これはね、お母様からの特別なプレゼント。……あなたの体の中の老廃物をすべて洗い流して、当日、最高に美しい状態でドレスを着るための『魔法のお薬』よ」

恵美子の声は、ひどく甘く、そしてどこか冷たい響きを帯びていた。

有希子はグラスを受け取ると、無邪気に微笑んだ。

「まあ。お母様、いつも私のために……ありがとうございます」

有希子は疑うこともなく、その琥珀色の液体を一息に飲み干した。

ほのかに甘く、少しだけ舌の奥が痺れるような奇妙な味がした。

「……お母様、なんだかこれ、不思議な味がしますわ」

「ふふ。すぐに体がポカポカして、ぐっすり眠れるようになるわ。今日から毎日、寝る前にこれを飲んでちょうだいね」

恵美子が有希子の頭を撫でる。

その薬の正体が、一週間かけて有希子の筋肉を弛緩させ、当日の抵抗力を奪い、神経を過敏にさせるための『遅効性の媚薬と筋弛緩剤の混合物』であることなど、有希子は知るはずもない。

「はい、お母様。私……来週が、本当に楽しみです」

有希子はトロンとした瞳で微笑み、ベッドに身を横たえた。

(あと一週間で、私は大人のレディになれる。お父様とお母様、おじさまに、永遠に愛されるための……完璧なレディに)

薬効で微睡みへと落ちていく有希子の意識は、多幸感に包まれていた。

自分が歩いているのが花道などではなく、地獄の釜へと続く処刑台の階段であることにも気づかないまま。

純白の自動人形へのカウントダウンは、ついに残り「七日」を告げていた。

18年間のすべての愛が反転する「極上の絶望」まで、もう後戻りはできない。

読んでいただきありがとうございます。

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