第44話 戦の行方
「莉子会長!」
「セナさん!?」
莉子会長の前に降り立ち、目の前の機甲もどきを殴り倒す。
手加減は一切していない。一発で胸部がひしゃげた機甲は、まだ蠢いている。
俺はゆっくりと近づいて、確実に核を足で潰しきった。
粒子が舞い、機甲もどきの姿が薄れていく。
そんな様を視るわけもなく、俺はすぐに振り返って莉子会長の方へと駆け寄った。
「大丈夫か!」
「はい、なんとか」
大きな怪我はしていないようだった。しかし、ギリギリで避け続けていたのだろう。軽い傷は数え切れないほどついている。服もところどころ破けており、肌が露出してしまっていた。
「いますぐ救護班を」
「待ってください。大丈夫ですから」
そういって刀を構える。
レーダーからはまだ警告音が鳴り響いており、目の前の門からは敵が出続けている。
「助かりました。でも早く次へ向かってください」
「だけど……」
「大丈夫です。この程度の敵に遅れは取りませんから」
機甲は数が限られているのか、二体目が出てくることはなさそうだった。
確かに門から出てくる敵の勢いは弱っていっている。
しかしネネがそんな甘いヤツだとは思っていなかった。
「っ!?」
そのとき、突然俺と莉子会長の両方の通信機が同時に鳴った。
「あの野郎」
「ためらっている暇はありませんよ」
トンと背中を押される。
「ここは私に任せて、早く本部へ!」
通信の内容は、対策本部から全員に向けての緊急要請であった。
赤いリビングアーマーが現れたとのことである。
本部には多少戦える部隊を置いているが、各地での攻勢に助力に出ざるを得なくなったくらいには逼迫している。そして今本部に残されているのは……そのほとんどが非戦闘員だ。
「俺が行くしかないか!」
「ええ、小春ちゃんを、そして本部の人員をお願いします」
自然と拳に力が入り、通信機を握りつぶしてしまいそうだった。
ネネとしても限られたリソースをどのように配置するのかという問題だったのは理解できる。
そして、本気で戦争を仕掛けてきたということも。
だからあっちは、勝ちに来たのだ。持てるリソースを分散させて陽動。そして本丸に敗北を叩きつけに行く。効率的で実現性も高い。
最初から俺は甘かったのだ。何が誰一人犠牲を出させないだ。これは模擬戦じゃない、本当の戦いなんだ。
だが……
だとしても
俺は誰も犠牲にさせずに勝ってみせる。
「待ってろネネ!」
俺は空を全速力で駆け抜ける。
あまりの速度に機甲が軋む音がする。
それすらも無視して、さらにスピードを上げた。
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本部に到着したときにはすでに、煙があちこちから上がっていた。
「間に合わなかったか!?」
「いや、ギリギリ間に合ったさ」
通信機越しに小春ちゃんの声がした」
「小春ちゃん、無事か!」
「今逃げたところだよ。ここを本部としたのは間違いじゃなかったみたい」
聞くところによると、襲撃があった瞬間に本部機能の維持することを放棄し、籠城戦に以降したらしい。
「その程度の戦略、想定内さ。でもしかし、来た敵が想定外だね」
「今すぐそっちに行く!場所を教えてくれ!」
「いや、今隠れきれているから問題はない。隠し通路の先にある地下室に皆で避難している」
この施設を本部として選定したのは皇だったはずだ。この状況も彼女の頭の中にあったのだろうか。
「敵は君を認識しているみたいだ。セナもわかるかい?」
「ああ、憎いほどはっきりとな」
超常的な直感か、あるいは実質的な姉妹だからこその共鳴か、ネネのいる場所は手を取るようにわかった。
俺はヤツの目の前に降り立つ。
「待たせたな」
「まったく、かくれんぼの次は君か」
「そろそろ戦いたくてうずうずしてる頃だろうと思ってな、文字通り飛んできたぜ」
「わかるかい?なんだろうね。似た存在だからかな」
「一緒にするな」
拳を構える。
するとネネも、緋い炎を吹き出しながら拳を構えてみせる。
「さあ、どっちが強いか勝負だ」
「勝つ、絶対に」
今、俺達2人の戦いが幕を開けたのだった。
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「小春さん!危険です!」
「大丈夫、セナは強いよ」
小春は武装を詰め込んだバックパックを背負い直し、避難所の扉を開ける。
「でももし万が一のことがあったら、すぐにここも放棄して奥深くへ逃げることだね」
「小春さん!」
小春は通信機のログをもう一度見直す。
すでにランク5の人間は各地に散らばってしまっている。
人類の要である皇でこそなんとか動ける状態になったと連絡が来たが、彼女の現在地は遠く離れている。
もしセナが負けることがあれば、かくれんぼしているだけの自分たちが惨たらしい目にあうことは自明の理だった。
「だから、これを届けないといけないんだよ」
ポケットにいれたアンプルを握りしめて、避難所の扉に手をかける。
「待ってて。絶対に届けるから」
そこに、いつも眠たげにしている小春の姿はなかった。
そこには、仲間を救うために命をかける、真剣な瞳しかなかった。




