第43話 出陣
「……来ましたか」
ビーッと鳴り響く警告音に、莉子は立ち上がる。
莉子が担当する地域で門が創造された音だ。そこから無数のモンスター達が攻めてくる。
人員は不足気味だ。莉子の所属していた班も、各地に散らばって援護するはめになっていた。
つまりは、この門を止められるのは莉子1人ということだ。
「ここは私1人で……止めてみせます」
静かに移動し、創造された門の前に立ちふさがる。
良かったと莉子は安堵した。
ここを襲いに来たモンスターたちの質と量を視て、自分が対処できる範疇だと確信したからだ。
「参ります」
刀を抜き放ち、飛びかかってきたモンスターを斬り伏せる。
血を振り払い、すぐに次の対処へと入る。
そこに一切の無駄はない。
いや、あるわけがない。
そこにいるのは、未来を視る剣士なのだから。
まるで水の流れの如く、刃が敵を切り裂く。
「この程度で各地済んでいれば楽なのですが」
そうでないことを莉子は知っている。
すでに各地でフロアボス級のモンスターが出ており、ランク5やランク4構成の部隊が奔走している。
「ここは静かですね」
チン
刀を鞘にしまい、再び精神統一を図る。
辺りのモンスターの死骸が、粒子になって消え始めていた。
ゾクリ
ふとした瞬間、莉子は背筋が凍る思いをして刀を抜き放った。
「……嘘ですよね」
立ち上がっていなければ、今頃その拳に貫かれていただろう。
そこには見覚えのあるリビングアーマーが、しかし見覚えのない紫色の炎を灯しながら立っていた。
瞳の力で未来を視る。
視えるのは数百通りの負ける未来。
しかしその中に一筋、なんとか避けきる未来があった。
莉子は間違えない。
「せめてここで足止めを」
自分にとって、引いては皆のため、最善の未来を選択し続ける。
刀を構え、目の前の敵の全てを見切る。
たとえそれが何時間ともわからぬ持久戦になる可能性があろうと、莉子は止まる気はなかった。
「参ります!」
地面を蹴って、その紫色の機甲へと切りかかった。
<=>
「……なんだって?」
俺は通信機から流れてくる情報を聞き直す。
「だから、現れちゃったっす!セナちゃんと同じリビングアーマーが!」
「俺と同じ!?戦線はどうなってる!?」
「ランク4主体でなんとか時間を伸ばしてる状況っす」
「ランク4で……?」
自惚れじゃないが、ランク5相当の力はあると思う。それをランク4が止められるとは思えない。
「何か特徴的なのはないか?」
「えっと、紫色の炎を纏っているらしいっす」
「紫……マナクリスタルの色だ」
「こうは考えられないっすか?無理やり戦えるように急造したから、オリジナルほどの戦闘力はなかったとかっす」
「急造品だからマナクリスタルのブースト能力を使って、無理に戦わせてるってことか」
的を得ているように思える。それなら、ランク4が対応してくれればなんとかなりそうか。
「でも各地のランク4が足止め状態っす」
「応援部隊はどうした?」
「パンパンな状態で動いてるっす。セナちゃんにも出動依頼来てるっすか?」
「ああ、とてつもない数な。今向かってるところだ」
空を飛び回りながら、各所に連絡をしてまわる。止まっている暇など、到底ありそうにもなかった。
俺達を支えているのは、現状死者ゼロというかすかな希望のみだった。
「っと、現場に着く。紬ちゃんも気を付けてな」
「はいっす、お互い頑張るっす」
通信機が切れると同時に、俺は地面にダイブする。
落下エネルギーののった、致命的な一撃が、リビングアーマーの顔にヒットした。
「現着。これより救助する」
後ろの負傷者たちをかばうように、モンスターとの間に降り立つ。
さぁ、手加減せず行こう。
リビングアーマーの炎が、俺に激怒するかのように妖しく揺らめいた。
<=>
「はー、そろそろかな」
ダンジョンの奥深く、1人きりでネネは前任者の残した椅子でくつろいでいた。
「まったく、外の様子がわからないなんて欠陥じゃないかな」
ダンジョンはいわば要塞のはずだった。しかし今や、各地へ門を使ってモンスターを送り出す輸送艇のようだった。
まるでその使い方が想定されていなかったかのように、ダンジョン管理部分には外の様子を知れる方法がなかった。
唯一あるのは、手元にあるセナのスマートフォンだけだ。
「各地に量産型を散りばめた。まあ大体の実力者はそっちに対応しなきゃならんだろう」
ネネは賢かった。今回の件をただのモンスター襲撃事件で収める気は一切もっていなかった。
「あとは根城から実力者たちが出れば、私の番だ」
ネネは立ち上がって手を宙にかざす。
幾何学模様の魔法陣が周囲に展開され、ネネを包み込む。
手足には頑丈な籠手が
胸部を覆う装甲は薄くしかし見た目に反してどんな刃物も弾く。
脚部には各所にブースターのついた鎧。
「さあ、終焉を与えに行こう」
各所から緋い炎を吹き出しながら、機甲を身にまとったネネは拳を握りしめた。
ダンジョン管理者にだけ与えられる権能を持って、探索者協会を終わらせにいくために。
ネネの目の前の空間が歪む。
新しい門だ。
ためらわずにネネは、その門へと1人で踏み入れた。




