第45話 最後の戦い
「限界かい?」
「んなわけねぇだろ」
土埃をはらい、再び立ち上がる。
「そろそろ学んだらどうだい?」
「あいにくと前から突っ込むことしか知らなくてなぁ!」
ブースターを点火、持ちうる力を拳に込めて、相手のがら空きの胴を狙う。
「まったく、学ばない人だ」
その拳は軽々と受け止められる。
ゴーレムをも砕く拳を、純粋な防御力で耐え切られてしまう。
この機甲に、体術以上の武器は備わっていない。この世の大半をその拳で制圧できる。そんな傲慢さのある武装なのだ。
「君じゃ私には勝てない」
片手間に振られた右手で、建物の壁にたたきつけられる。
「がはぁっ!」
肺の空気が全て吐き出され咳き込む。そのまま地面に倒れそうになるところで、なんとか足を踏みしめる。
「なぜ勝てない……!」
「スペック差を受け入れるべきだよ君」
ネネはふよふよと浮きながらこちらに近づいてくる。無駄にブースターを吹かしているのは余裕の表れとでも言うのだろうか。
「たしかに君は私の姉妹機だけど、君と私は決定的に違う。私はセナ、君と、そしてナナセだったっけ、アレから得たフィードバッグで作られた、文字通り後継機でもあるんだよ」
「後継機だ?」
「一人はダンジョンを放棄し放浪、もう片方はダンジョン運営こそしていたものの役立たず。それがダンジョンが私を生み出した理由」
「ダンジョンが?ダンジョンに意思があるとでも言うのか!」
「さぁね。私にもわからない。でもこの門の機能を見て思わないかい?ダンジョンは砦じゃなく、日本を攻め入る揚陸艇だって」
「揚陸艇?」
「だってそうだろう?任意の位置に、内部で完結する機関から生み出された兵士たちを送り込める。強襲揚陸艦として最高の機能を備えていると思わないかい?」
「それは……」
「現にダンジョンは現れた当初、何をしたか忘れたわけじゃないだろう?」
「っ!」
30年前の、そして俺にとっては記憶に古くないあの瞬間を思い出す。
ダンジョンは確かに、門を使ってモンスターを送り込んできた。
「おっと、話しすぎたかな。そろそろ終わりにしよう」
ネネはそう言うと、機甲の出力をさらに上げた。
「なっ!まだ上がるのかよ……」
「君と一緒にしないでくれと言っただろう」
節々から緋い炎を噴き出しながら、ネネは着実に一歩ずつ近づいてくる。
機甲の中に鳴り響くアラート音が、なんとか俺の意識をつなぎとめていた。
「さよならだ」
一気にブースターを吹かして、ネネは俺の核を狙って拳を突き出す。
急いで体を起こそうとするも、痛みが俺の自由を奪った。
くそ、これまでか……
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小春は廊下を走っていた。
アンプルをセナに届ける。その一心で、息を切らしながら懸命に足を動かしていた。
こんなことならもう少し訓練しておくんだったな。
そんなことを後悔しながら、しかし足は止めない。
このアンプルは、セナの最後のピースになるはずである。
活動時間を延ばすドリンクを作った際のセナの反応を検査した結果、その効果として、モンスターの一次的なパワーアップが可能なことが分かった。
もちろんセナも例外ではない。
元より強い彼だが、そんな彼が苦戦するときのために急ピッチで仕上げたのがこのアンプルだ。
しかし小春にも葛藤があった。すでに素の力でランク5に渡り合う彼だ。そんな彼が強化されたとなれば、行き着く先は孤高にして孤独な世界だ。それをセナが望んでいるとは思えなかったのだ。
だから渡すのが遅れた。
この戦もセナの勝利だと信じてやまなかった小春の慢心でもあった。
ネネという個体が攻めてきたのを見たとき、それが慢心であったと己で気がついた。
各地に広がった紫色の機甲、そしてネネが纏う緋い炎に、アンプルと同等の力があることを分析したのだった。
敵はベストコンディションで攻め入りにきたというのに、自分はなぜアンプルを先に渡して置かなかったのだと、小春は自分を責めた。
その結果、小春は走ることを決めた。
セナが耐えることを信じて。
そしてようやく到着した小春が見たのは――
緋い機甲に胸を貫かれ、血を吐き出すセナの姿だった。
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「ちっ、ズレた」
ネネはそう言って腕を引き抜いた。
確実に正中線を貫いたつもりだったが、運が良いやつなのかそれとも戦闘の勘か、セナは少し横にずらすことで核を守り抜いた。
「ゴホッガホッ」
「でも、もうしゃべる気力もないか」
ネネは冷たい目で、死に損ないを見下ろした。
ブースターを吹かすまでもない。足で核ごと踏み抜いてやる。
そうして足を上げた瞬間だった。
「させない!」
小柄な人物が、小型ドローンを展開しながら捨て身の覚悟で突っ込んできた。
ネネからしてみれば羽虫みたいな存在だという認知だった。
しかし……
ボンッ
小型ドローンの一つが爆発した瞬間、ネネは機甲の鳴らした警鐘に従って受け身の姿勢をとった。
「ふふふ、想定通りだよ」
小春は笑ってみせた。
爆発した小型ドローンには、最も硬度が高くなるよう磨かれたマナクリスタルが詰め込まれていた。
細分化されたマナクリスタルの破片は、凶器として十分な威力がある。その実、あれほど硬かったネネの機甲に、破片が突き刺さっていた。
「だがマナクリスタルなら……っ!」
「出涸らしだよ」
ドリンクを作る際に成分を抽出したあとの出涸らしのため、飛んだ破片にマナクリスタル本来の力はない。
「だが小娘……小春だったかい?君はどうやって私に勝つつもりだい?」
小春は非力な科学者だ。奥の手の破片ドローン爆弾も、有効打にはなり得なかった。
「でも、私は一人じゃない」
「何を……っ!?」
突如として、ネネは後ろから斬りかかられる。
「なっ!これを避けるっすか!?」
「紬!右に避けて!」
「っと!危ないっす」
ネネの反撃を、紬は右に跳んで避ける。
声の主は、ゆっくりと刀を抜き放つ。
「私たちが相手です」
「……アステリア学園」
ネネは吐き捨てるようにそう言った。
「いいだろう。全て力で押しつぶしてくれる」
ネネは緋い炎をより一層強く纏い、三人の前で空へと飛んでみせた。
最後の戦いが幕を開けようとしていた。




