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TS銀髪ロリでフロアボスらしいけど自由に生きたっていいよな?  作者: 畑渚


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第31話 糸口

「両者構え……競技開始!」


「まいった」


 その後小春ちゃんは、宣言通りあっけなく敗北を認めた。

 小春ちゃんの真価は、デバイスを罠として扱う受け身の戦術。

 そのためには、相手が近づいて攻撃してくることが必要になる。


 じゃあどうすればいいのか。答えは簡単で、近づかずに遠くからチクチクやればいい。

 相手もそれがわかっているのだろう。銃型のなにかとムチでレンジを取る武器構成で挑んできた。


 拍子抜けしただろう。小春ちゃんは一秒もたたずに降参したのだから。


「さて、私の出番っすか」


「やるんだな」


「もちろんっす」


 そういって、丁寧に糸の調整をする紬ちゃん。


「幸い敵もパワー系じゃない。想定通りに事を運べれば……」


「わかってるっす。あ、もういかないとっすね」


 紬ちゃんを見送る。2人で練習した奥の手を、上手く使えるだろうか。

 一抹の不安を覚えながら、しかし何も言えずに俺は紬ちゃんの背中を見つめた。



<=>



「つぎはあんたね。降参するの?」


「そんなわけないっす。私はあんたを倒して次に行くっすよ」


 紬はそう答えて武器を構えて見せた。


「ふん、あんたたちの親玉を引きずり下ろしてあげる」


 相手もそういってムチを構える。


「両者構え……競技開始!」


 審判の言葉と共に、2人はほぼ同時に地を蹴った。

 紬は前に、そして相手は後に


「あんたの得物、近づかないと意味がないだろう?」


「くっ」


 一方的に距離を取られながら、ムチが飛んでくる。紬は攻めっ気のある姿勢のまま、防戦を強いられていた。


「トドメよ!」


 銃型の何か……その先っぽに電極がついてることから、テーザー銃のようだ。


「甘いっす!」


 紬の身体が急にガクンと挙動を変える。糸が見えない相手には、何か別の推進装置を持っているかのように見えただろう。


「何を隠してる!?」


「わからないまま沈むっす!」


 短剣を投げ、敵の後に回り込む。


「その動き……糸か!」


「遅いっすよ!」


 敵の後ろで短剣をキャッチし、巻き取り装置を起動する。

 急速に巻かれた糸は相手を締め上げる。


「どうっすか!」


「いい線いってるよ」


 相手はうつむき、不敵な笑みを浮かべた。


「だが、動きが未熟だね」


 糸が食い込む瞬間、ムチを滑り込ませる。そしてその隙間をつかって、身体をねじってするりと糸から抜けてみせた。


「なっ!?まじっすか!?」


「驚いてる暇はないよ!」


 再び、今度は相手の方が積極的に攻撃を仕掛けてくる。

 ムチの先が、紬の肌に食い込む。青いアザがいくつも肌に浮き上がってくる。


「くぅ!」


「防戦一方ね!」


 競技場を駆け巡って、避けては受け止め、間合いに剣を投げては回収しを繰り返す。


「はぁっはぁっ」


 最初に息を上げたのは、紬の方だった。

 立ち止まって、息を整えるように深呼吸をする。


「もうおしまい?」


「へへ、そんなわけないっす」


 相手がゆっくり近づいてくる。それは警戒であり、勝利への確信でもあった。


「セナちゃんが言ってたっす」


「セナ?」


「とっておきは、とっておきの場面のために取っておくべきだって」


「何を言って」


「この瞬間を待っていたっす。あなたがこうして近づいてくるこの瞬間を」


「なっ!?」


 飛び退こうとするより早く、紬が何かを引っ張る。


「くっ!」


「チェックメイトっす」


 その構造はまるで、クモの巣であった。


 競技場を駆け回りながら散りばめられた糸が、ひとつひとつ意味を以て、紬が引っ張った瞬間に形を成した。


 観客の目からはまったく見えない。そんな仕掛けで、相手の自由を奪ってみせた。


「くっ!こんな細い糸なんて!」


「やめたほうがいいっすよ。肌がモンスター並に頑丈じゃないと、自分を傷つけるっす」


「こんな……きゃっ」


 相手が転ぶ。そう紬が仕組んだからだ。


「動けば動くほど絡みつく。そんな結び方っす。準備に時間はかかるけれど、確実に相手を無力化するっす」


「くっ……まいりました」


「勝者……アステリア学園!」


 競技場が歓声に包まれる。

 またもやアステリア学園は、ジャイアントキリングをやってのけた。



<=>



「くくくっ、そう思ってるんだろうなぁ~」


 負けるために人選したわけではない。ただ、『この程度でやられるならそこまで』と見切りをつけるための彼女のライン引きでしかない。


 真打は、手元にある一杯の菓子を頬張りながら、この『つまらない』試合を眺めていた。


「まったく、一回戦から私の出番~?情けないねぇ」


 今出ている紬はランク3の中でも上澄みだろう。

 だが、真打にとってランク3なんて、子供のお遊びみたいなものだった。


 ランク5、樹梨。大食い女と散々煽りを受ける、ランク5最弱という評判の1人の少女。


「まあいいや。牙門くんのオキニの味見もできるし」


 もはや紬のことは見ておらず、その先にいる彼女のことを思い浮かべていた。


 決してこれは油断ではない。


 彼女の中ではもう勝っているのだ。


「奥の手?温存なんかしてたら、喰われちゃうよ」


 樹梨は、不敵な笑みを浮かべて、選手入場口へと足を向けた。



<=>



「勝負あり!」


 何が……起きた?


 俺は今目の前で起こった現象を、言葉にできなかった。


「ごめんなさい、負けちゃったっす」


「紬は頑張ったよ」


「よくやりましたね、紬さん」


 帰ってきた紬に学園の皆が声をかけている。


 しかし俺の思考は、競技場の中心で俺を待つ相手のことで頭が一杯になってしまっていた。


「セナちゃん、一つだけわかってることがあるっす」


「紬ちゃん……」


「相手の間合いに入ったら、喰われるっす。何をとか理解する前に、負けるっす」


 それは俺にとって、敗北宣告のように聞こえた。


 だって俺は、敵の間合いに入って拳を振るう、生粋のファイターだからだ。


「無責任なことは言えないっす。ただ、ただ……」


 紬ちゃんは一度うつむき、無理やり笑顔を作って顔を上げた。


「絶対勝ってほしいっす。仇は任せたっすよ」


「ああ、任せとけ」


 言葉ではそう強く言えるものの、俺は得体のしれぬ敵の異能に、不安がないかと言われれば嘘になる。


「セナさん、大丈夫ですか」


「ああ。問題ない。全部ぶっ飛ばしてやる」


「一つ、アドバイスになるかはわかりませんが……」


「なんだ?」


「彼女はランク5の中でも、暴食と呼ばれています」


「それが何か異能の糸口になるかもしれねえと。わかった」


 何事もやってみなければわからない。

 俺は不安をぐっと堪え、拳を固く握りしめた。


「任せろ。ここで勝って、学園再建に一歩近づけてやる」


 自分に言い聞かせるように、再びそう言って覚悟を決めた。


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