第21話 未踏破領域探索
「……ここか」
手元の地図と照らし合わせて、先の空間を覗き込む。
そこは今までと変わらぬダンジョンの一角だ。
しかし決定的に違うのは、未だ誰も足を踏み入れていない未踏破領域だということだ。
不定期に変遷が起こる都合上、マップ情報は常に更新される必要がある。その更新の任を担うのも、探索者の仕事の一つだ。
「紬ちゃん、カメラの準備は?」
「ばっちしっす」
紬ちゃんは最新型のメガネ埋め込み式カメラを構えてみせた。
「偵察を飛ばしてみるかい」
「ああ、頼む」
普段なら使わないような重厚な箱をとりだし、開く。中には小さなドローンが入っている。
小春ちゃんは慣れた手つきで操り、ドローンは飛び立っていった。
「む?」
「どうかしたか?」
「通信が切れた。故障にしてはおかしい」
「そうやすやすと情報は渡してくれねえってか」
面白くなってきた。
だって、ドローン飛ばしてハイ終わりじゃ面白みが足りないじゃないか。
俺達は探索する者たち、探索者だ。
「陣形は打ち合わせ通りで頼む。莉子会長、行けるか?」
「はい、問題ないです」
俺と莉子会長が同列で先頭。俺は持ち前の戦闘能力で、莉子会長は異能を使って脅威を排除する。
紬ちゃんは今回は荷物持ち兼撮影役だ。つまらない役だろうに張り切って手を上げてくれた。
小春ちゃんはマッピング担当。といってもいろんなセンサーをつけて歩いてるだけでマッピングできる発明品をつけてるだけらしいが。
「よし、じゃあ進むぞ」
俺はそう言って、未踏破領域への一歩を踏み出した。
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「ふっ!」
拳が敵の核を撃ち抜く。
「はぁ!」
莉子会長の方もトドメを刺したらしい。
「いまのところ問題はないな」
低層にも現れるウルフ型モンスターの群れに、俺達は囲まれていた。
しかしこちとらランク4とランク3のコンビ。この程度の敵に遅れを取るようなヤワな身体はしていない。
「セナさん、返り血が顔に」
「お、すまんな」
莉子会長がハンカチを差し出してくるが、さすがに申し訳ないので服の裾で拭いた。頑丈な布で仕立ててあるからゴシゴシ洗えるしな。
さて、ここまで進んできたわけだが、ドローンの残骸は未だ見当たらない。
「小春ちゃん、本当にこっちの方向で合ってるのか」
「あってるはずだがね……ここにもないか」
「うーん、ないっすねぇ」
全員で辺りを探すものの、ドローンは見当たらない。
「もしかしてモンスターが食べちゃったとかじゃないっすか」
「そうならないように、全体を舐めるととてつもなく苦みを感じる素材でコーティングしてあるんだよ」
「ゲームカセットの裏のアレっすね……」
あの誤飲防止用のにっがいやつね。みんな聞いて試してみては後悔するやつ。
「たしかにこの辺りで通信が……あっ!」
そういって小春ちゃんが前に出た。
「ドローン、あった」
そういって前にでた小春ちゃんがドローンの残骸を拾い上げた時だった。
「……っ!小春!」
莉子会長が敬称すらつけずに叫んだ。
そして次の瞬間、目に止まらぬスピードで前に駆け出す。
俺は反応が遅れた。
「ぐるるぅぅぁぁ!」
スローモーションではっきりと見えた。
反応できずに動けないでいる小春ちゃん。
視えた未来を回避するべく、身体を投げ出した莉子会長。
影に隠れていたウルフ型モンスターの鉤爪が、莉子会長の背中を割く姿。
「莉子会長!」
「はぁっ!」
持っていた刀で薙ぎ払い、ウルフ型モンスターは消滅した。
「莉子会長!大丈夫っすか!」
「ええ、この程度問題ありません」
「いや、問題大アリだろ……」
背中を隠そうとする莉子会長を捕まえ、背中の傷を覗き込む。
厚い布地は切り裂かれ、傷口からはドクドクと血が流れ出ている。
「調査は中止だな。帰り支度をしよう」
「ま、待ってください」
莉子会長は、そんな状態でなお、俺達を引き止めた。
「せっかくの認可です。このチャンスを無駄にするわけにはいきません」
「でも莉子会長、その傷じゃ無理っす!」
「このくらい大丈夫です。このチャンスの大きさに比べたら……」
困ったことに諦める気はないらしい。
しかし、こう押し問答している時間すら惜しい。
「わかった」
「セナちゃん!?何する気っすか」
俺は紬ちゃんからメガネを強奪する。
「ここから先は俺が行ってくる。小春ちゃんもセンサ類くれ」
「本当に1人で行く気かい?」
「当たり前だ。今の莉子会長を1人にはできないし、帰るにも守る人と戦う人の二人が必要だ」
「いけません!また貴方は1人で危険に飛び込むつもりですか!」
「莉子会長。落ち着いてくれ」
あまり騒ぐと傷口に響くぞ。
「マッピングにグレネードの実証試験。どっちも俺1人で十分だ。そう視えないのか?」
「私の目はそんな万能なものでもないですよ……」
莉子会長はしばらくうつむいた。そして顔を上げたときには、晴れやかな顔をしていた。
「セナさん。また貴方に任せてしまいすみません。でもこれだけは必ず約束してください」
「なんだ?」
「必ず、私たちのアステリア学園に帰ってきてください」
そんなもん、答えは決まってるだろう。
「必ず帰るさ。だから安心して先に帰ってろ」
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――ダンジョン最深層
ポテチの袋や空のペットボトルが散乱する部屋にて、ソレは1人で惰眠を貪っていた。
「んん……んあ……?」
暗い部屋を、いくつものモニターが、いや、モニターのようなナニかが薄暗く照らしていた。
モニターには、このダンジョンに潜る探索者たちが映し出されている。
「ようやく1人になったか」
その画面の一つに、ソレは興味を持つ。
マウスのような端末で、その画面を拡大した。
「まったく困るよ。勝手に逃げ出しちゃ」
モニターに映る彼(あるいは彼女)は、何かを感じ取ったのか身震いをしてみせた。
「失礼します」
ガシャリと音を立てて、部屋の扉が開く。
入ってきたのは、人間に見えた。
しかし決定的に違うのは、身体のところどころに爬虫類のような鱗が露出しているところだろう。
しかもそれを見せつけるかのような露出の多い改造メイド服を着ている。
彼女の名誉のために言っておくが、格好に関してはソレに命令されたせいである。
「ご主人様。また散らかして……」
「掃除も君の仕事だろう。君に仕事を与えるためにやってるんだよ」
トンチンカンなことを言いながら、ソレは空になったお菓子の袋を投げ捨てた。
「さて、と。再会といきますか。あっちは覚えてないだろうけど」
ソレは、ケタケタと嗤いながら、端末を操作した。




