第20話 未踏破領域
「未踏破領域?」
「はい、今回の目的はそこです」
アステリア学園の講堂こと会議室に集められた俺たちは、莉子会長から説明をうけていた。
「質問っす!未踏破領域は認可されてないといけないはずっす!」
「紬ちゃんの言うとおりです。ですので取ってきました」
そう言うと、ばさばさと書類の山を掘り起こして、おおきく「許可」と押印された書類を掲げる。
「すごい。あれほど複雑な手続きをやったというのかい」
「知ってるのか!小春ちゃん?」
「ああ。とんでもない時間の手間がかかる魔の認可手続きさ。世の中にはその面倒さ故に未踏破領域を諦める探索者もいると聞く」
「だから最近莉子会長忙しそうにしてたのか」
1人バタバタと動くのはいつも通りだったが、その度合いが最近ひどく大変そうだなと思っていたところだった。
「ええ、コホン。それで、許可が下りたため、未踏破領域の探索をします。そこで今回は、スポンサーになってくれる方をお呼びしています。どうぞ、中へ」
莉子会長の声とほぼ同時に、バンという音とともに、会議室が開かれる。
「お、お前は…!?」
「あら、会ったことあったかしら?ごきげんよう皆様」
赤毛を2つ結びにした髪型。見覚えも会ったもなにも、あの変遷の1件で救い出した……
「朱雀商会の朱音と申しますわ」
「えぇ!朱雀商会っすか!あの!?」
紬ちゃんが大きすぎるリアクションで驚いている。それくらい有りえないことが起きているということだろう。
「ええ、今回ご協力させていただきますわ」
「ちょっと莉子会長!どんな手を使ったっすか?こんな場末の学園に朱雀商会の協力なんて」
「紬、ちょっと落ち着きなさい」
「えーでも……はい、失礼したっす」
莉子会長の鋭い眼光が紬ちゃんを沈静化させた。話が進まなくなるからね。
「今回、快く引き受けてくれました。変な交渉はしてませんからね」
そう言われると余計怪しく感じてしまうのはなぜだろうか。
「何も無報酬で受けたわけではありません。コレの実証試験をお願いしたいのです」
そう言って、朱音ちゃんはこぶし大のなにかを取り出す。
「んーと、グレネードか?」
それは手榴弾に似ていた。といっても写真で見たことある程度の認識だが。
「半分正解です。基本構造は破片型手榴弾と変わりありません」
コロコロと手の上を転がしながら、朱音ちゃんは説明を続ける。
「問題は飛ばす物です」
「なるほど」
ひょいとモノが小春ちゃんに渡る。小春ちゃんは投げ渡されたそれを見て、瞬時に構造を把握したようだ。
「小さい何かを先に封入しておくのか。そしてそれを飛び出させる構造だね。遊戯のサバゲーで使われるBB弾手榴弾に似ているね。まあバネと爆薬とと言う大きな違いがあるがね」
「さすがは小春様ですわ。そして飛ばすものがこれです」
そう言って取り出したのは紫色の鉱石だ。ダンジョンに潜っているものなら誰しもが知っている――
「マナクリスタルっすか?」
「ええ、そのとおり。私どもの研究では、これで厄介なスライム状の敵を無力化できるはずだと報告されています」
あっこれなぜか知ってると思ったわけだ。
変遷事件の時に俺がやったことだ。
スライム状の敵がマナクリスタルの破片は吸収しない特性を利用した貫通攻撃。これが実用化したら、探索はぐっと楽になるだろう。
「これの効果確認が今回の支援条件です」
「ありがとうございます朱音さん」
莉子会長の礼にあわせて、俺達も礼をする。
確かに危険なダンジョン内試験とはいえ、うちのような弱小校に頼むのは少し不思議な気もする。
朱雀商会ならもっと大手の探索者にも頼めたはずだ。
まあそこは、莉子会長の営業力ということで一端は話を片付けることにする。考えてもわからないからな。
「それじゃあ今回の目的は、未踏破領域のマッピングとグレネードの効果確認か」
「はい、そのとおりです。なにか質問はありませんか」
莉子会長の問いに、静寂で答える。
「それでは、向かいましょうか」
各々装備とともに、ケースに丁寧に梱包されたグレネードを渡される。
爆発物の個人所有。これが法に触れない今の日本って結構ヤバいんじゃないかなんて頭をよぎった。
でも法の難しいことなんてわからないので、そこら辺の管理は莉子会長あたりに任せて、俺は未踏破領域に向けて集中することにした。
「よし、じゃあ出発だ」
なんと今回は送迎付き。悠々自適に、門へと車で送ってもらったのだった。
<=>
「検討違いかしらね」
朱音は出発したアステリア学園の面々を見送りながら、そう呟いた。
彼女もいずれは朱雀商会を動かす運命にある発言力のある人間だ。
今回の効果確認の任務は、そんな彼女が、たまたま支援協力のお願いに来ていた莉子を呼び止めたことから始まった。
これを機にアステリア学園とのコネクションを作っておこうという算段である。
なんていったって、今や配信によって一躍有名な銀髪探索者、セナのいる学園なのだから。
というのは建前である。
朱音には一つ、確信があった。
あの変遷の際、門から出た際にいたのは、門兵と救急隊。そして朱音を置いていった(そう朱音がさせた)仲の良い幼馴染。そして、莉子を初めとするアステリア学園の面々であった。
他の探索者もいたものの、まるで変遷中に生徒を巻き込まれたかのように突入しようとしていた莉子の姿は、痛みで朦朧としていた意識の中でもはっきりと覚えていた。
後から調査したことだが、あの変遷で巻き込まれたのは朱音1人であると門の入退履歴で判明している。
しかし、都合よく、その場のアステリア学園の面々には、一際目立つ容姿の生徒が1人欠けていた。
「そう安々と尻尾を見せてはくれないということね」
朱音は再び誰にも聞こえぬよう、そう呟いた。
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