大人の友情
午後になり、少し空が曇ってきました。私は少し心配しながら作者を待っていました。
私は作者の物語の主人公。時影と申します。
作者は物語の展開に詰まると私のもとにやってくる。
私はそんな作者の為に美味しいお茶を淹れて待つのです。
秋の夕暮れはつるべ落としの様と言いますが、今年は夏から秋の気温がつるべ落としのように下がってしまいました。今回はいいワインが手に入ったので、紅茶に砂糖とワインを加えてシェルパティにしましょうか。
しばらくすると、作者がやってきました。
私は彼女を招き入れると、用意していた紅茶を淹れました。
今回はダージリンのセカンドファラッシュで。少し濃いめに淹れてみました。
デザートには、かぼちゃを使ったプリンケーキ。5号のケーキ型を使ってホールでテーブルへ。
嬉しそうな作者の驚く顔が心地よいです。
「今回、イベントのテーマ『友情』なんだ。」
2杯めの紅茶を飲む頃、作者はぼやくように言いました。
「友情、ですか。ラノベの永遠のテーマですね。」
私は無難に言いました。
「そうね。」
作者は私をチラ見してそれだけ言ってため息をつきました。
「どうしたのでしょう?」
その様子に私は少し心配になりました。友情。このテーマはそんなにこまるものなのでしょうか?
大体、私の作者は、友達と慰安旅行に行くために7年以上も投稿をしてきたのです。確かに、友人の剛さんが亡くなって夢は叶いませんでしたが、友情の小説でゆきづまる様なことは無いと思うのです。
「うん、友情、考えると面倒な題材なんだよ。『友』なら、変わった人物を表現すればいいんだけれど、友情って、友達を思う心。だから、これが面倒なんだ。」
作者は渋い顔をした。
「それなら、今までの創作活動を書いてみてはいかがでしょう?」
私は剛さんの事を思いながら聞いてみた。
「それ、結構、面倒くさいんだよ。今まで考えなかったけれど、小説の友情って、
友達を裏切らない
友達が困っていたら全力で戦う、もしくは、守る
みたいな感じでしょ?でも、現実って、そんなに割きれないし、大人になると、というか、いい年齢になると、もっと、大雑把でカオスなのよ。」
作者はため息をつく。
「どう言う事でしょうか?」
私は作者にお変わりのお茶を、ミルクティで入れた。
「確かに、考えたわ。剛は愚鈍だし、面倒くさがりなんだけれど、本当に困っている時は、結構行動力があるの。
一度、とんでもない寒波が来て、電車が止まった時があったのよ。
家から1時間もかかるところで、ここから先、どうしていいか、わからない。そんな場面で剛が私を車で迎えに来てくれたのよ。」
作者は話しながら、その時のことを思い出したように少し口元を緩めて俯いた。
「いいではありませんか。その話を書いたらどうでしょう?」
私の言葉に、作者は少し困ったように笑った。
「そうね、確かに、剛が来てくれたのは嬉しかったわ。でも、だからって、来なかった友達を悪くも思っていないのよ。友情って、『何かをしてもらって嬉しい』と言うのも友情なら、『何かをして貰えないことを許す、その人の状況に思いを寄せる』のも友情だと思うのよ。
私からしたら、どちらの友人も好きだし、どちらの友情も同じように大事なのよね。」
作者はそう言ってミルクティを天井を仰いで飲んだ。
「そうですね。年齢を重ねると、さまざまなものが見えてきますから。」
私は作者を見て過ぎ去った時を思い出していた。
「でもさ、なんか友情でネットで調べていたら、WEBラノベって、友情が描けないって、そんな意見を見つけたよ。私、友情が描けないのって、やっぱり、WEBで小説書いているからかな。」
作者は渋い顔をする。
「そんな事は無いと思いますよ。」
「そうかな、思うと、私も、友情の物語なんて書いてない気がするもん。
でも、仕方ないよね。だって、WEB小説の話なんてリアルじゃ誰も聞かないか、変に歪曲して伝わるんだもん。
みんな私の作品には興味がないのよ。上級作家の話とか、書籍化する話、金の話ばかりだし、下手に話すと、面白話として他の人たちに身バレしようとするしさ。」
作者は毒を吐くように言った。
「まあ、小説を書いていると聞いたら、他の人に話したくなる気持ちはわかりますけれど。確かに迷惑ですよね。」
「うん。私の時代は、小説家とか言ったらテレビとかでも取りあげられる自慢できる人みたいに考えられるから、WEB小説の色々を理解させるのは難しいし、やっぱり、リアルの人とはそんな
話はしないから、真面目に連載を書いていると友達減るんだよ。最近、躍起になって小説書いていて、なんか、リアルな友達との距離が広がった気がする。」
作者はケーキを口に入れてしばらく黙っていた。私も黙ってそれを見つめていた。
「私、なんか変なのかな?いい年して、小説をこっそり書いてさ、友達は自分の想像したチャラクターとかと話してさ、ネットでも笑われてるのかもしれないわ。」
作者はぼやく。その言葉が私に突き刺さる。
それでも、私は貴女とこうしていられた事がとても、とても、楽しかったです。
「何か、すいません。」
痛い胸で私は謝った。私がいなければ、作者はリアルな誰かと話しながら楽しく小説を描いていたのかもしれない。そう考えると切なくなる。でも、切なくはなっても、この時間を手放したくない自分のはしたなさに胸が潰れそうな気持ちになるのです。
「は?」
と、ここで作者は驚いたように私を見た。そして、一呼吸を置いて話を続けた。
「何言ってるのよ。あんたがいなかったら、とっくに止めてたわ。それが良かったか、悪かったか、は、わからないけれど。でも、ここまで来たら、なんか完結させるわ。そして、評価の流れ星を浴びながら、『星の金貨』の主人公のような気持ちに浸って、好きなBGMで世界観に浸りながら泣くんだから!
頑張るのよ。負けても私たちには、読者の一杯で終わるノーマルエンドが設定されたんだからっ。
いいのよ。空想が友達のイタイ人間でも。
さ、頑張って書いてゆこう。」
作者はいきなりやる気に火がついて私に笑いかけた。
「はい。」
私は小説を書きはじめた作者の横で込み上げるこの気持ちの名前を考えていた。
暖かく、嬉しく、それでいて、どこか罪悪感が込み上げる、切ない気持ち。
人はこの感情を 友情 と言うのでしょうか?それとも…




