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終章8




 武蔵は意識が覚醒していくのを自覚した。

 霞む視界が焦点を合わせていき、やがて白い天上を認識する。

 しばし緩慢に思考をとりとめもなく走らせていた武蔵であったが、はたと我に返った。


「生きてる」


 起き上がる。

 そして、自分が拘束されていることに気が付く。

 まさかやっぱり人体実験かと震えたが、それは宇宙空間で眠る時に使う簡素なベルトであった。

 ベルトを自分で外し、自由の身となる。

 ふわりと身体が宙に浮かび、天井に手をついて跳ね返った。


「どこだ、ここ」


 宇宙船の船内であることはすぐに気が付いた。

 だが護衛艦やまとではない。見覚えのない宇宙船である。


「いや、違う。見覚えあるなここ」


 部屋を見渡して、武蔵は幾らか気付くことがあった。

 ここは―――最初の何度かで武蔵が目覚めていた、漂流する宇宙クルーザーの中だ。

 つまり本来のスタート地点。


「俺、また未来に来てしまったのか」


 愕然とする武蔵。

 想定外の、予想外の状況だった。

 過去でコマンドを発動したことで想定外の異常が生じたのか、ハカセを倒したことで何か新しい原理が働いたのか。

 困惑しつつも部屋の中を調べていると、隔壁を兼ねた自動開閉の扉が開いた。


「あっ」


「あっ」


 その人物とお互いに目が合う。

 部屋にやってきた、見知らぬ男。

 いや誰だよと思う武蔵に対して、男は朗らかに笑った。


「ああ良かった、目が醒めたのか。大丈夫か? 変なところはないか?」


 話を聞けば、武蔵は救命ポットで漂流しているところをこの船に救助されたらしい。

 ブリッジに連れられて受けた説明を聞く限り、そこはやはり武蔵がかつてリスタートしていたクルーザーであった。

 よくよく見れば、男にも見覚えがある。

 かつてクルーザーを探索した時に、写真で見た顔だった。


「あん、貴方は核融合炉の技師の……」


「ん? そりゃ親父だ、何だ親父を知ってるのか?」


「親父? あ、いやなんでもないです。すいません勘違いでした」


 このクルーザーの乗員の情報が今更出てくるなど武蔵も思っておらず、覚えていなかった。

 武蔵はこの船の住人についてリーダーであるらしい起業家の男の日記越しに知ったが、その最後の日付は50年前なのだ。世代交代していて当然だった。

 訝しむ男に半笑いでごまかして、ブリッジを見渡す。

 細かな情報は忘れがちだが、景色というのは案外忘れにくいらしい。武蔵はそのブリッジについて既視感を覚えた。

 もっとも、武蔵の覚えているブリッジは一面のガラスが少隕石の衝突跡だらけになったものだった。

 現状この船にも細かな傷や跡はあるが、充分に整備されていると言っていい。


「この船は昔、物好きの爺さんが隠居に使ってた小さなコロニーでな。さすがに爺さんは死んだんだが、今もこうして住人はいるんだ」


「世捨て人みたいな集まりなんですか?」


「いやいや、このご時世、世捨て人なんて出来ないよ。物資や修理パーツは近くのコロニーから買い付けているさ」


 からからと笑う男。

 まったくもってその通りだ。こんな中型クルーザーを内部循環型のコロニーとして使うには無理がある。


「船長、こいつがあのポッドの人間です」


「あ、どうも。助けてもらったみたいでありがとうございます」


 武蔵は純朴そうな雰囲気を演じつつ、船長と呼ばれた女性に挨拶をした。

 彼女の顔は知っていた。起業家のひ孫だ。

 テロメア伸長措置を受けているのか、その姿は若々しい。日記の主いわく「美女」らしいが、武蔵が直接見た感想としては愛嬌のあるタイプに思えた。

 適当に挨拶を交わし、既に警察には連絡をしていると説明するひ孫さん。

 武蔵は礼を伝え、迎えがくるまで船内で過ごすこととなった。







「UNACT? ああ、百年前に暴れた宇宙怪獣だろ? それがどうかしたのか?」


 技師の息子は、あっけからんとそう言った。

 食堂で飯を食べつつの雑談。未来世界では味わいにくい豪勢な料理に感動しつつ、武蔵は現状を探る。


「地球滅亡とか、してません?」


「してねーな。確か暴れだして1ヶ月くらい経って、いきなり活動を停止したんだろ? 地球の細菌にやられたんじゃないかって話だぜ」


 古典SFじゃないんだぞ、と武蔵は苦笑いした。

 どうやら三笠のコマンドは正しく機能し、UNACTは壊滅したらしい。


「それから?」


「いやそれからって訊かれても……色々あったとしか」


 当然であった。武蔵だって過去100年の出来事を教えろと言われても困る。

 ならばこの船について教えてほしいと雑談風に訊いてみれば、あの日記とは色々と差異があることがわかった。

 起業家の爺さんは死んだが、ひ孫も、メカニックも生きていた。

 この船はちょっとした村のようなものらしい。小さな事件はあれど、殺し合いも起きない平和な場所になっていた。

 まるでパラレルワールド。平行世界に来てしまったかのよう。


「いや、まさにそうなのか。むしろ歴史的にはこっちが正史と呼ぶべきなのか?」


 ヨーロッパの半島産チーズを使ったチーズハムカツを噛み締めつつ、武蔵は思う。

 高級チーズをこんな庶民的な揚げ物に使うな。


「それで、あんたのことを聞いていいか?」


「ん、ああはい。俺は、セルフ・アークに住んでる学生です」


 セルフ・アークがなくなってたらどうしようと思いつつ答えたが、幸いそこにリアクションはなかった。


「なんだ、見た目通りに若いのか」


「はい、ナウいヤングです。どうして漂流して眠っていたのかは、ちょっと解らないです……」


 いい感じに記憶障害を演じる武蔵。

 不憫そうな視線を向けつつ、男は頷いた。


「そうか……まあセルフ・アークには数日後に買い出しに行く予定だから、そのときに連れてくよ。航宙警備隊の船を呼ぶより早いだろうし」


 この予定は既にブリッジで聞いて、武蔵も了承していた。

 先方にもそう伝えられているとのことだったが、武蔵はこの時点で一つ疑問を抱いた。


「航宙警備隊……? 高空保安庁じゃなくて?」


「それってセルフ・アークが日本から独立する前の呼び方じゃなかったか?」


 武蔵はようやく気付いた。


「そう、か。あそこはもう、日本じゃないのか」


 武蔵の軽い驚きに、男は困惑する。

 元々セルフ・アークは宇宙国家として史上初の独立を果たす予定だった。未来世界でも日本領だったのは、世界が滅んで亡命政府が乗り込んできた流れでしかない。

 この世界はUNACTが活動を停止し、世界が滅ばなかった。

 当初の予定通り、人造国家であるセルフ・アークは日本から独立したのだ。




完結間際です。

あと2話。

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