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被虐の魔王〜異世界で家族になる〜  作者: 葉月十六夜
南の大森林
66/139

Story.65【部隊長】


「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「何か苦労しているのか?」

「ちょっと黙ろうか?」


 ―――苦髪楽爪だっけか? 何でこんなマイナーな四字熟語知ってんだコイツ。


 里の修繕指揮を執っているデルフィノームが、帰って来た俺をまるで奇妙な物を見るような視線を向けて来た。

 しかも間を取って捻り出した言葉がそれだ。

 俺がデルフィノームを睨み返すのは言うまでもない事だ。

 というか、今俺のは肩から胸元に垂れ下がった長い後ろ髪が気になってしょうがない。

 

 ―――まさか“等価交換トレース”した物が、()()()()()()()()()()だなんて、今まで知らなかっただけに軽くショックを受けている。


「あ~! やっぱ気になる! サクラぁ、髪結ってくれない?」


 言い忘れていたが、“等価交換トレース”した物はその主導権を持つ物が許可を出せば誰でも触れられるようになる。

 故に俺は長くなった髪を両手でまとめ、サクラに結ってもらうようお願いした。

 すると……


「はい! お任せ下さい!」


 満面の笑みを浮かべ、心底楽しそうに俺の髪を結い始めた。

 何処から取り出したのか分からない濃桃色ピンクのリボンを蝶々結びにして、満足気に「出来ました!」と報告してくる。

 

 ―――女性の様に艶やかなロン毛を濃桃色ピンクのリボンで束ねられるとは……何故だか男として、実に複雑な心境に陥る……


 まぁ俺が一番心中穏やかでない理由は、満面の笑みを浮かべるサクラの後ろで肩を揺らしながら笑いを堪えているグウェンの姿が見えているからなのだが……


「お前後で覚えてろよ…」

「ヒッ」


 魔力のオーラをグウェンに向けて放つと、面白いぐらい背筋を正して顔を引きつらせた。

 一人何が起きたのか知らないデルフィノームが、サクラに視線を向けた。


「またしても“半人半魔デミ・アンデッド”のちからを使ったな。サクラの魔力が上がっている」

「はい。ヨウ様にお願いして、私も魔術を授かりました」

「魔術の譲渡だけでここまで変わるか……」


 と、デルフィノームはサクラの頭部を凝視した。


「お前、髪はどうした?」

「あぁ。俺の魔術とサクラの髪を“等価交換トレース”したんだ」

「………………ほう」


 それを聞くと、デルフィノームがさっきのグウェンと同じように顔を顰めた。

 

 ―――や……やっぱり……鬼女オグレスの髪を頂いちゃったのはマズかったのかな…?


 後悔した所で後の祭り。

 後で咎められる様な事があれば、甘んじて受け入れよう……

 などと心中で不安を感じているが、髪を譲渡品に選んだ当人のサクラは全く気にしていない様子……


 ―――それが逆に怖い…!


「と、とにかく……今からまた会議を開く! 内容は、鬼人族オーガ全体に昨晩考えた『対・女蛇族ラミア対策』を把握してもらう事。各部隊の代表にも今日は参加してもらう。招集をかけてくれ」

「了解した」


 グウェンとサクラが各自、里に散らばる部隊長を呼びに向かった。


「ローソゥ。会議中の間、外の見張りについてくれ」

「分かった」


 ローソゥは風の様にその場から消えた。

 デルフィノームは作業に勤しんでいた鬼人族オーガ達を解散させ、真っ先に会議所へ向かった。

 そして、その横を通り過ぎてアングが俺の許へ駆け寄ってくる。


「マスター! 一体今まで何方どちら……へ―――」

「ゴメンなアング。ちょっとサクラに“等価交換トレース”を―――アング?」


 アングが口を開いたまま固まって動かなくなった。


「あ…」


 ―――……この長くなった髪の事、ちゃんと説明してあげないとな……



「幹部と各部隊長。集まってもらった内容は他でも無く、近日中に攻め込んで来るであろうと予測される三大将さんだいしょうの一人。“妖麗ようれい・ユリオス”とのいくさ……その対戦策を共有してもらう為だ」

「「「はい!」」」


 招集された部隊長は全部で3つ。

 ローソゥ管轄の偵察部隊より一名、グウェンとデルフィノーム管轄の交戦部隊より二名、サクラ管轄の護衛・医療部隊より一名。

 偵察部隊長―――黒角コッカクのサン。

 交戦部隊長―――黒角コッカクの剣士アーグラム、白角ハッカクの槍使いムック。

 護衛・医療部隊長―――白角ハッカクのゼラ。

各部隊長に任命されたオーガ四名が、俺の前に片膝を着いて返答する。


「尚、この会議から以降も各部隊長には話し合いに参加してもらう予定だ。里の修繕もあって忙しいとは思うが、出来る限り参加してくれ」

「承知致しました」


 サンが代表して返答した。

 四人は顔を上げ、用意した席にそれぞれ腰を下ろす。


「先ずは昨晩の話し合いの結果を伝える。ずばり、俺達は女蛇族ラミアを―――迎え討つ」

「迎え討つ?」


 その発言に、白角ハッカクの交戦部隊長のムックが不思議そうに首を傾げる。

 ちなみにムックは俺より年下の少年だ。

 この中でもサクラの次に若い。


「向こうが攻めて来るんだから、迎え撃つのは当然っしょ?」

「そうだな。悪い、言葉足らずだった。正確には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事だ。あくまで里内部の警備を固める」

「発言を宜しいか?」


 挙手した黒角コッカクの剣士ことアグーラムが口を開く。


「おう。許す」

「失礼ながら、その作戦は愚行かと考えます。自ら行動範囲を狭めてしまっては、頭領と同じ三大将さんだいしょうが率いる部族を討つなど、勝機が全く見えませぬ。ましてや里を戦場にするなど……」


 アグーラムの言う事は尤もだ。

 只でさえ数の減った部族が勝負に勝つには、短期間で個々の実力を伸ばすか、奇襲を仕掛けるなどの対策が必要。

 しかし、前者に至っては正直に言うと無理だ。

 双方の鬼人族オーガ族の生き残りは数少ない男と魔力の乏しい老人や女子供ばかり。

 到底短期間で一族全体の戦力を向上させられない。

 一人ずつに“等価交換トレース”で魔力を譲渡……何て考えが一瞬頭を過ったが、すぐに否定した。

 そんな事をし続けたら里中が怠慢になりかねない。デルフィノームやグウェン達の様な里の頂点に居る者と明白な差があるからこそ、精進する事を続けるのだ。


 ―――鬼人族オーガの里だけに、ここは心を()にしないと…!


「アグーラムの言いたい事は分かる。この作戦を実行する意を固めた理由を話そう」


 そう言って、俺は右手の指を3本立てた。


「理由は三つ。一つ、向こうには()()()()()()()がいる事。二つ、此方にはその騙し討ちの天才の思惑に正面から打ち克つ策を講じられそうな者がいない事。そして三つ―――」


 俺は三つ目の理由を強調した。


「ユリオスに()()を仕掛け、確実に勝利する為だ」

「それは、どういう…?」


 アグーラム含め、他の部隊長達も首を傾げる。


「さっき俺は、女蛇族ラミアを里で迎え撃つと言ったが、それと同時進行で彼方の指揮を執っているユリオスを降伏させるまで追い込む。所謂、両面作戦ってだ」

「お、お待ちを……つまりは、里で奴等を迎え撃つ陣営と、その合間を縫って本体ユリオスを討つ陣営の二手に分かれると?」

「そういう事だ。だからこそ、交戦部隊長を()()選んだんだ」


 質問を投げかけた当人アグーラムが「信じられない!」とでも言いた気な顔をしている。


「無謀です! 数が優位な状態であれば上手く揺動も出来たかもしれませぬが、此方は30名程度で、しかも殆どが魔力の拙い者ばかり! とてもその様な無謀な策を実行出来るはずがありますまい!」


 アグーラムはあたかも自分の方が正論を述べていると言いたげな強い口調で物申した。

 だが、その勢いは己の里の頭領の発言によって沈静化する。


「ほう。()()()()に異議申し立てるつもりか、アグーラム?」

「ッ―――!」


 その声に、目に見えてビクつくアグーラム。

 デルフィノームに睨みを利かされれば、大の大人でもそりゃあ委縮せざるを得ないけどね。


「デ、デルフィノーム様……今、何と?」

「二度も言わす気か? まぁ、納得いっていない様なら、もう一度だけ言ってやろう」


 そう言うと、デルフィノームは眉間の皺を深くしてアグーラムを、その大柄の体躯を大活用して見下した。


心優しい白角ハッカクの治療師―――『ゼラ』

名前由来―――ゼラニウム『君がいて幸せ』

※ビオラの恋人。


黒角一コッカクいちの剣士―――『アグーラム』

名前由来―――アゲラタム『安楽』


若き白角ハッカクの槍使い―――『ムック』

名前由来―――ムクゲ(槿)『尊敬』

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