Story.66【両面作戦】
「もう一度だけ言ってやろう。対・女蛇族改め、対・ユリオス―――その戦略をな!」
デルフィノームがその大柄な体を立ち上がらせ、己の発案した策にケチを付けたアグーラムを見下す。
「も、申し訳ございません!」
意図せず自分の種族の頭領であるデルフィノームの策を否定した事で、顔面蒼白になりながら謝罪した。
「まさか、頭領のお考えになられた作戦とは………私の軽率な発言を、どうかお許し願いたい!」
「フンッ。発案者が俺でなくとも下らん事を言うな」
頭を下げるアグーラムの後頭部を平手でテシッと軽く叩き、デルフィノームが部隊長達を見渡す。
「他の者も勘違いしている様ならよく聞け。これから我ら鬼人族族が取るべき戦略は、犠牲となる者を出さぬ事が必須条件だ。今回の両面作戦を取るのもまた、命を落とす危険性を限りなく下げる為だ」
「お、恐れながら、どういう事で……?」
「チッ。まだ話の途中だろうが…」
「ッ…!」
またも口を挟むアグーラムをデルフィノームが鋭すぎる視線で睨み、黙らせた。
真剣に作戦内容を理解しようとするからこその質問なんだろうけど、相手がデルフィノームではその都度答える訳も無く、自分の話を一方的に進めてしまう。
―――ちょっとアグーラムが不憫だけど…
「確かに戦力に置いて、今の我々は二里が一つに再集結しようが物足りん。そこを更に分配して立ち向かうなど、何方か一方の戦況が乱れればもう一方も総崩れよ」
だが―――と、デルフィノームは続ける。
丸めた地図をサンから手渡され、机の上に広げる。
描かれている範囲は狭く、道も少ない。
恐らく、この大森林を中心とした近辺の地図だろう。
デルフィノームは更に複数ある黒い石と、同じ数の白い石を地図の上にばら撒いた。
石が置かれる場所から察するに、黒い石は俺達で、白い石は女蛇族の配置を現しているみたいだ。
「我々は二手に分かれ、里を護衛する人員に全体の九割を置く。戦えぬ者も当然里に残ってもらう」
「九割もですか!?」
思わずどよめいた部隊長達をデルフィノームが視線で威圧する。
―――俺より大柄な部隊長達が、まるで雷親父に叱られる子供の様に委縮してしまっている。不憫だ……
「デルフィノーム。少しくらい意見を述べさせてやれよ? 意志統一大事だろ?」
「………ふん」
完全に委縮する部隊長達の様子を見かね、デルフィノームの横からグウェンが助け舟を出す。
「まぁ普通に聞けば愚策に聞こえるだろうさ。けど、残り一割に振り分ける人員を聞けば、ある程度理解も出来るんじゃないか?」
「そ、それは、どういう?」
グウェンの介入もあって、同じ里の出身のゼラが質問を口にした。
「この一割に振る人員は、ローソゥ、アグーラム、そして頭目のヨウだ」
それだけ言い終えると、グウェンは俺に視線を向ける。
それを受け、俺も何か発言しておくべきだと思い、咳払いをして開口した。
「えー。皆ももう知っての通り、俺は“半人半魔”という完全不滅な存在なので、未だ知り得ていない隠し技を持っていそうなユリオスには俺が直接挑む。まぁ、挑むと言っても、この作戦が上手くいけば奇襲して敗北を認めさせればソレで終わるんだけどね」
「頭目が直接ユリオスと? では、私とローソゥは何を?」
「ローソゥは周囲の偵察兼、俺達の護衛をしてもらう。死ぬ事は問題無いけど、罠にかかったりでもしたら計画がおじゃんになりかねないからな」
「本来なら死ぬ方が大問題ですよ」
サクラの的確なツッコミが炸裂する。
「ふむ……ですと、私も頭目の弾除けになれ、と言う事ですね。確かにローソゥ一人では捌ききる事は至難で―――」
アグーラムが早々に納得して腕を組んだ。
そんなアグーラムに、俺は一言。
「違うよ」
「え、えぇ…?」
アグーラムが「違うんかい!」と言いた気な顔を向けた。
気にせず俺は説明を続ける。
「デルフィノームの知り得てる情報では、ユリオスも魔力の探知阻害の魔技能がある事が分かってる。場所さえハッキリしていれば“空間転移”で瞬時に移動も可能なんだけど、それは難しい」
そこまで言って、俺は自分の膝をポンっと叩いた。
「逆を言えば、居場所さえ分かれば勝てるって事だ」
「!」
アグーラムは今度こそ自分に求められている仕事内容を理解したようだ。
「成程。それで私なのですね?」
その表情には緊張の入り混じる笑みを浮かんでいる。
そう―――今回の作戦において、重役をこの男に担ってもらうのだ。
「そういう事でしたら、私の誇りにかけて必ず命じられた役割を果たして見せましょう。先程は私の考えが行き届かず失礼を申しました事、どうかお許し下さい、頭目」
「気にしてないよ。寧ろ本体に最も接近する役割に同行してもらえて助かる。お前を推薦してくれたデルフィノームに感謝だな」
そう言ってデルフィノームに笑いかけると、頗る嫌そうに眉間の皺を深くした。
「止めろ気色悪い。俺の部下ならばこの程度出来て当然だ。そうだろ?」
「はっ! 必ずやデルフィノーム様のご期待に応えて御覧に入れます!」
アグーラムが椅子から立ち上がり、その場で跪く。
「アグーラム。頼むぞ」
「お任せください、頭領!」
あのデルフィノームが推すアグーラムの能力……
―――デルフィノームに聞いた限りでは、奇襲作戦に持って来いの魔術だ。“固有魔術”ではない様だが期待値が高い。早くお眼にかかりたいものだな。
「さて。じゃあ今度は里に残る者の役割を説明する」
「はい。よろしくお願いします」
「とは言っても、特別に難しい事は無いんだけどな」
「そーなんですか?」
部隊長歳少年のムックが興味津々で俺を見る。
「あぁ。要は俺達の動きを悟られないよう、女蛇族達の意識を里の方へ向け続けてほしいんだ」
つまり、両面作戦と言う名の―――陽動作戦だ。
「少数で動く方が危険なのは当然として、里に残る大半の鬼人族達も女蛇族の総攻撃を受ける事になるだろう。何方共に、一切気は抜けないと覚悟しろ!」
瞬間、会議所内に緊張感が走る。
白角と黒角。
二つの種族の初の共同戦略は、果たして勝利の女神に微笑まれるのか。
はたまた、敗軍の将は兵を語らずとなってしまうのか。
その結末は、今日より数日後に分かる事となる―――




