Story.64【驚愕の…】
「『サクラに“妖人魚ノ波紋”を譲渡する』!」
口上と共に、俺からサクラへ魔術が譲渡された。
グウェンの時と同様に、サクラの魔力も徐々に上昇した。
角の本数は変わらなかったが、親指サイズだった小さな角は十センチ程伸びた。
鬼女の中では太さもあって長い方だ。
「これが……“等価交換”の効力……」
「どう?」
「は、はい! 驚く程魔力が高まったのが分かります!」
「でも“鬼人ノ王”までは届かなかったみたいだ。十分すぎる魔力量になったとは思うけど」
「とんでもありません! これだけの力を頂けて感動しております。本当にありがとうございます!」
サクラは本当に嬉しそうに笑顔になる。
ここまで喜んでもらえると、譲渡した俺も嬉しい。
「じゃあ、今度は俺が譲渡してもらおうかな」
「分かりました。では……『私の―――』」
サクラが向上を始めた。
俺が事前に教えた通りに口上を口にする最中、サクラの頭上に影がかかる。
「こんな朝っぱらから物陰で逢引かぁお二人さんよぉ…?」
サクラの身長から頭二つ分は身長の高いグウェンの顔が、サクラの頭上から引きつった笑みを浮かべ俺を睨みつけて来る。
「あっ、兄様っ!」
突然の兄の登場に、サクラは口上を止めた。
サクラを間に挟んだ状態で俺と向かい合うグウェンの蟀谷には、くっきりと浮き出た青筋。
その後ろからは、いつも以上に感情が籠っていない視線を向けてくるローソゥの姿まである。
「ヨウ、お前……いくら俺の妹が里一の美少女だからって、兄である俺の許し無く交際は認めんぞ!!」
「は? いや、別にそういうんじゃ…」
「弁解など遅い!! サクラの髪がお前の手に渡っているのが何よりの証拠だ!!」
そう叫びながら、俺の手が握っているサクラの切り落とした髪を指さす。
「だから、この髪はサクラにトレ―――」
「言い訳は聞かん!!」
怒り頂点で牙を剥き出しにして俺に吠えるグウェン。
俺の言葉尻を食いつつ、胸倉を両手で掴み上げてグワングワン揺らしてくる。
苦しい上に酔いそう…
「お嬢に手を出すとは……流石は“半人半魔”……命知らず……」
「ロ、ローソゥまでぇ…」
ローソゥの感情の籠っていない視線が痛い。
何も悪い事していないはずなのに、心が苛まれて行く……
バーナム効果って言うんだっけ? こういうの……
「~~~んもぉ! いい加減にして下さい! 私もヨウ様にお願いして、兄様やローソゥの様に魔術の譲渡をお願いしていたのです! 私の髪は譲渡品です!!」
サクラが真っ赤な顔でグウェンと俺の間に割り込んで来た。
「譲渡? “等価交換”の事か? あぁ、通りでお前の魔力上がって―――いや、だからって髪はお前……」
ようやく俺の胸倉から手を離したグウェンは、サクラの発言に対して物言いたげな表情を浮かべる。
ローソゥも……相変わらず表情筋硬いけど、サクラと俺を交互に何度も何度も見つめている。
―――やっぱり、鬼女の髪って相当大事な物だったんじゃ……
とは言え、時すでに遅し。
サクラの長かった髪は短刀で切られ、今目の前に居るサクラはセミロングのヘアスタイル。
今更返すことは出来ないし、もう俺はこの髪を頂くしかない。
サクラも気持ちは揺るがない様で…
「兄様達の文句など受け付けません。私が決めた事です」
そう言って、身長さのある兄を真っ直ぐな視線で見上げる。
俺よりずっとサクラといる時間が長いグウェンは、サクラの頑固さを重々承知しているようで、深い溜息と共に妹の肩に手を乗せた。
「分かったよ。それがお前の意志なら、俺はもう何も言わない」
「兄様…!」
「だがなぁ、ヨウ! サクラの髪を受け取る以上、中途半端は許さんからな!」
「それは…何に対して?」
「っ…お、俺の口から言わさせないでくれ!」
グウェンは若干上擦った声で言った。
心成しか、涙目になっている気がする。
ローソゥは慰める様にグウェンの肩をポンポンッと叩いているし、サクラはサクラで相変わらず顔が赤いし……
―――後でデルフィノームに……いや。ゼラかビオラに聞いてみよう。
「とにかく“等価交換”を続けて良いか? このままじゃ、サクラに渡した魔術が無効になっちゃうし」
「す、すみません、ヨウ様。よろしくお願いします」
「ん。頼む」
俺の手に握られたサクラの物だった桜色の長髪。
使い道は今の所ないが、サクラにとって大事な物のようだし、大事に仕舞っておこう。
そう考えながら、サクラの口上を3人で聞き届けた。
「では……『私の髪を、ヨウ・クロキ様へ―――譲渡します』」
今度こそ譲渡成立の口上を唱えられ、俺の手の内の髪は俺の所有物へ変貌した―――
―――……はずだった。
「あれ?」
手の中にあったはずの髪が、消えた。
そして何やら、頭が少し重くなった気がする。
視線を上げれば、目の前の3人の視線が俺に釘付けになる。
三人共、唖然としたように口を半開きにしたまま固まっていた。
「ど、どうした? 三人共固まって?」
「………いや、うん。寧ろ、お前がどうしたんだ? ソレ?」
ソレと言いながら俺を指さすグウェン。
俺の姿に異変が生じているのか確認を取りたいが姿を見れる物が手元に無い。
「ちょ……ちょっと? 俺今どーなってんの!? 誰か何か言ってくんない!?」
俺は三人に返答を求めた。
目を見開き、口元を抑えて絶句するサクラ。
ローソゥは珍しく驚きの表情を見せているが、相変わらず何も言わない。
グウェンに至っては異形の生物でも発見したような目付きで俺を凝視し続けている。
流石の俺も不安になって来た。
「おい! お前等いい加減に―――」
三人へ近づこうと一歩足を踏み出した時、俺の肩から黒くて長い物が垂れ下がった。
「え」
恐る恐る視線を向けると、髪の毛の様にサラサラとしたソレがあった。
それもそのはず。
恐る恐る触れてみたソレは―――
「―――…………ウソ」
―――ナニ、コレ?
俺の……急激に伸びた後ろ髪だった。




