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――ピンポーン。
ベッドに寝転がったままボーッとしていると、誰かが訪ねて来た。
(茉莉かな?)
大学に入ってから俺は茉莉と付き合い始めた。
若菜のことが好きだったけれど茉莉に告られ、若菜も離れていってしまっていたから茉莉の気持ちに応えることにしたのだ。
「あれ? ナル姉」
てっきり茉莉だと思って開けたドアの向こうに立っていたのは、長姉の愛美だった。
「彼女じゃなくて残念?」
ナル姉は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「……いや、別に」
ちなみに俺にはもう一人姉がいる。
次姉の綾音。
こっちは普通に「姉ちゃん」と呼んでいる。
なぜかと言うと理由は実にくだらない。
本人にしてみれば、くだらなくないのだろうが「綾姉」と呼ぶと、なんだか呼び捨てにされてるみたいで嫌だと言われたのだ。
“あやね”と“あやねえ”確かに似てはいるが。
そんなわけで次姉の綾音については「姉ちゃん」と呼んでいる。
「今日は瑛悟の誕生日だから、プレゼント渡しに来たの」
ナル姉はそう言うと、俺に紙袋を差し出した。
「ありがと」
ナル姉と姉ちゃんは、毎年俺の誕生日にプレゼントをくれる。
特別高い物とかそういうのじゃないけれど、いつも俺のことを考えて選んでくれている。
去年は「彼女と一緒に使ってね」と、ペアのマグカップをくれた。
その前の年はポロシャツ、さらにその前の年はチョーカーをプレゼントしてくれた。
女の子からアクセサリーをプレゼントされたのはそれが初めてだった。
……まぁ、初めてバレンタインのチョコを貰ったのも、ナル姉と姉ちゃんからだったけど。
あ、後は母さんだ。
(ところで、今年のプレゼントはなんだろう?)
そう思っていると、ナル姉は淡いブルーの花束を俺に差し出した。
「それとね、珍しいお花売ってたから思わず買っちゃった」
「葉っぱが変わった形の花だね」
それは葉の形状が糸みたいに細い花だった。
ナル姉曰く、今の季節には普通は売っていない花なんだとか。
「これね、『ニゲラ』って言う花なの。瑛悟の誕生花なんだよ」
「へぇー」
“誕生花”と言われても、いまいちよく分からない。
「花言葉はね、『未来』と『夢で逢いましょう』」
ナル姉はそう言うと、にっこり笑った。
(夢で逢いましょう……か)
「それと、これはついでに差し入れ」
ナル姉はプレゼントとは別に、食料が入った買い物袋も俺に差し出した。
「ありがと」
ナル姉はいつもこうだ。
俺のアパートに来るときは、なんだかんだといろいろ持って来てくれる。
「それじゃ、またね」
そしてナル姉は、俺に渡す物だけ渡すと、帰る気満々でドアを開けた。
「えっ!? ナル姉、もう帰っちゃうの?」
「うん、だってこれから彼女来るんでしょ?」
「そうだけど……、せめてコーヒーくらい飲んで行けばいいのに」
「いいよ、せっかくの誕生日なんだし。彼女と仲良くね」
結局、ナル姉はそう言うと、バイバイと手を振って帰っていった。
(彼女と仲良くね……か)
それから、しばらくして茉莉が来た。
「あれ? このお花どうしたの?」
茉莉は部屋に入ると、さっそくナル姉がくれたニゲラの花を見つけた。
「さっき、ナル姉が誕生日プレゼントと一緒に持って来てくれたんだ」
「一番の上のお姉さんだっけ?」
「うん、他にいろいろ救援物資持って来てくれたよ。てか、花なんて滅多に貰わないからどうしていいか分かんなくてさ。とりあえず水には浸けたんだけど家には花瓶なんてないしなぁ……」
俺がそう言うと、茉莉はキッチンの隅に置いていた数本の空き瓶の中から、少し細身で透明なワインの空き瓶を手に取った。
「これ、いいかも。ラベルも綺麗だからこのまま使えるし」
「うん、ナイスアイディア」
俺がそう言うと、茉莉はニゲラの花をバケツから空き瓶に移し変え、窓際のチェストの上に置いた。
殺風景な部屋の中が少しだけ明るくなった――。




