-Prologue-
その日は俺の誕生日だった――。
(あ……若菜だ)
大学の講義が終わって自分のアパートに帰る途中、偶然懐かしい人物を見かけた。
蒼井若菜――、高校の頃、好きだった女の子だ。
彼女とは高校一年生のときに同じクラスになり、席が隣になったことが切っ掛けで仲良くなった。
同じクラスには、彼女の小学校時代からの親友・吉崎茉莉と、俺の中学時代からの親友・野本優も一緒にいて、いつも四人で遊ぶようになった。
何をするにも一緒の俺達は、四人でバカばっかりやっていた。
二年生になってからは、茉莉と優とは別々のクラスになったけれど、若菜とは高校三年間ずっと同じクラスで席も隣同士だった。
でも、俺は三年生になってから、段々若菜と距離を置くようになった。
……いや、正確には俺からじゃなく、若菜からだったと思う。
そして、俺達はそのまま高校を卒業した――。
あれから二年が経ち、俺達は大学二年生になった。
その間に俺は、一度も若菜とは会っていない。
同じ大学に通っているのに、学科が違うからか顔を合わせることはなかった。
それがたった今、目の前を横切った。
若菜は俺にまったく気がつかず、通り過ぎて行った。
俺も若菜に声を掛けなかった。
若菜がとても思い詰めた表情をしていたから、声を掛けられなかったのだ。
けれど俺はアパートに帰り、やっぱり声を掛ければよかったかな? と思いつつ、ベッドに寝転がった。
(なんで若菜はあんなに思い詰めた顔をしていたんだろう……?)
気になるくらいなら、最初から声を掛ければよかったのに。
俺は自分で自分に突っ込みを入れながら、大きく溜息を吐いたのだった――。




