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――翌日。
俺は昨日若菜を見かけた場所に行き、そこでしばらく待ってみた。
だけど、昨日見かけた時間が過ぎても若菜が現れることはなかった。
(何やってんだろ……俺)
辺りはもうすっかり陽も落ちて暗くなってしまっている。
そもそも若菜がまた現れたとして、俺は何を話すつもりだったんだろう?
何をするつもりだったんだろう?
(……帰ろ)
俺は自分のアパートに向かって歩き始めた。
すると、ジーンズのポケットの中で携帯がブルブル震えた。
「もしもし?」
『瑛悟? 今どこ?』
茉莉からだ。
なんだかすごく慌てている。
「えーと、大学とアパートの中間地点」
『すぐに私の部屋に来てっ』
「なんだよ? なんかあったのか?」
(なんでこんなに慌てているんだ?)
『若菜が自殺したって……今、優から連絡があったの!』
「……え?」
(若菜が自殺……?)
「それで、若菜はっ?」
『昼前に……亡くなったって……』
「…………」
俺は頭が真っ白になった。
(昨日、若菜があんなに思い詰めた顔をしていたのは……そんな……なんでだ……?)
『瑛悟、聞こえてる? すぐに来てっ』
「あ……あぁ、分かった」
茉莉の声にハッとしつつ、俺は慌てて返事をして茉莉のアパートに向かって走り出した。
茉莉の部屋には優も来ていた。
「はぁ、はぁ……若菜、なんで、自殺なんか……?」
「……男が原因らしい」
全力疾走してまだ息切れがする中、口を開くと、優が俯いたまま溜め息まじりに答えた。
「男……? 若菜が付き合ってたあの男か?」
「あぁ……」
若菜が俺達から距離を置くようになったのは、ある男が原因だった。
兵藤 樹――、若菜が高校二年生の冬頃から付き合っていたヤツだ。
だけど、この男が浮気ばかりするとんでもない男だった。
そのことで、俺達は何度も若菜に「あんな男はやめろ」と言った。
しかし、若菜はまったく耳を貸さず、俺達から遠ざかっていった。
けれど結局、若菜はそいつの浮気にずっと苦しめられ、自殺したのも耐え切れなくなってのことだと遺書に書かれていたらしい。
(あいつの所為で若菜は……)
若菜の実家に行くと、既に通夜が始まっていた。
遺影の中の若菜は、とても穏やかな顔で笑っていた。
俺達四人でいつも一緒にいた頃と変わらない笑顔で――。
そして、俺達がお焼香を済ませて若菜のご両親に挨拶をした後、優が参列者の一人を見て俺と茉莉のほうに振り返った。
「おい、あいつ……」
優が視線をやった先にはあの男がいた。
若菜を自殺に追い込んだ張本人・兵藤樹だ。
「あいつ、よくも抜け抜けと……っ」
平然とした顔で通夜に来ているあいつに、俺は無性に腹が立った。
「「瑛悟……っ!」」
俺が兵藤に近づき、殴り掛かろうとしていると、優と茉莉に止められた。
「放せよっ! こいつの所為で若菜は……っ」
二人の腕を振り払おうと暴れていると、俺の後ろにいた人物が横を通り過ぎ、兵藤に殴り掛かった。
(あ……)
若菜のお父さんだった。
「帰れっ!」
俺達が止める間もなく、若菜のお父さんは兵藤を殴り飛ばした。
「「「蒼井さん!」」」
周りの人達が慌てて若菜のお父さんを止める。
「帰れ! 二度と私達の前に現れるな!!」
「…………」
兵藤は血が滲んだ口元を手の甲で拭い、ゆっくり立ち上がると、軽く服を直して若菜のお父さんと俺達を一瞥してその場を去った――。
「俺……昨日、若菜を見かけたんだ……」
通夜からの帰り道、俺は昨日若菜を見かけたことを話した。
「「え? どこで?」」
茉莉と優も、俺と同じ様に高校を卒業してから若菜には会っていなかった。
だから、俺が若菜を見かけたことに驚いていた。
「大学からアパートに帰る途中。若菜、すごく思い詰めてた顔してた。だから俺、なんか逆に声掛けられなくて……でも、もし、俺が声を掛けていたら……」
「「…………」」
二人は、無言で俺の話を聞いていた。
「若菜の自殺を止めることが出来たかもしれないのに……」
声を掛けて何を話すわけでも、何かしてやれるわけでもないかもしれない。
(それでも、どうしてあのとき声を掛けなかったんだろう……)
俺はすごく後悔した。
「……声を掛けてても同じだよ」
そう口を開いたのは茉莉だった。
「瑛悟が声を掛けてても多分、若菜は自殺してたと思う」
茉莉は同じ女だから、若菜の気持ちが分かるのか、そう言い切った。
(そうかな?)
「……そう、かもな」
俺は心の中で思っていることとは逆のことを口にした。
アパートに戻って部屋の灯りを点けると、窓際に置かれたニゲラの花が視界に入った。
『――夢で逢いましょう』
ナル姉が教えてくれたニゲラの花言葉。
それが、ふと頭に浮かんだ。
(若菜と夢で逢えたら「なんで自殺なんかしたんだよ!」って、一言言ってやるのにな――)




