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5話 悪友

「おはようさん、凌大くん。いや吾妻くん改め新妻くんやな。入籍おめでとー」

「ムシャクシャするから殴らせろ」

「なんで!? 挨拶しただけやのに!」


 モヤモヤしたまま登校した俺を教室で出迎えたのは、胡散臭い笑顔を浮かべた悪友その一だった。

 名前は公坂司(こうさかつかさ)

 中学からの付き合いで、関西出身でもないのに自己流関西弁を操る変人である。

 ちなみに眼鏡が似合う超絶イケメンで学年一位の頭脳保持者。なんでやねん。


「えらいご機嫌斜めやん。何かあったん?」

「……別に。ストレスが溜まっただけだ」

「まあ自分偽るんはしんどいと思うわ」

「お前のそのエセ関西弁も辛いのか」

「僕は好きでやっとんの!」

 知ってる。

 出会った当初のこいつは丁寧語のすかした不良だったのだが、中二の時『負けたら相手の言うことを何でもきく』という条件でケンカをふっかけられたので、勝った俺は司にこう命令を下した。


「今日から一週間、関西弁キャラな」と。


 いや、慇懃な喋り方とか態度に腹立ったんですわ。

 関西弁ならなんかこう、明るくていい感じになるはず! と思ってやったのに、胡散臭さだけが増した……。

 ともかく喋り方を変えてやろうと思った俺の無茶ブリを律儀に遂行した司は、「なんや楽しなってきた! もうこのままでええわ!」と俺の思惑以上にキャラを定着させ、今に至る。

 それ以来なぜか親友。自分で言ってちょっと意味が分からない。


「なに朝からコントをしているの? 瀬名(せな)くん」


 自らの過ちを振り返る俺のことを旧姓で呼び、サラリと毒吐いてきたのは隣の席の女子生徒。

 艶やかに流れる綺麗な黒髪、優しげな雰囲気のする大きな瞳。赤色のネクタイを押し上げる胸元と、チェック柄のスカートから伸びる美脚が目を惹く和風美人。

 悪友その二、立花椿(たちばなつばき)だ。


 黙っていればその名の通り綺麗な女子なのだが、その中身は俺と同じくらい凶暴な肉食系。

 こいつにかかれば女子の理想『白馬に乗った王子様』など撃ち落とされる。それも手に入れる為ではなく「なよなよしてウザい」という理由で。

 そこら辺の猟師より強く魔女より怖い。そんな女子。どんな女子だ。

 椿は司の幼なじみで、俺とはそういう繋がり。

 両家対面前の特訓や対応マニュアルを教えてくれたのは、この二人である。


「いえ今日から新妻くんかしら」

「もうツッコむのも面倒くせーよ……」

 名字が変わって初登校だから絶対何か言ってくるだろうとは思っていたが、朝の一件でモヤついてるせいで付き合う気分になれない。

「あら、貴方たち昨夜はそんなに愛し合ったの?」

「おいちょっと待て」

 前言撤回。付き合わねぇと大惨事の予感! そして朝一で下ネタかよ!


「せやねん。凌大くんてば寝かせてくれへんでな……」

「酷いわ瀬名くん。私という者がありながら」

「何やて……!? ほな僕のことは遊びやったん……?」

「よし決闘だ。二人とも表に出ろゴラァァァ!」

 なんだその矢印の方向がおかしな三角関係は!


「軽い冗談やのにノリ悪いなぁー」

「器の小さい男はモテないわよ」

「呼吸してるだけでモテる美形どもは黙れ羨ましい! こっちは朝から炭食わさるし、気分最悪なんだよ……」

 好青年アドバイザーとして恩のある二人だが、今日の俺は素の自分を押さえ込み続けていたストレスが爆発しそうだった。

 卵の殻程度のカルシウムではイライラが解消されそうもない。

 いやむしろ無理に完食したせいで、余計にストレスが溜まってしまった。


「炭って何やの?」

「朝食に出された元・食パン」

「よかったじゃない。瀬名くん生もの全般嫌いでしょう?」

「食パンを刺身の類と一緒にするとか斬新すぎるぞ!」

「なんでそんなの食べたん? 凜子さんが失敗しはるとも思えんし、凌大くんだって料理できるやろ?」

「……双子の姉妹に出されたんだよ」

「えっ、さっそく義妹ちゃんたちから手料理!? やるやん!」

 言葉だけ聞くといいものみたいだが、実際出されたのはただの炭だ。

 現実は色んな意味で甘くなかった。


「そない上手くいっとんのやったら、僕らも協力した甲斐あったで。なあ椿ちゃん」

「そうかしら。『お前は炭でも食ってろカスが』ってことじゃないの?」

「なにそれイジメやん……。ワザとやったって言いたいん?」

「一つの可能性の話よ」

「……いや、それはねぇと思う」

 最初は俺もそう思ったが、失敗したというのは本当みたいだった。

 三人でキッチンの片付けをしている時に、双子のそれぞれの手にちょっとした火傷っぽい痕を見つけてしまったのだ。

 二人とも色が白いので、ほんの少し赤くなっただけでもよく目立つ。

 決して袖を捲った女子の素肌をガン見したから発見したのではない。決して。

 うん、言いたいのはそこじゃねえ。


 むしろ双子は友好的に歩み寄ろうと努力していると思う。

 朝食を用意するのも朝起こすのも、人の為にするのはかなり面倒なことだ。

 よく知りもしない相手なら尚更。

 洗い物の山だって、結局俺一人に押し付けることなく三人(+食洗機)で分担して、それから登校してきたのだ。

 気まずくなったせいでお互いずっと必要最低限の会話だったが。


 そうまでするのは多分、向こうも直純さんの為に円満な関係を築こうとしているからじゃないかと思う。

 俺が母さんの為に性格を偽装しているように――。


「随分と信頼しているのね」

「おっと、椿ちゃんヤキモぢいいい痛い! 髪が根こそぎ抜けるて!」

「気を付けなさい? 女子は怖いわよ瀬名くん」

「一切の容赦なく頭頂部の毛をむしり取ろうとするお前が怖ぇーよ……」


 椿はその見た目から女子のやっかみの対象になるとかで、散々嫌な思いをさせられてきたらしく、女子が嫌いだ。

 いかにも女子が好きそうな色や物すら嫌悪している。

 なので外見や口調に反して中身も男らしい……というか荒い。ドSだ。

 そんな経緯があるからクラスで話すのも俺と司だけだし、美少女なのに勿体ない。

「めっちゃ痛かった……。何本か抜けてしもたやん……」

 勿体ないがこいつを野に放つのは危険だな!

 草食動物の群れに猛獣を放り込むのはよくない。

 

 新たな惨劇が生まれるわ。


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