6話 黒歴史は誰にでもある
「で? 義妹自慢はそれで終わりかしら」
「なんだよ義妹自慢って……。そんなに話せるほどまだ接点ねぇから」
今朝は割と話したと思ったら、ああなったし。
距離感が難しい。
こいつらは出会った当初からグイグイくる変わり者だったので、何一つ参考にならない。心の壁とか爆破して不法侵入するタイプだから。
「ちょっとー、僕を無視して話進めんといてよ」
「あ、そうだ。なあ司、女子に飯作るとしたら何がいいのか教えて欲しいんだけど」
「いきなり何やのその質問?」
「晩飯は俺が作るつもりだから、参考までに聞きたいんだよ」
自分の飯の確保と、気まずさ解消のきっかけになればと思い付いた案がこれ。
朝飯のお返しも兼ねている。
「だからなんで僕? 女の子なら椿ちゃんがいてるやん」
「お前、昔ハーレム作ってたから色々詳しいだろ」
「僕の黒歴史を蒸し返さないで頂けませんかこの腐れ童貞があああッ……!!」
テンパるあまり地に戻った口調で取り乱す司。イケメンが台無しだ。
落ち着けよ。眼鏡割んぞテメェ!
「あれはさすがにやりすぎたと反省して……って僕の話はええんや! ま、まあ?女の子と一度も付き合うたことない凌大くんには、難しいかもしれへんな!」
「ぅっぐ……! ふ、複数人と付き合うクソよりいいだろーが!」
「そうね。全くその通りだわ」
「なっ、椿ちゃんまで! 凌大くんこそちょっとケンカ強いからって『キング』とか言われて調子乗ってたやん! 学ランをマントみたいに肩に掛けてイキっとったやん! 髪とか半端に伸ばしてウザかったやん!!」
「やめろぉぉぉおおおおおおおお!!」
ここが教室だということを忘れて思わず絶叫した。それぐらいの恥だ。
「……すまん司。俺が全面的に悪かった」
「ええで。僕もムキになりすぎたわ」
「誰も得しない暴露大会はもう終わりかしら? なら私が続きを――」
「「やめてくださいお願いします」」
これ以上は恥ずか死ぬ。
それに見ろよ、いきなり叫び出した俺たちを見るクラスの連中の引きようが半端じゃない。
ただでさえ浮いている三人なのに。
ちなみに浮いてる理由は多分こんな感じである。
司と椿 → 美形同士常に一緒にいるので近寄り難い
俺 → 態度が悪い
なんだこの悲しい分析。
「は、話戻そか。凌大くんが飯作るて、凜子さん相変わらず仕事忙しいんやな」
「ああ、まあな」
今頃夫婦揃って海外です。とか言ったらまた騒ぎそうだから黙っておこう。
「それで何作るか迷ってんだけど」
嫌いな食べ物とか分かれば決めやすいが、あいにく双子の好みを知らない。
というか、知っていることの方が少ない。
なんなら連絡先すら知らない。緊急時どうすんだ。
「それなら生クリームとフルーツで盛り尽くされたパンケーキでも焼けばいいんじゃないかしら。『これを食べる私って可愛い☆』とか思うバカが好きそうなやつ」
「相変わらず女子に対する嫌悪感すげーな……。というかメシなのかそれ?」
あと全国のパンケーキ屋に謝れ。作ってる側は真面目だぞ!
「オムライスとか洋食系は好きやと思うで。けどニンニクとかは避けた方がええよ」
「おお、なるほど」
匂いが残る食材はNG、と。まあそうか。
「ちなみに訊くけど椿だったら何食いたい?」
「カツ丼もしくは牛丼」
「男かよ!」
痛ぇ!! 無言で脛を蹴られた……!
「椿ちゃん、もっと他に何かないん……?」
「好きなんだから別にいいでしょう」
……真顔で言い切りやがったぞこいつ。
かっこいいなオイ。普通は自分を良く見せようとかするだろうに。
「椿のそういう正直なとこ好きだぞ」
「あら、ありがとう瀬名くん。でも私は普通よ。ごめんなさい」
「なんでフられたみたいになってんだ。違うから。そういう意味じゃねぇから」
「凌大くん元気出しや? 僕は好きやで……?」
「おいコラ生暖かく励ますな。というか椿はなんで旧姓で呼び続けるんだよ」
「こちらの方が慣れているから構わないでしょう?」
「あー……。なるほど」
いいのか? うーん……。正直俺もその方がしっくりくるし、まあいいか。
「それより俺ちょっと飲み物買ってくるわ。口ん中がまだ苦ぇ」
ホームルームまであと二、三分。
走れば自販機に行って帰って来られる時間だ。
今日のホームルームでは、俺の名字が変わったことも話されることになっている。
母さんが各種事務手続きの関係で担任に再婚の旨を話した際、そういう手筈になったからだ。本人不在はさすがにまずいだろう。
どうせクラスのやつらは興味ないだろうけど、業務連絡だから仕方ない。
適当に聞き流してくれ。
それに高校に入ってからは、授業にもちゃんと出席するようにしている。
高校は中学と違って留年という恐ろしい制度があるからな。
そんなことになったら、好青年という化けの皮が剥がれて困る。いや普通に困る。
「ほな俺いちご牛乳で」
「私はブラックコーヒー」
「待てコラ。なにナチュラルにパシってくんだよ。ビックリするわ」
そして椿の味覚がやっぱ男前すぎんだろ。司のが女子かよ。
「はよ行かんと担任来てまうで?」
「ああもう分かった! 後で金出せよ!」
取り立て屋のような発言を残して教室を出て行く。
一瞬クラスがザワついたが気にしない。
すでに同じような評価だと自覚しているので、構わずそのまま廊下を走り続けた。
「心配しとったけど案外順調にいっとるみたいやん、凌大くん」
「そうね」
「あんだけ必死に特訓したから効果あったんやろなぁ」
「バカのくせに頭を使おうとするんだもの。付き合わされるこっちが大変だったわ」
「確かに大変やった……。けど椿ちゃん的には面白ない展開とちゃう?」
「どういう意味かしら」
「ちょ、痛い! 足グリグリ踏まんといて! ごめんて!」
「その内にボロが出て揉めるんじゃないの?」
「酷いで椿ちゃん……。まあその可能性は充分ありそうやけど」
「何が言いたいのよ」
「案外、偽りのキャラが染みつくかもしれへんで? 僕みたいに」
「…………」
「どないする? 凌大くんが好青年になってもうたら。普通にモテんで絶対。今は口やら態度が悪いせいで誰も近寄らへんけど、基本見た目は悪ないし、女の子にはヘタレなほど紳士や。けど、いざゆう時はめっちゃ強い。『キング』の名は伊達やないで。まあ頭は大分アホやけど」
「……その時は殴って目を覚まさせるわ」
「いやそれ僕ん時やったやん。効果ないの実証済みやん」
「もっと強目にいくから大丈夫よ。気絶して入院するくらいがベストかしら」
「なにそれめっちゃ怖い。せっかく見た目お姫さんやのになぁ……。呪いにしろ眠りにしろ、目ぇ覚まさす方法言うたらアレしかないやろ?」
「司。医者の息子としてその発言はアウトよ。非科学的な最たる症例じゃない」
「あかん。僕の方がよっぽど乙女やわ」




