↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/39

36話 再スタート

「し、知ってた……?」

 え? は? マジで?


「初めて会った時は髪だって黒かったから、そういうのはもうやめたのかと思っていたんだけれど……。無理してくれていたんだね」

「もう凌大ったら。だから最初に言ったじゃない、必要ないって」

 母さん、そういう大事なことはちゃんと言ってくれ。主語述語を加えてハッキリと具体的に!

「なんだ。拍子抜けだったわね」

「でも何も問題なくて安心したよー」


 ここ数カ月の俺の努力は一体……。

 ただのひとり相撲だったらしい。くそダサいにも程がある。

 すっかり脱力してしまい、情けなくもその場にへたり込んでしまった。


「凌大くん」

 俺と目線を合わせる為か直純さんが床に膝を着き、肩にそっと触れてくる。

「私は全てを受け止める覚悟で凜子さんにプロポーズをしたんだ。勿論、凌大くんのことだって含まれている。伝わっていなかったのは残念だけれど、もう少し私を信用してくれたら嬉しいな」

「直純さん……」

「血の繋がりがなくても、他の子よりケンカが強くても、きみは凜子さんの大事な息子。私も同じ思いだよ」

「っ、……今まで、すみませんでした……」

 土下座する勢いで頭を下げる。

 だけど床に額が着く前に直純さんの手が阻止した。


「顔を上げてくれないかい? 凌大くんが謝る必要は何もないよ」

「けど……」

「そんな悲しい顔より、私は笑った顔が見たいな」

「……良い話のとこ悪いけど、なんでお父さんっていちいち口説き文句みたいなの……?」

「た、確かに!」

「雪奈ちゃん、氷奈ちゃん。直純さんたら会社でもこうなのよ。だからファンの子が多くて……。どうしましょう」

 おい、凜子。何をどさくさに紛れて相談してんだ。


「凜子さん、それは私のセリフだよ! いつも傍で甲斐甲斐しく動いてくれる君がいることに、社内外の人間からどれだけ羨ましがられているか!」

「直純さん……!」

 ……なんだこの告白大会。大事故だぞ。

「ら、ラブラブなのは分かったから後でやって!」

「見せつけてくれるねー」

 ほんのり頬を染めてツンとする雪奈と、ニコニコ笑う氷奈。

 ようやく直純さんは我に返ったのか、ゴホンとわざとらしく咳払いをした。


「すまない。話が逸れてしまった」

「いえ……」

「凌大くん。もう過度に良い子でいようと無理をすることはないよ。ありのままの君でいて欲しい。そうしてくれるかい?」

「……はい」

 静かに頷いた俺に優しく笑いかける直純さん。

 ――母さん、今度は凄く良い人を選んだな。


 肩の荷が下りたその夜、俺は泥のように眠った。

 翌朝、母さんが起こしに来るまで。

「凌くん、朝よ。起きなさい」

「どわあっ!?」

 至近距離から囁かれ、思わず飛び起きた。は!?


「おはよう。そろそろ支度をしないと遅刻するわよ?」

「……はよ。頼むからもうちょっと普通に起こしてくれ……」

「最初は普通に声掛けたわよー? でも全然起きないんだもん」

 もんとか言うな。年を考えろ。

「きっと気を張っていた疲れが出たのね」

「……そうだな」

「ごめんね」

 急になんだと思い見れば、珍しく落ち込んだような様子の母さんが映る。


「私の所為でそんなに追い詰められていたなんて、母親失格よ」

「違う! 俺が勝手にやったことだ」

「凌くんはずっと変わらないわね。人の為に自分が傷付いても構わない……。とても凄いことだけど、優しすぎて母さんは心配だわ」

 まるで祈るように両手を握ってくる母さん。

 その手は少し震えている。


「そんなことねぇよ。優しいのは俺の周りに居る人たちだ。……母さんを含めてな」

「凌くん……」

「だからいつもみたいに笑ってくれよ。調子、狂うだろ」

 能天気でいてくれないと、こっちまで元気が出ない。

「……うん」

 母さんは俯いて数秒そのままになる。

 握られたままの手の上に水滴が落ちて来たが、何も気付かなかったフリをした。


「いつまでもこうしてると本当に遅刻するわね! 着替えたら降りてらっしゃい」

 顔を上げニコッと笑う母さんは、明らかに泣いたのがバレバレだ。

 でもその事には触れず、ああと返事を返せば頭をグシャッと撫でてくる。

「ありがとう。大好きよ」

「……、いいからもう行けって」

 思春期の息子に返事は期待しないでくれ。

 しかし母さんは穏やかに微笑むと部屋を出て行った。

 まあ、きっとあの感じではお見通しなんだろう。


 そうして一人になった俺は、身支度を整えるべく行動を開始することにした。

 顔を洗い、歯も磨いて制服に着替える。

 今日からはネクタイをきっちり締める必要もない。

 シャツのボタンを留めるのは上から三番目以下、袖も適度に捲るラフさ。

 そのまま鞄を肩に担ぐと一階を目指した。


 ダイニングに顔を出せば母さん以外が揃っていて、口々に挨拶をされた。

「おはよう。凌大くん」

「お、おはよう」

「おはようございます!」

 変わらない様子の三人に、無意識にホッと吐いてしまう息。

 ……夢じゃなかったんだな。

 この場にいない母さんは泣いた痕を消しているのだろう。この人たちに見られないように。


「って、ぼ、ボタン開け過ぎじゃないの……!?」

「凌ちゃんが爽やか系からセクシー系になっちゃいました!」

「? これぐらい普通だろ?」

「この露出狂! 変態!」

「喋るとワイルド感もプラス……。やりますね!」

 氷奈はさっきからよく分からないが、雪奈は言いたい放題だ。服着てるぞ!


「うーん。ちょっと若い女性には目に毒かもしれないね」

 二人の様子に苦笑しつつ、朝食の配膳をする直純さん。

 素に戻った俺を見ても嫌悪感を示すことはないようだった。

 一晩寝て気が変わったらどうしようかと思っていたのだ。

 ……駄目だな。俺も直純さんのことを信じないと。

 直純さんがしてくれたみたいに。


 それから戻って来た母さんも加わり賑やかな朝食を終え、会社へ行く直純さんと母さんと玄関先で別れる。

 母さんは直純さんの運転する高級車で通勤、俺たちは徒歩で通学だ。

 直純さんは車庫へ向かう前に足を止めると、双子と俺を無理矢理まとめてハグしてきた。

「三人とも良い子でね」

「ちょ、ちょっと!」

「スーツがシワになっちゃうよー」

「可愛い子ども達とコミュニケーションを取ることの方が大事だよ」

 い、居た堪れない……。


「あれ? 凌大くんには振り解かれるのを覚悟していたんだけれど」

「……次からは遠慮してくれると助かります」

「ふふっ。そんな照れた顔で言われても無理かな」

 照れてるんじゃなくて、恥ずかしいんだよ。察してくれ。

「じゃあ次は私の番ね!」

 交代とばかりに母さんが両手を広げてくる。すっかり元通りだ。

「おい、凜子。やめろ」

 ならこっちも遠慮はしない。額をガッと押さえて阻止した。


「凌くん酷いわ! 直純さんはよくて私は駄目なの!?」

「どっちも嫌だよ! 俺を巻き込むな!」

「ケチー。いいじゃない、減るもんでもなし」

「精神力がゴリゴリ減るだろ」

 なんて普段通りのやりとりをしていれば、三人分の視線に気付いてハッとする。

 引かれたか……?


「いいなぁ。私にも遠慮なく絡んで欲しいよ……」

「やっぱり荒い口調の方がイキイキしてます!」

「そうね」

 っ、そんな微笑ましい目で見ないでくれ。

「……先行くから」

 逃げ出すように門扉を開け通学路を先行すれば、雪奈と氷奈が追い掛けて来て横に並ぶ。


「ほら、何の心配も要らなかったでしょ?」

「むしろ溺愛度が増した気がします」

「……ああ。参った」

 こうもアッサリ受け入れてもらえるなんて、思いもしなかった。

 直純さんの懐の深さを舐めてたよ。


 思わず苦笑すると、雪奈と氷奈の頬がほんのり朱に染まる。

「やっぱボタン開け過ぎ!」

「み、妙に色っぽく見えてドキドキします」

「氷奈。それは風邪か不整脈だ」

「乙女のときめきを勘違いで一蹴されました……!」

 いや、ときめきって。


義兄妹(きょうだい)でそれはないだろ……」

「んー。義理だから無くはないですよ?」

「え?」

「ね? 雪ちゃん」

「は、はあ!? 知らないわよ!」

 おい、なんで否定しないんだよ。

「も、もう置いてくから!」

「あっ、待ってよー!」

 目が合えば急に早足で歩いて行く雪奈と後を追う氷奈。

 それを数歩遅れて見守る俺の立ち位置は、もう迷子じゃない。


 とはいえ向こうからは『兄』として認識されていないらしい。だからこそ起こる勘違いだろう。

 まだまだ距離が遠い証拠だ。

 偽の自分で接していたのだから当然と言える。

 ……これから少しずつ詰めて行けたらいいな。

 今歩いている程のスピードでもいいから――。



「おはよう、瀬名くん。ボーッと歩いていると邪魔になるわよ」

「ほんまやで。って、どないしたんやその格好! まだ学校の外やで!?」

 学校が近付いた頃、唐突に聞き馴染みのある声がツッコミを入れてきた。


 こいつらに説明するのが残ってたわ。締まらねぇ……。


次で完結です。

長くなったので前後編に分けて同日更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 終った後も後日談みたいな感じ続けて欲しいです!お願いします!
[一言] 次で完結!?完結だって!?( >A<)マジカヨヨヨ!!! もっと見たかった!せめて100話くらいまで見たかった!もっと長編でも良かった!なんでだよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォおお…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。