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35話 告白

「ど、どういうことですか……?」

「再婚の妨げにならないよう猫を被ってた。さっきの蘭丸みたいなのが、本来の俺だ」

「え? あんなカラフルヘアーだったんですか?」

 ……そこ?

 着眼点が斜め上過ぎて感傷的な気分もブッ飛びそうだぞ。


「氷奈……。要は不良だってことでしょ?」

「ああ! なるほど……」

「もうケンカはしてねぇけどな」

「し、喋り方も変わった!」

「……これが素だ」

 氷奈が無邪気に向けてくる視線に居た堪れなくなる。

 雪奈は変わらずポーカーフェイスだ。

 見る限り二人からは軽蔑さを感じないが、どう思っているのだろう。


「木崎が殴ってきた時、全然動じてなかったのはケンカ慣れしてたから?」

「ああ」

「ってことは凌ちゃんて、めちゃくちゃ強いんですか?」

「そ、想像に任せる」

 キングって呼ばれてたとか、黒歴史感が凄くて言えるわけない。

「いや、そうじゃなくて。二人とも怒ったりしないのか……?」

「なんで?」

「だってずっと……騙してたんだぞ」

「でも凜子さんの為だったんですよね? 『再婚の妨げ』ってことは」

「そう、だけど」

 だから何だという話。

 責める権利は充分ある。


「からかい半分でやってたんじゃないなら、別にいいわ。最初からあんな威圧感満載に来られても、あんまり馴染める気がしないし」

「氷奈もです。そりゃ驚きはしましたけど、今さら責める気なんてないですよ。凌ちゃんの本質は、間違いなく優しいって分かってますから」

「え……」

「気持ちが伴ってなくちゃ、あんなに色々してもらえないです。ね? 雪ちゃん」

「い、一々聞かないで」

 ふふっと笑う氷奈と、ツンと顔を逸らす雪奈。

 何も変わらない二人の態度に、視界がまた歪み始めた。


「あれ!? 凌ちゃんって意外と泣き虫さんですか?」

「…………、ごめん」

「それはさっきも聞いた」

 俯く俺の頭にそっと触れてくる二つの手。

 一つはポンポンと落ち着かせるように、もう一つはゆっくりと宥めるように撫でてくる。

 言葉を発しなくても伝わる優しさに、いよいよ堪え切れなくなってしまった。

「……っ」

 咄嗟に声を押し殺すもポタリポタリとアスファルトに水玉が出来ていくのが止まらない。

 懺悔の気持ちと感謝の気持ちが、ぐちゃぐちゃに混じり合い零れ落ちていく。


 堰が切れたように泣く俺を静かに見守ってくれる雪奈と氷奈に、どう贖えばいいのだろう。

 纏まらない思考の中、胸を刺す痛みだけがやけに鮮明だった。


   * * *


「凌大が前に言ってた『俺にも言えないことがある』ってこれ?」

 少し落ち着いてきた頃、雪奈が少し遠慮がちに問いかけてきた。

「……そうだ」

「なんだ、そっかー。もっと深刻な話かと思いました」

「母さんと血が繋がってないことか?」

「「えっ」」

 ユニゾンして固まる双子。……ん?


「知らなかったのか?」

「はっ、初耳ですよ!」

「ほ、本当なの……?」

「ああ。俺は母さんが最初に結婚した相手の連れ子だ」


 全くの他人。

 それなのに今まで見放さず、ただひたすらに愛情を注いでくれたのだ。


「その、血の繋がった御両親は……」

「母親は知らない。父親は俺を母さんに押し付けて出て行った。他の女性と暮らす為に」

 父親に捨てられても母さんがいるから耐えられた。

 だけど母さんとは血の繋がりがないのだと、中学に上がった頃に近所の人たちの世間話で知ってしまった。

 母さんを問い詰めれば返ってきた答えは肯定するもの。

 俺はその事実に耐えられず、家を飛び出した。

 今まで他人に迷惑をかけ続けていたのかと、打ちのめされた気がしたのだ。


 夜の街を当てもなく徘徊して、衛治さんに初めて会ったのはその時。

 すでにあったクロノスに保護され、一旦は落ち着けた。

 だけどクズな父親の血を引く俺の面倒をこれ以上は見せられない。かと言って、ただ家出をしたのでは迷惑の上塗りになるだけ。

 ――向こうから見限ってもらうようにしなければ。

 次第にそう思うようになって、家に帰るのは最低限に止め見た目も派手にした。

 不良の俺の出来上がりだ。


 それでも母さんは一度だって俺を責めたり、見捨てようとはしなかった。

 いつだって正面から向き合う。

 ガキでしかない俺の考えは、その愛情深さの前に完敗だった。

 だから今度は俺の番。

 そう思っていたのに、結局このザマだ。


「笑えるだろ?」

 全てを話し終えると、今度は双子の目元が揺らぎだす。

「全っ然、笑えないわよ」

「良い話だけど悲しすぎます……!」

「……頼む。直純さんには言わないでもらえないか。隠し事をさせるのは申し訳ないが、離婚だけは避けたいんだ」

 今度こそ母さんには幸せなままでいてもらいたい。


「ずっと黙ってるつもり?」

「ああ。高校を卒業したら俺は家を出る。その後は寄り付かないようにするから、それまでどうか協力して欲しい」

 この答えは想定外だったのか同時に驚く雪奈と氷奈。

 大きな瞳を更に大きくする仕草まで同じだ。

「家、出て行っちゃうんですか……?」

「やってみて分かったけど、結構しんどいんだよ」

 正直な気持ちを自嘲気味に吐露すれば、雪奈の眦がわずかに上がる。

 今度こそ怒らせたかと思ったら意外なセリフを口にした。


「ならお父さんにも言えばいいわ」

「は……?」

「これぐらいで離婚だなんてならない。うちの父を舐めないで」

「だよね、雪ちゃん! 溺愛デロ甘星人なんですから、簡単に嫌いになったりしませんよ!」

 で、デロ甘星人って。

 いや、ちょっと分かる気がするけども……。


「決まり。今夜お父さんに打ち明けるわよ」

「はあ!?」

「異議なし!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「私たちを今まで騙してた罰ってことでどう?」

「ぐっ……」

 痛いところを突いてくる。

 悪いのは俺。罰だと言うなら受け入れざるを得なくなってしまう。


「凌ちゃんの嫌がることはしたくないですが、辛そうなので今回は別です。早く打ち明けてしまいましょう?」

「その様子だと、どのみち卒業までもたないでしょ」

 雪奈も氷奈も意志は固いらしい。

 折れてくれる気配は微塵もない。

「…………分かった。でも俺から話させてくれ」

 バレてしまうことが避けられないなら、罪の告白は自分からすべきだろう。

 唯一尽くせる、せめてもの礼儀として。


「いいわ。万が一……いえ億が一悪い空気になっても、私は凌大に味方する。木崎の件も含めて受けた恩はちゃんと返すから、サクッと言えばいい」

「雪ちゃん、それ私のセリフ! お父さんは絶対ビンタなんてしませんが、今度は私が庇いますから!」

「二人とも……」

「だ、だから安心しなさいよ」

「大船に乗ったつもりでいてくださいね」

 頼むからこれ以上、涙腺を刺激しないでくれ。




 こうして夜になり、夕食を終えたタイミングで直純さんに全てを話した。

 その結果。

「凌大くんがヤンチャしていたことなら、知っていたよ?」

 第一声がこれである。


 …………はあぁぁああ!?


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― 新着の感想 ―
[一言] パッパ!知ってたんかーい!!
[一言] ただただ椿を応援しています‼️
[良い点] 設定とか主人公の周りの人たちとか色々大好きな作品です。 と思ってたらあと数話で終わるのですか…オムニバス形式でも年一でもいいから長く続いてほしいです…
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