↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/39

最終話・前編 これから

 反対側の通学路からやって来た司が、真っ青な顔で揺さぶってくる。

「何があったんや! ついに壊れてもうたか!?」

「おい、頭を丹念に調べるのはやめろ。俺は正常だ! 元々の性能が低いだけだ!」

「そうやけどそうやなくて! 双子ちゃんがいてるのに、その格好!」

「少しは否定しろよ。もう打ち明けたんだよ」

「なん、やと……!?」

 ズギャーンと衝撃を受ける司。リアクション芸人かお前は。


「ということは、うちに養子に来る覚悟ができたのかしら?」

 司の手を叩き落とし、マイペースに爆弾発言をしてくるのは椿だ。

「は!? そ、それとは違くて――」

「ちょっと、凌大。養子って何の話?」

「こっそり家出を計画してたんですか!?」

 ほら聞かれちまったじゃねぇか……。

「家出じゃないわ。婿入りよ」

 さらりと言ってくれる椿。今その潔さは要らなかった。切実に。


「た、立花さんが義理のお姉ちゃんに……!?」

「いいえ。瀬名くんはそちらの籍を抜けるから赤の他人よ」

「はっ! 確かに!」

「ねぇ、俺の話も聞いて?」

 確かにじゃないだろ。

「貴方たちの『お義兄ちゃん』は私が貰うわ」

「ふぉっ!?」

 げんなりしていたら、いきなり椿がぎゅむっと腕を組んできた。

 あ、当たってる! とんでもなく柔らかいものが!


「貰うって、物じゃないんだから『はいそうですか』とはならないわよ」

「範囲外は黙っていてくれるかしら?」

 狼狽えまくりの俺に対し、椿は雪奈とバチバチ火花を散らし合っている。

「何この状況。特に腕まずい。司、救助求む」

「なんでカタコトやねん。ちょっと密着したぐらいで動揺しなや」

「無理だ! 落ち着けるか!」

「今日び小学生でも、もっと進んどるで」

「破廉恥かよ!」

 手を握る(恋人繋ぎ不可)ぐらいにしとけ。


「しゃーないなぁ。椿ちゃんに双子ちゃん、おもろ……いや真剣なとこ悪いけど授業が始まんで?」

 司お前、おもろいって言いかけただろ。後で殴らせろ。

「そうね。行きましょう、瀬名くん」

「おわっ! き、急に引っ張るなって」

「ちょっと待ちなさいよ!」

「まあまあ、雪ちゃん。家に帰れば凌ちゃんと一緒にいられるのは、氷奈たちだし。凌ちゃん、また後で」

 ニコニコ笑う氷奈が何気に椿へ牽制球を投げつける。

 ……天然、だよな? 目が笑ってないように見えたのは錯覚だよな?

 半ば引きずられるようにして校舎へ進んでいた為、見間違いだったと思いたい。


「なんや凌大くん、バラしても上手くいったみたいやん」

 隣を歩く司が、唐突に真面目なトーンで話し掛けてきた。

「ああ。有り難い話だよな」

「どういう経緯でそうなったのかしら」

 腕を組んだままの椿がチラリと視線だけを寄越してくる。

 まず解放してくれ。無視か。

 身じろいでも拘束は解けないので、そのまま昨日蘭丸に会ってからの一部始終を話すことにした。

 協力してくれた二人にはきちんと言っておくべきだろう。

 気を紛らわす意味もある。わざと当てに行ったんじゃねぇから!


「――ってことがあったんだけど」

「そう。乾くん、余計なことをしてくれたわね」

「弱った凌大くんに付け込むチャンスがのうなっ痛あッ!」

「黙りなさい司」

 容赦なく司の脛を蹴り飛ばした椿。

 ここの関係は今日も変わらずだ。ホッとする。

 昇降口に来てようやく解放されたことにも。


「めっちゃ痛い……。佐藤先生が言うてた他校生て、蘭丸くんとこの生徒やったんやな」

「らしい。危うく詫び入れに来られるとこだったぞ……」

「何それ、面白そうやん。久々に会ってみたいわー」

「いや普通に会えよ」

「僕が遊びに誘うたところで、来る思う?」

「……ねぇな」


 司と蘭丸はよく小競り合いをしていた。

 と言っても険悪なものではなく、飄々としている司に蘭丸がイライラして突っ掛かるみたいな軽いものだ。

 根本的には嫌い合っていないが別段仲が良くもない、という感じ。

 蘭丸は俺以外には誰にでもそんな態度だ。

 ……改めて考えるとマジでめちゃくちゃ懐かれてるな。


「いいわ。瀬名くんは押しに弱そうだから、このまま攻めるのみよ」

「大人しいと思ったら何を言い出す!?」

 上履きに穿き替えてから、ずっと黙って後ろを歩いていた椿がようやく喋った途端、口から出たのは不穏なセリフ。

 屋上の時みたいにまた何か考えてたな!?


「確かになぁ。凌大くんに駆け引きとかしたって絶対気付かへんし。分かり易うド直球で行くぐらいがええと思うわ」

「おい、ツッコめよ。普通に相槌打つなよ」

「もう押し倒せばええんとちゃう?」

「聞いてねぇ!」

「それはやり過ぎよ。赤面して逃げるのがオチだわ。思考回路が乙女だもの」

「案外スイッチ入るかもしれへんで?」

「なるほど。採用」

 存在を無視して勝手に出される結論。

 本人を目の前にする話か!? しかも学校の廊下で堂々と!


「……立花。失敗した時のリスクが高い。避けるべき」

「凌くんには荷が重いんじゃないの~?」


 愕然としていれば猥談に参加する二つの声。

 ルイスと篠宮だ。

 二人とも登校してきたばかりらしく、並んで後ろを歩いていた。

 ハーフの二人が並ぶと窓から差す太陽の光も手伝って、非常にキラキラしい。

 ここはランウェイか? と一瞬錯覚した。現実逃避だよ。


「庵西くん詳しく。篠宮アリスは黙ってなさい」

「ひど~い!」

「……ぎこちなくなる可能性大。避けられてフェードアウトも有り得る」

「どこまでなら許容範囲内かしら」

「ルイス。嫁を借りる時が来た。今すぐ貸してくれ!」

 なぜ自分の攻略ルート解説を聞かなきゃならない!


「……ごめん、凌大。立花が殺しそうなほど睨んでくるから貸せない……。あと俺もそろそろ限界。人が集まって来てる。無理……」

「裏切り者ぉおおお! 早く被って落ち着けコラァ!」

「諦めて椿ちゃんエンディングを迎えるんやな」

「うるせぇ! 鋭意検討中だ!」

 この場から逃走すべく廊下を駆け抜ける。

 目指すは屋上。

 教室を通り過ぎ廊下の角を曲がった時、前方不注意で誰かにぶつかってしまった。


「きゃっ!?」

「すんません! 大丈夫で――って、佐藤先生か」

「もう吾妻くん、ちゃんと前見なきゃダメよ」

 出席簿を取り落とし尻餅をつくのは、担任の佐藤先生。

 プンプンと怒ってくる先生に以前のような遠慮はない。プンプンて。

 腕を掴んで引っ張り起こせば、追い掛けてきた司がアホなことを言ってきた。

「ここにきて古典的な恋の落ち方やと……!?」

 落としたの食パンじゃねぇだろ。出席簿咥えてるとか妖怪かよ。好きになるか。


「やだ、先生朝ごはんは米派だわ……」

「どうでもいい情報!」

「ええー。せっかくノッたのに冷たい」

 残念がればいいのか。違うだろ。

「明日からは私もパンにしましょう」

「椿は貪欲すぎるぞ……」

「逃がすつもりないから」

 目がマジだ。捕食者のそれだ。

 ……俺が捕まる日もそう遠くないかもしれない。


 こうして俺の偽装生活は、一ヶ月もしない内に終了することになった。

 終わってみれば長かったような短かったような。

 たくさんのことを学んだ気がする。

 友情、家族愛、親愛、恋愛、色んな愛情にも改めて触れた。

 結果的には一人で空回っていただけだったかもしれないが、この経験は今後の人生で貴重な糧になるだろう。

 今日から俺はありのままの自分で生きていく。

 それを受け入れてくれる周りの人たちに感謝しながら。




 ――なんて思ってた時期が懐かしい俺です。

 あっという間に半年が過ぎ、二学期の終業式を迎えた。


 この日俺はもう一つ残っていた重大な案件と向き合うことにした。

 実の父親の影に捕らわれることを少しずつやめた俺が出した、椿の気持ちに対する答えを伝えることだ。

後編は12時投稿予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やだー!最終回やだー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。