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29話 思わぬ伏兵はここにもいた

 立て続けに想定外の出来事が起こり、いい加減キャパオーバーになりそうだ。

 頭が考えることを放棄してボーッとしてしまう。


「凌大くん危ない!!」


「あ?」

 顔を上げた途端、顔面に走る衝撃と痛み。

 授業中にボケッとしていた俺に鉄槌を下すような強烈な一発が、見事にクリーンヒットした。

 直後にテンテンと間抜けな音を立て転がって行くボール。

 誰かが蹴ったサッカーボールだ。


「…………っ、痛っえ」

 自覚した途端、心音に合わせて顔中がジンジンと鈍く痛み出す。

 次第に鼻の奥がツンとして、地面に赤い雫がポタリと落ちた。

「凌大くん大丈夫……やあらへん! 鼻血出てるやん!」

 サッカーコートに入っていた司が駆け寄ってきて、俺を見るなり少し慌てたようなデカい声を上げる。

「あー……出てるな。ちょっとだけ」

「ちょお見せてみ!」

「どわっ、近え! 顎クイすんな!」

 ゾワッと全身に立つ鳥肌。

 あまりに慣れた手つきに振り払う間もなかった。恐ぇなお前!

 店長みたいな雑草毟りスタイルじゃないのは元ハーレム王の片鱗……って知るか!


「よかった折れてへんな。ジッとしとかなあかんで。僕が代わりに報復しといたるから」

「待てコラ。どこのヤクザだ」

 司が冗談を言う辺り、大したことはないのだろうと安心したのも束の間。

「だ、だだだだ大丈夫ですかあああーーーー!?」

 俺より大丈夫じゃないやつが走って来る。

 多分、ボールを蹴った本人だろう。


 そいつは軽く茶に染めた短髪の男子で、体操服のネームを見れば『1―B 三戸(みと)』と書かれている。

 犯人は隣のクラスのやつだったらしい。

 今は体育の時間で、男女に分かれ二クラス合同で行われているのだ。

 俺と同じく待機組だった両クラスの男子どもが、三戸を憐れみの目で見た。

「……あいつ終わったな」「サッカー部期待の新人が一人消えたか……。同中で頑張ってたんだぜ……?」「うわぁ……」とか言ってる。

 なるほど威力があるわけだな。コントロールはもう少し頑張れ。


「は、鼻血が出てる……っ!!」

 俺の目の前に来るなり戦慄する三戸。

 こいつの方がよっぽと貧血で倒れそうな顔になり、そのまま膝から崩れ落ちた。PK戦に負けた時かよ。

「どっ、どうしよう!? 保健室いや病院!?」

「別に必要ねぇよ」

「慰謝料はきっと一千万とかだよね……?」

「いやだから必要ねーって」

「俺マグロ漁船に乗るしかない!?」

「いらねぇっつってんだろ!? 聞けよ!」

「いだっ」

 思わず三戸の頭をバシッと軽くはたいてしまい、我に返る俺と三戸。

 ほんの数秒見つめ合う。……ちょっと涙目じゃねぇかよ。


「悪ぃ……」

「ううん、全然。それより本当にごめん!」

「気にすんな。わざとじゃないんだろ」

「誓って!! で、でも」

 鉄パイプで殴られたならともかく、偶然ボールがヒットしたくらいだ。

 故意じゃないなら怒る理由もない。

 すげえ勢いで謝罪してくるコイツに毒気を抜かれたってのもあるしな。


 それにもし狙ってやったなら同じコートに入っていた司が見ていたはずで、何か言ってくるか俺より先に制裁を加えるだろう。

 念の為、司に視線を送れば首を横に振ってきた。やっぱり違う。

 椿や双子に当たったならわざとじゃなくても死刑だが、俺だし。

 グイッと手の甲で拭えばもう鼻血が垂れてくることもない。ケンカ三昧だった昔に比べれば、怪我の内にも入らない程度だ。

 まあ、最初の頃ぐらいしかマトモに食らったことはないが。


「こんなの大したことねぇよ」

「…………か、かっこいい!」

「は?」

 なぜか目をキラキラと輝かせる三戸。

 ヒーローに憧れるチビッ子みたいな、無邪気な顔を向けてくる。

 特撮ポジは爽やか男子であるお前の方だろ。やめろピュアな目で見んな!


「ほんま男前やなぁ」

「……嫌味か、司」

「褒めとるんやで? ちょっと昔を思い出したわ……」

 殴り合った時の話か、背中を預けてケンカした時の話か。司は複雑な顔で笑う。

 鼻血を拭う仕草で思い出す過去を持つ俺ってなんだ一体。

 つーか、ティッシュ欲しかったんだけど。


「大丈夫か、吾妻……?」

 ザワザワと注目が集まってくる中、体育教師が今更ながら気まずそうに顔を出してきた。

 関わりたくない、という態度が表れているようで、こいつの方がイラつく。


「平気なんで授業続けてください」

「そ、そうか。気分が悪くなったら保健室に行けよ?」

「……うす」

「お前らコートに戻れー」

 ホイッスルを鳴らしそそくさと退散する体育教師。

 クラス対抗試合を再開する為に、野次馬たちもゾロゾロとサッカーコートへ戻って行く。

「本当にごめん、吾妻くん!」

 三戸もペコリと頭を下げ戻って行った。


 律儀なやつだな。あんなやつがいるなら、ルイスの組はそう悪くない。

 ……少し安心した。あいつ今いないけど。


「で、なんでお前は戻らないの?」

 隣には未だ悪友が当たり前のように座ったまま。立ち上がる気など一切ない。

 むしろ寝転がり出した。おい。

「え? 疲れたから休憩しよかなと思て」

「自由人か!」

「堅いこと言いなや。たかが体育の授業やん」

「これだから成績のいいやつは……」


 中学時代に司の成績表を見たことがあるが、綺麗にオール四だった。

 全部が最高評価の一歩手前。

 授業態度が極めて不真面目なくせに、だ。

 サボらず真面目に出席していれば、満点評価は間違いなかっただろう。

 司のテスト結果は全教科百点が当たり前だったのだから。


 高校だってここよりずっと偏差値の高いところにも余裕で受かったはずなのに、わざわざ俺と同じ学校にしたりとか、司は勿体ないことをよくする。

 能力を生かそうとしない適当なフシがあるというか。

 そのおかげでこっちは楽しい学校生活を送れているんだが……。

 ちなみにもう一人の自由人ルイスは保健室で仮病中だ。

 体育はハードルが高かったんだと思う。嫁、被れないしな。


 なんてことを考えている間にも目の前では試合が再開され、グラウンドに賑やかさが戻り始めた。

 勝手に抜けた司に教師が注意する気配もない。やはり問題は見て見ぬふりが好きらしい。

 吉田を見習え。泣き落としお悩み相談まで開催したぞ。

 そんな教師の性格を見越してか、変わらず待機組のやつらも呑気に雑談を再開させた。

「殴り掛かるかと思ったら拍子抜けだったな」「機嫌が良かったのか?」「さあ……? けど一人の少年が救われたな!」

 ……いや、聞こえてんぞモブども。


「好き勝手言うとるなぁ」

「ほっとけよ」

「分かっとるて。口先だけで何もようせん雑魚に興味あれへんし。そんなんに手ぇ出したら完全にイジメやん。蟻を踏み潰すようなもんやん」

 あ、怒ってるわこれ。

 こいつも大概、沸点が低い。敵意を向けてきた相手に限るが。

 そっとしておこうと思い、また何の気なしに雑談に耳を傾ける。

 今度はグラウンドにちゃんと目を向けていたのに、次の言葉でそうもいかなくなってしまった。


「なあ、さっきオレ思ったんだけど、吾妻ってどっかで見たことない?」


 …………。は?

「いやねーよ。芸能人はないだろー」

「そうじゃなくて。高校入る前」

「中学の時ってことか? 確か最近名字が変わる前は『瀬名』だったよな。そんな名前の不良、同じ学校には多分いなかったぞ。あれだけ目立ってたら分かる」

「オレもそうだけどさ、なんか見たことある気がするんだよなぁ」

「近隣中学で有名だった不良って言ったら『キング』じゃね?」


「「ブフォッ!!」」

 司と同時に盛大にむせた。こいつも聞いていたらしい。

 雑談していた連中――同じクラスのやつらが一斉に不審な顔でこっちを見る。

 司に『どうする』とアイコンタクトを送ると首を横に振ってきた。了解。

「何でもねぇから気にすんな」

「ごめんやで。ちょっとむせたわ」

 二人揃って平静を装ってみたが、もう手遅れだったらしい。


「ああーーーーーーーー!! 分かった!」

 ちょっとヤンチャそうな見た目の提議者が気付いたように俺を指差す。


「髪色とか色々変わってるから気付かなかった! 『キング』じゃん!」


「「「「「「「「「えっ……」」」」」」」」」

 一気に凍り付く場。

 そこにいる全員が固まり、数秒時が止まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いですね! もう冬ですから体調には気をつけてください! 応援しています‼️ [一言] 更新を、心待ちにしています。
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