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25話 たまにはこんな休日も

 佐藤先生と吉田が妙な絡み方をするようになった金曜日を乗り越え、迎えた土曜日。

 学校は休みだし今日はバイトもない。

 とことん寝るぞ! とはいかなかった。


「思ったより混んでますね」

「氷奈、迷子にならないでよ?」

「雪ちゃん。氷奈はもう高校生だから平気だよー」


 学生、家族連れ、恋人同士で賑わう大型ショッピングモールに俺はいる。

 双子の希望により三人で遊ぶことになったからだ。

 休日は寝て過ごす権利を求めて働くお父さんお母さんたちと共にデモを起こしたい……。

 とはいえこれも仲良し家族計画の一環ぽいので、断ることができなかった。

 クソほど眠い頑張れ瞼。


「凌ちゃん? どうしたんですか? ボーッとして」

「え? あ、ちょっと眠くて」

「これじゃ凌大の方が迷子になりそうね」

 いっそなりたい。なってどこかで寝こけたい。

「じゃあ凌ちゃん、はぐれないよう手を繋ぎ――」

「めっちゃ目が覚めた! 超元気!」

 なのでこんな大勢の前で羞恥プレイは勘弁してください。


「そんなに必死になるほど嫌なんですか……」

「いや、さすがに子どもじゃないし、女の子同士でもないし……」

 兄妹とはいえ年が年だ。問題しかないだろ。

「そ、そうよ氷奈! いいから行くわよ」

「はーい」

 氷奈は少し不満げに雪奈の元へ駆け寄っていく。


 今日の雪奈は白いカットソーにデニムのミニスカートと黒ニーソ。氷奈は水色のゆるパーカーに白い短パンと黒レギンスという格好。

 同じ色味で合わせていて可愛らしい。

 俺は二人の二、三歩後ろを歩いているのだが、すれ違う人がチラチラと盗み見ていくのがよく分かる。

 スーパーでもそうだったが、やっぱ目立つな。

 ナンパしてきそうな野郎どもを密かに目で殺しながら後をついていけば、雪奈と氷奈は女性と男性両方の服を取り扱うショップの前で立ち止まった。

 服を買うのか。


「凌ちゃん、ここに入ってもいいですか?」

「いいよ。というか、俺のことは気にしなくていいから」

「何言ってんの。凌大も入るのよ」

 は? と思っていると両方から服の袖を引っ張られ、店内へと連れ込まれる。

 ちょまっ、強引な客引き反対!

「あの、なんで俺まで」

「凌大の服をコーディネートするから」

 ……これ、暗に私服がダサいって言われてんの?


 自身を見下ろせばTシャツにアンクルパンツ、足元はシンプルなスニーカー。

 変な格好と言われるほど冒険したスタイルではない。

 オラついたシルバーアクセも処分したから付けていないのだ。

 これでも何か駄目なのだろうか。


「凌ちゃんスタイルがいいので、似合う服を考えるのが楽しそうだなって思ったんですが、ダメですか?」

「へ?」

「何の変哲もないVネックをそんなエロかっこよく着こなす凌ちゃんなら、きっと何でも似合うと思うんですよ!」

「……俺ディスられてる?」

「ぅえ!? ち、違います! 全力で褒めてますよ!」

「ただそういうデザインだとしても、ちょっと胸元が開きすぎな気はする」

 若干赤く染まった頬で言ってくる雪奈に、失敗だった理由を指摘された。


 鎖骨がちょっと見えるぐらいで大袈裟な。

 襟周りがゆるいのは確かだが、そこらの女子が着てる服とそう大差ない。

 とは言えないので「そうかな?」と鈍感なフリをして誤魔化すことにした。

「というわけで行きましょう!」

 こっちは誤魔化されなかったか……。


「俺はいいよ。今のところ必要ないし」

 リアル着せ替え人形になるのは勘弁だ。

 何より余計な服を買うぐらいなら将来の資金に回したい。

「カードで支払うから遠慮しなくていいわよ。あんまり使わないと、お父さんが心配するから」

「? なんで?」

「買い物する元気もないと思っちゃうみたいで、何か悩みがあるのかーって泣きながら訊いてくるんです」

 おい、マジか。

 どんな思考回路してんだ。ミニマリストだったらどうすんだよ。


「ならちょっとだけ見ようかな……」

 おっさんに泣かれるより着せ替え人形になる方が何万倍もマシである。多分。

「やった! 凌ちゃんを更に格好良くしますから!」

「決まりね。あ、氷奈。あの辺とかいいんじゃない?」

「ホントだ! 行きますよ凌ちゃん!」


 結局、あれやこれやと宛がわれ上下一式を購入した。

 たった二着で諭吉が三人も旅立つとか俺にはあり得ない買い物の仕方に、金銭感覚が爆破されそう……。

 他の男性客も俺に向かって爆発しろとか言っていた。テロリストばっかかよ。


   * * *


 次いで双子は女性用のアクセサリーなどが並ぶ雑貨屋に入るというので、俺は近くにあった休憩スポットのソファーで待つことにした。

 さすがに付き合えと言われなかったので一安心。

 あんなキャッキャウフフなスペースに入る勇気はない。司じゃあるまいし。

 あいつは堂々と入って行くから恐れ入る……。

 しかも歓迎ムードどころか女性店員を誑かす猛者だ。出禁になれ。


「眠ぃ」

 ふと腕時計を見ればもう十二時近く。

 同居前の休日なら今頃起き出す時間だ。

 一緒に住む人間が変わると、生活スタイルって変わるもんなんだな。

 午前中に誰かと買い物なんて少し前の自分には考えられなかった。

 遊ぶ場所と言えばゲーセンかお決まりの溜まり場で、時間は夕方から深夜。

 朝帰りだってザラ。

 こんないかにも健全なライフスタイルとは程遠かった。


 それでも見放さなかった母さんに、俺は一生頭が上がらない。

 ……今頃は直純さんと楽しい時間を過ごせているんだろうか。

 そう思いかけてやめた。

 新婚夫婦のハネムーンなんて想像するもんじゃねぇな。危うく親のラブシーンという誰も得しないどころかゲロ吐きそうな映像を浮かべるところだったわ。

 どんなグロ映画よりエグいじゃねぇか。


「凌ちゃん、お待たせ――って、どうしたんですか?」

「気分でも悪いの?」

 勝手に自爆してダメージを負っていると氷奈と雪奈が戻って来た。案外早い。

「……何でもないよ。いいのあった?」

「お揃いのイヤリングを買ったわ」

 見せてくれたのは黒猫と小さな星飾りのイヤリング。確かに似合いそう。


「二人ともネコが好きだね」

 家にあるミトンも、雪奈がオムライスに描いたのもネコだ。

「そうなんです! 本当は飼いたいんですけど、生き物を飼うのって大変だし、寿命があると思うとなかなか……」

「ああ……」

 吾妻家の人は優しいから、ペットロスになるのが容易に想像できる。

「それなら猫カフェでも行く?」

「行きたい!」

 珍しく雪奈が興奮気味に即答した。そ、そんなにか。

 早速スマホで最寄りの店を検索し、三人で向かうことにした。

 公共交通機関も使って二十分程度で辿り着けば。


「にゃーん」

「なーぅ」

 ネコたちにキャットタワー代わりにされる俺。なぜだ。


「な、なんで凌大に群がるのよ!」

「ズルいです!」

 教師といい、俺のモテ期は結ばれない相手にしか発揮されないのか。

 まあでも動物はやぶさかではない。

 もふもふな触り心地は極上の癒しタイムだった。



 こんな感じに週末を終え、ついに母さんと直純さんが帰って来る日を迎えた。

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