四
昼休み。
「なあ」
友達の佐伯が、俺の机を叩いた。
「今日、購買行く?」
「行く」
「じゃあ早く」
「ちょっと待って」
財布を取り出す。
そのとき、机の中にしまった写真が少しだけ見えた。
俺は慌てて押し込む。
「ん?」
「なんでもない」
「ふーん」
佐伯は怪訝そうな顔をした。
「そういやさ」
「ん?」
「宮野と仲良くなった?」
「なんで?」
「最近よく話してるじゃん」
「昨日からだよ」
「去年も同じクラスだったろ」
「ほとんど話してない」
「へえ」
佐伯がニヤッと笑った。
「じゃあ今年は頑張れよ」
「何を?」
「何をって……」
佐伯は何か言いかけて、やめた。
「いや、なんでもない」
「なんだよ」
「ほら、行くぞ」
俺たちが教室を出ようとしたとき。
「……ねえ」
後ろから声がした。
振り返る。
宮野だった。
「今から購買?」
「そうだけど」
「……私も行っていい?」
「もちろん」
佐伯を見る。
「いいよな?」
「俺は別に」
宮野が少しだけ考えるように佐伯を見る。
そして、俺を見る。
「……やっぱり、二人で行ってもいい?」
「え?」
佐伯が固まった。
俺も一瞬、言葉に詰まった。
「……いいけど」
「ほんと?」
「ああ」
「よかった」
宮野が笑った。
教室を出る。
佐伯のニヤニヤした顔が背中に刺さっていた。
絶対、あとで何か言われる。
⸻
廊下を二人で歩く。
「……ごめんね」
宮野が言った。
「何が?」
「急に二人で行こうって言って」
「別にいいけど」
「ほんと?」
「うん」
「そっか」
しばらく歩く。
でも、宮野はなかなか話さない。
「……宮野」
「ん?」
「何か話したいことある?」
「え?」
「さっきから静かだから」
「あー……」
宮野は少し考えた。
「ある」
「何?」
「でも、今はいいや」
「なんだそれ」
「そのうち言う」
「いつ?」
「……いつか」
宮野は笑った。
その「いつか」が、なぜか妙に耳に残った。
⸻
購買は昼休みの生徒で混み合っていた。
「何食べる?」
「焼きそばパン」
「毎回それ?」
「好きだから」
「飽きない?」
「飽きない」
そのとき、購買のおばちゃんが声を張った。
「焼きそばパン、残り一個!」
宮野が振り向く。
焼きそばパンを見る。
それから俺を見る。
「……どうする?」
俺は一瞬考えた。
「半分こする?」
「……半分?」
「うん」
「焼きそばパンを?」
「そう」
宮野は少しだけ目を丸くした。
「……いいの?」
「宮野、好きなんだろ?」
「好きだけど……」
宮野は焼きそばパンを見る。
それから俺を見る。
「じゃあ……半分こ」
パンを買って、購買の横のベンチに座った。
袋を開ける。
俺がパンを半分にちぎろうとすると。
「あ」
「ん?」
「待って」
宮野が俺の手を止めた。
「……ちゃんと半分にして」
「そんな変わらないだろ」
「変わる」
「細かいな」
「重要だよ」
真剣な顔をしている。
俺は笑いながら、もう一度パンをちぎった。
「これでいい?」
「うん」
「じゃあ、はい」
「ありがと」
宮野が受け取る。
そして、少しだけパンを眺めた。
「……なんか、いいね」
「焼きそばパンが?」
「そうじゃなくて」
宮野は一口かじった。
「一緒に食べるの」
「まあ、そうだな」
「去年は、こういうことしなかったから」
「去年はそもそも、ほとんど話してないし」
「うん」
宮野は笑った。
「だから今年は、いっぱいしよう」
「何を?」
「こういうこと」
俺は返事をしなかった。
ただ、なぜか悪くないと思った。




