二.
放課後。
俺は一人、教室に残っていた。
提出する書類をすっかり忘れていたのだ。
「最悪……」
机の中を探していると、奥から一枚の写真が出てきた。
去年のクラス写真。
なんとなく眺める。
そこには、一年前の俺たちが写っていた。
まだ一年生だった頃。
制服も少しだけ新しく見える。
教室の前で、みんなが笑っている。
その中に、宮野もいた。
少し離れたところに、俺もいる。
去年は、ほとんど話した記憶がない。
同じ教室にいた。
同じ授業を受けていた。
何度か話したことがある。
でも、それだけだった。
「……こんな顔してたんだ」
写真の中の宮野は、今より少し幼く見えた。
「まだいたんだ」
「――っ」
振り返る。
教室の後ろのドアに、宮野が立っていた。
「びっくりした?」
「……した」
「ふふ」
宮野は笑いながら、こちらへ歩いてくる。
「それ、去年の写真?」
「ああ」
「懐かしいね」
そう言って、俺の隣に立った。
教室には、俺たち二人しかいない。
さっきまで廊下から聞こえていた声も、いつの間にか遠くなっていた。
「ねえ」
「ん?」
「去年よりさ」
宮野が写真を眺めながら言った。
「今年は、もっと仲良くなれるかな」
俺は答えなかった。
代わりに、手に持っていた写真を宮野へ差し出す。
「はい」
「……え?」
「これ、見るんだろ?」
宮野は一瞬だけ目を丸くして、それから写真を受け取った。
「ありがと」
写真を両手で持って、じっと眺める。
「……懐かしいね」
「一年しか経ってないけどな」
「高校生の一年って、結構長いよ」
「そうか?」
「うん」
宮野は写真の端を指でなぞった。
「だって、一年前はまだ一年生だったんだよ?」
「まあ、それはそうだけど」
「今はもう二年生」
「そりゃそうだ」
「……なんか変なの」
宮野は小さく笑った。
俺は写真を見ながら、ふと一年間のことを思い返した。
入学式。
知らない教室。
まだ誰とも仲良くなっていなかった頃。
その中に、確か宮野もいた。
ただ、それだけだった。
「ねえ」
宮野が写真から目を離さずに言った。
「去年はもっと遠かったね」
「何が?」
「私たち」
写真の中で、俺たちは数人分の距離を空けて立っている。
「……まあ」
「今年は、もうちょっと近くなるといいね」
その言葉に、俺は何も返さなかった。
宮野も、それ以上は何も言わなかった。
しばらくして、宮野は写真を俺に返した。
「じゃあ、帰るね」
「ああ」
宮野が教室を出ていく。
その背中が廊下の角に消えるまで、俺は何となく見送っていた。
そして、自分でも理由が分からないまま、写真を机の中にしまった。




