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ゆず  作者: にく
春 - 主人公
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2/6

二.

 放課後。


 俺は一人、教室に残っていた。


 提出する書類をすっかり忘れていたのだ。


「最悪……」


 机の中を探していると、奥から一枚の写真が出てきた。


 去年のクラス写真。


 なんとなく眺める。


 そこには、一年前の俺たちが写っていた。


 まだ一年生だった頃。


 制服も少しだけ新しく見える。


 教室の前で、みんなが笑っている。


 その中に、宮野もいた。


 少し離れたところに、俺もいる。


 去年は、ほとんど話した記憶がない。


 同じ教室にいた。


 同じ授業を受けていた。


 何度か話したことがある。


 でも、それだけだった。


「……こんな顔してたんだ」


 写真の中の宮野は、今より少し幼く見えた。


「まだいたんだ」


「――っ」


 振り返る。


 教室の後ろのドアに、宮野が立っていた。


「びっくりした?」


「……した」


「ふふ」


 宮野は笑いながら、こちらへ歩いてくる。


「それ、去年の写真?」


「ああ」


「懐かしいね」


 そう言って、俺の隣に立った。


 教室には、俺たち二人しかいない。


 さっきまで廊下から聞こえていた声も、いつの間にか遠くなっていた。


「ねえ」


「ん?」


「去年よりさ」


 宮野が写真を眺めながら言った。


「今年は、もっと仲良くなれるかな」


 俺は答えなかった。


 代わりに、手に持っていた写真を宮野へ差し出す。


「はい」


「……え?」


「これ、見るんだろ?」


 宮野は一瞬だけ目を丸くして、それから写真を受け取った。


「ありがと」


 写真を両手で持って、じっと眺める。


「……懐かしいね」


「一年しか経ってないけどな」


「高校生の一年って、結構長いよ」


「そうか?」


「うん」


 宮野は写真の端を指でなぞった。


「だって、一年前はまだ一年生だったんだよ?」


「まあ、それはそうだけど」


「今はもう二年生」


「そりゃそうだ」


「……なんか変なの」


 宮野は小さく笑った。


 俺は写真を見ながら、ふと一年間のことを思い返した。


 入学式。


 知らない教室。


 まだ誰とも仲良くなっていなかった頃。


 その中に、確か宮野もいた。


 ただ、それだけだった。


「ねえ」


 宮野が写真から目を離さずに言った。


「去年はもっと遠かったね」


「何が?」


「私たち」


 写真の中で、俺たちは数人分の距離を空けて立っている。


「……まあ」


「今年は、もうちょっと近くなるといいね」


 その言葉に、俺は何も返さなかった。


 宮野も、それ以上は何も言わなかった。


 しばらくして、宮野は写真を俺に返した。


「じゃあ、帰るね」


「ああ」


 宮野が教室を出ていく。


 その背中が廊下の角に消えるまで、俺は何となく見送っていた。


 そして、自分でも理由が分からないまま、写真を机の中にしまった。

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