決死の突破口
戦場に落ちた兜のひとりごと
私は一つの兜
かつては誇り高き武将の頭を守っていた
戦が始まれば主とともに前へ進み
矢を受け
刃を受け
幾度も傷を刻まれてきた
今は静かに土の上に横たわっている
私の主はもうここにはいない
けれど悔いはない
守るべきものを守ろうと最後まで立ち続けたから
今日もまた新たな武将たちが命を懸けて戦っている
その姿を見ていると、鉄でできた私の胸まで熱くなるような気がする
どうかこの戦いが、命を奪うためではなく命を守る戦いとして語り継がれますように
――戦場に落ちた兜
第八十八章
決死の突破口 勝家、命を懸ける
朝日が昇り始めても、戦場には黒い雲が立ち込めたままだった
敵軍は絶え間なく押し寄せ、信長たちは再び包囲されていた
槍が折れ
弓は尽き
兵たちの息は荒い
誰もが限界だった
柴田勝家は信長の隣へ歩み寄る
その鎧は傷だらけで、肩からは血が流れ落ちていた
それでも、その顔に恐れはなかった
「殿」
「このままでは皆がここで果てます」
信長は静かにうなずく
「分かっておる」
「だが突破口が見つからぬ」
勝家はゆっくりと戦場を見渡した
敵軍の中央
そこだけがわずかに守りが薄い
だが、その先には数千の敵兵が待ち構えていた
普通なら誰も突撃など考えない
しかし勝家は静かに笑う
「ならば」
「わしが道を開きます」
信長はすぐに首を横へ振った
「ならぬ」
「それは死を意味する」
勝家は豪快に笑う
「殿」
「わしは若い頃から無茶ばかりしてきました」
「最後まで無茶をしてこそ柴田勝家です」
利家が叫ぶ
「勝家殿」
「一人で行くつもりですか」
勝家は振り返る
「一人で十分だ」
「お前たちは殿を守れ」
藤吉郎は拳を握る
「そんなことはできません」
勝家は藤吉郎の肩へ手を置く
「お前はこれから先も殿を支える男だ」
「ここで命を捨てるな」
その言葉に藤吉郎は何も返せなかった
勝家はゆっくりと信長の前へ進む
「殿」
「お願いがございます」
「必ず生き延びてください」
「殿が目指す未来を、この目で見たい者は数え切れぬほどおります」
信長は静かに答える
「勝家」
「必ず戻れ」
勝家は笑った
「戻れるよう努力はします」
「ですが」
「もし戻れなければ」
「酒だけは供えてください」
周囲から小さな笑い声が漏れる
張り詰めた空気が一瞬だけ和らいだ
勝家は巨大な槍を握り締める
「柴田勝家」
「いざ参る」
雄叫びとともに馬へ飛び乗る
「おおおおおおっ」
馬は一直線に敵軍へ突撃する
敵兵たちは驚き叫ぶ
「止めろ」
「突っ込んできたぞ」
勝家の槍が唸る
一撃で数人の敵兵をなぎ倒し
馬は止まらない
さらに前へ
さらに奥へ
敵陣深くまで突き進んでいく
その姿を見た兵たちは目を見開いた
「勝家殿が」
「一人で敵陣を」
敵軍は勝家へ集中する
その瞬間だった
信長は刀を抜く
「今だ」
「全軍」
「前へ」
利家が駆ける
藤吉郎が続く
丹羽長秀も槍を掲げる
道三と義龍も兵を率いて前へ進む
勝家が命を懸けて開いたわずかな道
そこへ全軍が雪崩れ込む
戦場は再び激しい激突に包まれた
その中で勝家は静かに笑っていた
「殿」
「未来は」
「必ず守ってください」
その言葉は戦場の喧騒に消えながらも
確かに信長の胸へ届いていた
新たな突破口は開かれた
だがその代償は、あまりにも大きなものになろうとしていた
戦太鼓のひとりごと
私は戦太鼓
私の音が鳴り響けば、人々は覚悟を決める
進めという音
耐えろという音
生き抜けという音
その一打ごとに、多くの武士たちは前へ踏み出してきた
だが私が本当に鳴らしたい音は、勝利を祝う音ではない
戦が終わったことを知らせる音
人々が武器を置き、笑顔で家へ帰る日を告げる音
その日のためなら、私は何度でも力いっぱい響こう
信長たちの戦いが終わるその時
私の最後の一打は、未来への祝福となって大地へ響き渡るだろう
――戦太鼓




