受け継がれる炎
軍旗のひとりごと
私は軍旗
戦場の最前線で風を受けながら、何人もの武将と兵たちを見守ってきた
勝利の日には高く掲げられ
敗れた日には静かに折りたたまれる
風が強く吹けば大きく揺れ
雨の日には重く濡れながらも倒れることはない
信長の軍勢が前へ進む時
私はいつもその先頭で空を見上げている
兵たちが見ているのは私ではない
私の向こうに立つ信長の背中
その背中を信じる心がある限り、私は何度でも風を受けてはためき続ける
今日も新しい戦いが始まる
私はその始まりを静かに見届ける
――軍旗
第八十七章
受け継がれる炎 信長と家臣たちの誓い
夜明け前の戦場は静まり返っていた
風が吹くたびに折れた旗が揺れ、燃え残った焚き火から小さな火の粉が舞い上がる
信長は静かに刀を鞘へ納めた
全身は傷だらけ
鎧には無数の傷跡が刻まれ、足元には流れた血が赤く染み込んでいた
それでも信長は倒れなかった
その姿を見つめる家臣たちも、誰一人としてその場を離れようとはしない
前田利家がゆっくりと信長の前へ歩み出る
「殿」
「私たちはまだ戦えます」
柴田勝家も槍を肩へ担ぎながら笑った
「こんなところで終わるような命なら、とっくに捨てておる」
丹羽長秀は静かに周囲を見渡す
「兵たちも殿を信じています」
「その想いは決して消えておりません」
木下藤吉郎も傷だらけの顔で笑う
「殿が前を向く限り、俺たちは何度でも立ち上がります」
信長は家臣たちを見つめた
一人ひとりの顔には疲労が浮かんでいる
傷も深い
それでも瞳だけは力強く輝いていた
「皆……」
「ここまで余についてきてくれたな」
利家は大きくうなずく
「これからもです」
勝家は豪快に笑う
「殿より先には死ねませぬ」
藤吉郎は拳を握る
「天下人ではなく、人を守る殿だからこそついていきたいんです」
その言葉に兵たちも次々と声を上げる
「最後までお供します」
「命を預けます」
「未来を守りましょう」
戦場に力強い声が広がる
信長は静かに空を見上げた
黒雲の隙間から一筋の光が差し込んでいる
「余は一人ではなかった」
「皆がいたからここまで来られた」
「ならば」
「この命が尽きるその時まで」
「皆と共に歩もう」
信長は刀をゆっくりと抜き、朝日に向かって掲げた
その刃は黄金色に輝き、戦場を照らしていく
兵たちも一斉に槍や刀を掲げる
「おおおおおっ」
その雄叫びは山々へ響き渡り、長良川の流れを震わせた
敵陣ではその声を聞いた兵たちが思わず顔を見合わせる
「まだ戦うのか」
「何という結束だ」
「心が折れない」
敵将は険しい表情で信長を見つめる
「織田信長」
「お前という男は兵の心まで変えてしまうのか」
信長は静かに敵を見据える
「人は命令だけでは動かぬ」
「信じ合う心があるから前へ進める」
その言葉に再び兵たちの士気は高まる
誰も恐れてはいなかった
誰も逃げようとはしなかった
仲間を信じ
未来を信じ
信長を信じ
その想いだけが戦場を満たしていた
やがて東の空から朝日が昇り始める
新しい一日が始まる
それは新たな戦いの始まりでもあり
新たな希望の始まりでもあった
信長は静かに前へ歩き出す
その背中を、すべての家臣たちが力強く追いかけていった
足跡のひとりごと
私は足跡
土の上に残る小さな証
風が吹けば消え
雨が降れば流される
それでも歩いたという事実だけは消えない
信長が歩いた道にも
家臣たちが駆け抜けた道にも
名もなき兵たちが命を懸けて進んだ道にも
私は静かに刻まれてきた
英雄だけが歴史を作るのではない
一歩を踏み出したすべての人が歴史をつないでいる
いつの日か戦が終わり
この大地を子どもたちが笑顔で歩く日が来るなら
その小さな足跡もまた、新しい時代の始まりになる
私は今日も静かに残り続ける
未来へ向かって歩いた人々の証として
――足跡




