表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もし信長が生きていたら ― 本能寺から始まるもう一つの天下 ―  作者: マーたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/71

天下人と艦隊総督

羽柴秀吉の一言


海の向こうにも、英雄はおる。


だが、この日のためにわしは知った。


英雄とは、強さだけではない。


互いを信じ、言葉を交わし、争いを避けようとする心こそ、本当の強さなのだと。


異国の大艦隊を前にしても、上様は決して恐れなかった。


剣ではなく、まず言葉を選ばれた。


それこそが織田信長というお方じゃ。


されど、天下はそう甘くはない。


平和を望まぬ者は、どこの国にも必ずおる。


海の向こうから来た新たな脅威。


そして、その裏で動く陰謀。


これより始まる戦いは、日本だけでは終わらぬ。


世界を巻き込む、新たな歴史の幕開けじゃ。


――羽柴秀吉

第五十七章 天下人と艦隊総督


若狭の港。


夜明け前の海は静まり返り、波の音だけが岸辺に響いていた。


見張り台の兵士たちは交代しながら沖合を見つめている。


その時だった。


「……船だ。」


一人の兵士が目を凝らす。


「いや、一隻ではない!」


鐘が激しく鳴り響く。


「総員配置!」


「港を閉鎖せよ!」


霧の向こうから、巨大な帆船が次々と姿を現した。


十隻。


二十隻。


三十隻――。


漆黒の帆に黄金の紋章。


日本では誰も見たことのない巨大な艦隊だった。


港町は騒然となる。


漁師たちは漁を中止し、商人は店を閉め、子どもたちは家へ戻された。


「敵襲か!」


「いや、異国の船だ!」


「まさか南蛮よりも大きな国があるというのか……。」


その報せは、わずか半日で京へ届いた。


二条御所。


信長は静かに報告を聞いていた。


秀吉、家康、十兵衛、弥助、信栄、綾姫も居並ぶ。


「上様。」


「船の数は三十隻以上。」


「兵の数は五千とも一万とも言われております。」


家康は腕を組む。


「もし敵意があれば、日本最大の危機になりますな。」


十兵衛は刀の柄に手を添えた。


「ですが、まだ一人も剣を抜いておりません。」


信長はゆっくり立ち上がる。


「ならば。」


「こちらから剣を抜く理由もない。」


「礼には礼をもって応える。」


その言葉に家臣たちは頭を下げた。


「はっ!」


数日後。


秀吉は三百の護衛を率いて若狭の港へ到着した。


港には異国の兵士たちが整然と並んでいる。


槍も剣も持っているが、一切構えてはいない。


まるで歓迎するかのようだった。


やがて旗艦から、一人の男がゆっくりと降りてくる。


漆黒の軍服。


青いマント。


胸には黄金の紋章。


艦隊総督レオン・ヴァルディス。


堂々とした歩みに、周囲の兵士たちは自然と道を開けた。


レオンは秀吉の前で立ち止まり、右手を胸に当てる。


「私はレオン・ヴァルディス。」


「東方遠征艦隊総督である。」


秀吉も深々と礼をした。


「羽柴秀吉と申します。」


「織田信長様の命により、お迎えに参りました。」


レオンは微笑んだ。


「歓迎に感謝する。」


「私は戦いに来たのではない。」


「英雄・織田信長と語り合うために来た。」


秀吉は少し安心した。


「それを聞いて安心いたしました。」


レオンは港町を見渡した。


人々は遠くから不安そうに見つめている。


レオンは部下へ命じた。


「兵たちに伝えよ。」


「町へ勝手に入ることを禁ずる。」


「民へ危害を加えた者は厳罰とする。」


部下は敬礼した。


「了解しました。」


その様子を見た秀吉は思った。


(この男は本当に民を大切にしている。)


その夜。


港では異国の兵士たちが焚き火を囲み、日本の兵士たちと言葉は通じずとも笑顔を交わしていた。


魚を焼く者。


楽器を奏でる者。


子どもへ小さな木彫りの玩具を渡す兵士。


港の人々も少しずつ警戒を解いていく。


その光景を見た秀吉は微笑んだ。


「戦ではなく、交流から始まるとは。」


翌日。


レオンは少数の護衛だけを連れ、京へ向かうことを決めた。


「総督!」


部下が止める。


「危険です!」


レオンは笑う。


「相手が私を信用してくれねば、友好など築けない。」


「まずはこちらが信じるべきだ。」


京。


二条御所。


信長は庭園で静かに池を眺めていた。


そこへ秀吉が戻る。


「上様。」


「総督レオン殿をお連れしました。」


信長はゆっくり振り返る。


レオンも歩み寄る。


二人は数歩の距離で立ち止まった。


長い沈黙。


やがて信長が笑った。


「遠い海を越えて、ご苦労であった。」


レオンも笑みを返す。


「あなたこそ。」


「お会いできて光栄です。」


信長は広間へ案内する。


豪華な宴ではなく、質素ながら心を込めた食事が並べられていた。


焼き魚。


味噌汁。


炊きたての白米。


漬物。


そして酒。


レオンは驚いた。


「英雄の宴とは思えぬほど質素ですね。」


信長は笑う。


「贅沢は民が豊かになってからでよい。」


「余一人が豪華な食事をしても意味はない。」


レオンは静かにうなずいた。


「あなたは噂以上の人物だ。」


食事の後。


二人は庭園を歩く。


信長は尋ねる。


「海の向こうには、どのような世界がある。」


レオンは遠くを見つめた。


「広い大陸があります。」


「砂漠。」


「雪原。」


「巨大な帝国。」


「数え切れぬ王国。」


「そして終わらぬ戦。」


信長は興味深そうに耳を傾ける。


「日本だけが世界ではないのだな。」


「ええ。」


「だから私は、あなたに会いたかった。」


「あなたなら世界とも渡り合える。」


その頃――。


旗艦の地下では。


副司令官ヴォルグ・カイゼルが密かに兵を集めていた。


「総督は甘すぎる。」


「友好など時間の無駄だ。」


机には日本全土の地図。


京、大坂、堺、博多……。


赤い印がいくつも付けられていた。


「まず港を奪う。」


「次に京。」


「最後に信長を討つ。」


部下が尋ねる。


「しかし総督は。」


ヴォルグは冷たく笑う。


「必要なら消えてもらう。」


その言葉を、扉の外で一人の若い士官が聞いてしまう。


「まさか……。」


若き士官アレンは震えながら走り出した。


「総督へ知らせなければ!」


しかし背後から黒い影が迫る。


「聞いたな。」


ヴォルグの刺客だった。


夜の港を舞台に追跡劇が始まる。


一方その頃。


信長とレオンは月を眺めながら酒を酌み交わしていた。


まだ二人は知らない。


互いの国を戦争へ導こうとする陰謀が、すぐ足元まで迫っていることを。


天下統一の英雄・織田信長。


大艦隊を率いる総督・レオン・ヴァルディス。


二人の友情が試される、新たな物語が幕を開けようとしていた。

登場人物


織田信長おだ のぶなが

天下を統一した戦国武将。戦ではなく対話を重んじ、異国との友好関係を築こうとする。


羽柴秀吉はしば ひでよし

信長の忠臣。若狭の港で異国の艦隊を迎え、総督レオンとの最初の交渉を務める。


徳川家康とくがわ いえやす

冷静沈着な武将。異国勢力の真意を見極めようとし、信長を支える。


柳生十兵衛やぎゅう じゅうべえ

柳生新陰流の剣豪。信長の護衛として行動し、万一の事態に備える。


弥助やすけ

信長の側近。優れた武勇を誇り、異国の兵士たちからも一目置かれる存在。


織田信栄おだ のぶひで

信長の嫡男。父とともに新時代を切り開く若き武将。


綾姫あやひめ

信長の側室。戦乱を乗り越え、平和な世を支えようとする。


艦隊総督 レオン・ヴァルディス

東方遠征艦隊を率いる総督。織田信長との友好を望み、日本との平和的な交流を目指して来航した。


ヴォルグ・カイゼル

艦隊副司令官。総督レオンとは異なり、日本征服を企む野心家。密かに陰謀を進める。


アレン

艦隊の若き士官。ヴォルグの陰謀を偶然知り、総督レオンへ真実を伝えようと奔走する。


異国の艦隊兵

レオンに忠誠を誓う精鋭たち。規律を重んじ、多くは日本との友好を望んでいる。


若狭の港の人々

突然現れた巨大艦隊に驚きながらも、異国の人々との交流を通して少しずつ理解を深めていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ