四天王の陰
足利義昭の一言
信長よ。
天下を手にしたからといって、勝ったと思うのは早い。
黒鬼玄武は、我が四天王の一人にすぎぬ。
残る三人は、それぞれ武勇、知略、謀略に秀でた者たち。
おぬしの築いた平和を、そう簡単には完成させはせぬ。
さあ、信長。
これからが本当の試練の始まりじゃ。
――足利義昭
第三十五章 四天王の陰
夜の山寺。
ろうそくの炎だけが部屋を照らしていた。
足利義昭は静かに座り、目を閉じていた。
その前には、僧侶の姿となった明智光秀がひざまずいている。
「義昭様。」
光秀は深く頭を下げた。
「黒鬼玄武が敗れました。」
義昭はゆっくりと目を開く。
「……そうか。」
しばらく沈黙が流れる。
やがて義昭は静かに笑った。
「まあ、光秀よ。」
「慌てるでない。」
光秀は顔を上げる。
「義昭様……。」
義昭は立ち上がり、部屋の奥へ歩いていく。
そこには四つの甲冑が並べられていた。
一つは、黒鬼玄武が身に着けていた黒い甲冑。
義昭はその前で立ち止まる。
「こやつらが、我が四天王。」
「玄武は、その一人にすぎぬ。」
光秀は息をのんだ。
「まさか……。」
義昭はゆっくりと残る三つの甲冑へ目を向ける。
「まだ三人残っておる。」
「信長が黒鬼玄武を倒した程度で、天下は揺るがぬと思っているのなら甘い。」
その時。
部屋の障子が静かに開いた。
三つの人影が姿を現す。
一人は白銀の鎧をまとった剣士。
一人は紅蓮の陣羽織を羽織る大男。
そして最後の一人は、顔を仮面で隠した軍師だった。
三人は義昭の前でひざまずく。
「お呼びでしょうか。」
義昭は満足そうにうなずく。
「時は来た。」
「信長の天下を終わらせる。」
光秀は三人を見つめ、静かにつぶやいた。
「これが……四天王。」
義昭は笑みを浮かべる。
「信長は、これまで力だけの敵と戦ってきた。」
「しかし、これからは違う。」
「武、知、謀。」
「すべてを兼ね備えた者たちが相手だ。」
一方その頃、京。
信長は夜空を見上げていた。
風が静かに吹き抜ける。
「嫌な風だ。」
信栄が隣へ歩み寄る。
「父上?」
信長は目を閉じる。
「新たな敵が動き始めた。」
「そんな気がしてならぬ。」
遠く離れた山寺で、義昭は不敵に笑う。
「さあ、始めよう。」
「第二の天下争いを。」
静かな夜の闇の中、四天王の陰が、ゆっくりと信長へ忍び寄っていた。
明智光秀の一言
信長様……。
本能寺のあの日、私はあなたを討ちました。
ですが今、再びあなたの前に立つことになるとは、運命とは皮肉なものです。
義昭様に仕える身となった今、私は自らの信じる道を進みます。
果たして、この戦いの先に待つものは天下泰平か、それとも再び乱世か。
その答えは、これから明らかになるでしょう。
――明智光秀




