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歴史そのもの

二人の信長が、ついに同じ場所に立ちました。


一人は、本能寺を生き延びた信長。


もう一人は、その先の未来を生き抜いた信長。


同じ顔を持ちながら、二人が歩んだ道はまったく違います。


未来の信長は、失うことを恐れました。


大切な人を失いたくない。


国を壊したくない。


二度と戦を起こしたくない。


その願いから、未来を管理しようとしました。


しかし、信長が未来の自分に伝えたのは、もっと単純なことでした。


人は間違える。


人は迷う。


それでも、自分で選んで歩いていく。


歴史を一つに決める必要はない。


過去を消す必要もない。


未来を恐れる必要もない。


すべてを背負ったうえで、次の一歩を選べばいい。


二人の信長が選んだ答えによって、世界は再び動き始めます。


そして信長たちは、元の時代へ帰ることになりました。


しかし――


未来へ行ったことで、信長たちの旅は終わったわけではありません。


むしろ、ここから新しい物語が始まります。


海の向こうから届いた一通の手紙。


そこに書かれていたのは、


「次に見るべきものは、世界である」


という謎の言葉。


信長の目は、再び海へ向けられます。

第百十四章


歴史そのもの ― 二人の信長、最後の選択


未来の空は、赤かった


巨大な時の門が空中に浮かび、その周囲を無数の光が渦巻いている


街の建物には警報が鳴り響き、人々は避難を始めていた


道路を走る車は次々と停止し、空を飛んでいた乗り物も安全な場所へ移動していく


しかし、その中心に立っている四人は動かなかった


織田信長


真田幸村


九条蒼真――かつて天狼と呼ばれた男


そしてルーカス・ベルナール


さらに、その少し前にはもう一人の信長が立っている


未来を生きた信長


二人の信長は、同じ敵を見ていた


空に浮かぶ巨大な黒い影


顔はない


身体もはっきりとした形を持っていない


ただ、人間の姿に似た輪郭だけが存在している


その影から、低い声が響く


『歴史は一つでなければならない』


信長は刀を握った


「誰が決めた」


『歴史が決める』


「歴史とは何だ」


『人間が選んだ結果』


信長は笑った


「ならば、余たちが選べばよいではないか」


黒い影が揺れる


『選択はすでに終わっている』


「違う」


信長は一歩前へ出た


「人間が生きている限り、選択は終わらぬ」


幸村が隣に並ぶ


「その通りです」


蒼真も刀を抜く


「歴史が人間を決めるのではありません」


ルーカスは時の鍵を握りしめる


「人間が歴史を作る」


黒い影が大きく揺れた


『ならば証明せよ』


その瞬間だった


地面が大きく揺れた


未来の街の中心に、巨大な亀裂が走る


「うわっ!」


人々の叫び声が響く


建物の一部が崩れ落ちる


信長は反射的に走った


「人を助けよ!」


幸村が叫ぶ


「はい!」


四人は戦うことを一度やめ、人々の救出へ向かった


倒れた建物の下から子どもを助け出す


瓦礫の中から老人を引き上げる


逃げ遅れた人々を安全な場所へ誘導する


未来の信長も動いていた


最初は何をすればいいのか分からなかった


しかし、やがて一人の少女を抱き上げる


少女は震えていた


「怖い……」


未来の信長は少女を見る


「大丈夫だ」


「ここから出る」


少女は未来の信長の服を握った


その瞬間


未来の信長の表情が変わった


かつて自分が守ろうとしていたもの


国でもない


制度でもない


歴史でもない


目の前にいる、一人の人間


それだった


少女を安全な場所へ連れて行くと、未来の信長は立ち上がった


その目に、少しだけ昔の光が戻っていた


「……私は」


信長が振り返る


「何だ」


未来の信長は空を見る


「忘れていた」


「何を」


「人を守るということを」


信長は静かに頷いた


「ならば思い出せ」


二人は再び並んだ


その時


黒い影が巨大な腕を振り下ろした


「来るぞ!」


幸村が叫ぶ


ドォォォン!


巨大な衝撃波が街を襲う


信長は刀を地面に突き立て、踏ん張る


未来の信長も同じように構える


「二人で受けるぞ!」


「分かった!」


二人の信長が同時に走った


黒い影の腕が迫る


信長が刀を振る


未来の信長も刀を振る


二つの刃が同時に黒い腕へぶつかる


激しい光が爆発する


二人は吹き飛ばされる


幸村が駆け寄る


「信長様!」


「大丈夫だ」


信長は立ち上がる


未来の信長も立ち上がった


しかし、その腕には傷があった


黒い影から何かが飛び散る


それは黒い霧だった


ルーカスが叫ぶ


「効いています!」


信長は目を細める


「ならば、倒せる」


しかし、未来の信長は首を横に振る


「違う」


「何が違う」


「これは倒す相手ではない」


信長が見る


「どういう意味だ」


未来の信長は黒い影を見る


「これは私たちの恐怖だ」


「恐怖?」


「歴史を失う恐怖」


「未来を失う恐怖」


「自分の選択が間違っていたと認める恐怖」


「それが形になった存在だ」


信長は黙った


黒い影が声を上げる


『私は歴史』


『私は記憶』


『私は人間が積み重ねたすべて』


『私を消すことはできない』


信長は刀を下ろした


幸村が驚く


「信長様?」


信長は黒い影を見つめる


「ならば、消す必要はない」


『……』


「歴史を消すのではない」


「受け入れる」


黒い影が揺れる


『受け入れる?』


「そうだ」


信長は続けた


「本能寺のことも」


「光秀のことも」


「余が生き残ったことも」


「海外へ行ったことも」


「農民と戦ったことも」


「仲間を失ったことも」


「すべて余の歴史だ」


「都合の悪いことだけ消すつもりはない」


未来の信長が静かに続ける


「私も同じだ」


「私は間違えた」


「人々を守るつもりで、自由を奪った」


「その過ちを消したいとは思わない」


「残す」


「そして、二度と同じことをしない」


黒い影が大きく揺れた


『それでは、歴史が苦しむ』


信長は答えた


「苦しめばよい」


幸村が目を見開く


信長は続けた


「苦しみを知らぬ歴史など、ただの作り物だ」


「人間は間違う」


「だからこそ学ぶ」


「失敗する」


「だからこそ強くなる」


「歴史とは、勝者だけの記録ではない」


「敗れた者の涙も」


「裏切った者の苦しみも」


「守ろうとした者の決意も」


「すべて含めて歴史なのだ」


黒い影は何も言わなかった


長い沈黙が続く


やがて――


『ならば、問いを変えよう』


黒い影の姿が少しずつ変わる


人間の形に近づいていく


そして、その顔が現れた


信長の顔だった


だが、若い


本能寺へ向かう前の信長


まだ多くのものを知らなかった頃の信長


信長はその顔を見て、驚いた


「これは……」


黒い影が言う


『お前自身だ』


「余?」


『本能寺で死ぬはずだった、お前』


『すべてを知らず』


『すべてを恐れず』


『未来など考えず』


『ただ天下を目指していた、お前』


信長は昔の自分を見る


若い自分は、ただ前だけを見ている


敵を倒す


国を統一する


天下を取る


それしか考えていなかった


信長は少し笑った


「懐かしいな」


幸村が尋ねる


「昔の信長様ですか」


「ああ」


「だが、あの頃の余は何も知らなかった」


「だから強かった」


「そして、弱かった」


若い信長の姿が一歩近づく


『ならば聞こう』


『お前は、今の自分と昔の自分、どちらを選ぶ』


信長は答えなかった


昔の自分を否定することはできない


今の自分も捨てられない


どちらも自分だからだ


その時、未来の信長が言った


「どちらも選ばなくていい」


信長が振り返る


「どういう意味だ」


未来の信長は笑った


「昔の私も、今の私も、未来の私も」


「全部、私だ」


「だから私は、未来を選ぶ」


信長も笑った


「なるほど」


「ならば余もそうする」


二人の信長が並ぶ


その瞬間


時の鍵が強烈な光を放った


ルーカスが叫ぶ


「時の門が反応しています!」


空に巨大な扉が現れる


しかし今までとは違う


扉の向こうに、無数の世界が見える


本能寺で信長が死んだ世界


信長が生き残った世界


織田家が天下を取った世界


豊臣が天下を取った世界


徳川が天下を取った世界


戦国時代が長く続いた世界


海外との交流が途絶えた世界


逆に、日本が世界へ進出した世界


そして――


まだ誰も選んでいない未来


無数の可能性が広がっている


幸村は呆然とした


「こんなに……」


ルーカスも言葉を失う


「歴史が一つではない……」


信長は門を見る


「そういうことか」


黒い影が小さくなる


『歴史は一つではない』


『人間が選ぶたびに、新しい道が生まれる』


『だから、私は一つにしようとした』


未来の信長が答える


「もう必要ない」


『なぜ』


「人間は、一つの答えだけで生きる必要はない」


「それぞれが選べばいい」


黒い影が崩れ始める


『では、最後の問いだ』


『織田信長』


信長が見る


『お前は、本能寺で生き残ったことを後悔しているか』


その問いに


信長はすぐには答えなかった


長い沈黙


本能寺の炎


光秀の涙


海外で見た景色


幸村との出会い


天狼との戦い


農民たちとの戦い


仲間たちとの酒盛り


笑った日


怒った日


失った日


そして、今


信長はすべてを思い返した


そして答えた


「後悔していない」


黒い影が揺れる


「余は生き残った」


「だからこそ、出会えた」


「だからこそ、知った」


「だからこそ、間違えることもできた」


「もし本能寺で死んでいたなら」


「この景色を見ることもなかった」


「幸村と出会うこともなかった」


「お前と出会うこともなかった」


信長は未来の自分を見る


「だから――」


「余は、この人生を選ぶ」


未来の信長は目を閉じた


そして、静かに笑った


「私もだ」


二人の信長が同時に刀を納める


黒い影が完全に崩れた


そして最後に、声だけが響いた


『ならば、歴史を返そう』


その瞬間


巨大な時の門が光に包まれる


未来の街が元に戻っていく


壊れた建物が修復される


停止していた車が動き始める


空の雲が消える


人々が驚きながら街へ戻ってくる


そして――


黒き兵団も消えた


静かな朝が訪れた


未来の信長は空を見上げる


「終わったな」


信長は首を横に振る


「いや」


「始まったのだ」


未来の信長が笑う


「そうかもしれない」


二人はしばらく黙っていた


やがて未来の信長が言う


「帰るのか」


「ああ」


「過去へ?」


「いや」


信長は少し考える


「余たちの時代へ」


未来の信長は頷く


「それがいい」


少女が駆け寄ってくる


「信長様!」


未来の信長が振り返る


少女は笑っている


「これから、どうするんですか?」


未来の信長は少し考えた


そして答えた


「まずは、国民に謝る」


少女が目を丸くする


「謝る?」


「ああ」


「長い間、私は間違えていた」


「それを隠さない」


信長は笑った


「良いではないか」


「何がですか」


「天下人が民に頭を下げる」


「なかなか見られぬ光景だ」


未来の信長も笑う


「お前も昔なら、そんなこと言わなかっただろう」


「余も変わったのだ」


「そうだな」


二人の信長は握手をした


「また会えるか」


未来の信長が尋ねる


信長は時の鍵を見る


「分からぬ」


「だが、歴史が続く限り可能性はある」


「それなら十分だ」


未来の信長は一歩下がった


信長たちも時の門へ向かう


幸村が最後に振り返る


「未来の信長様」


「何だ」


「どうか、今度こそ人々と共に歩んでください」


未来の信長は頷いた


「約束する」


そして信長たちは門へ入った


光が身体を包む


未来の街が遠ざかる


最後に見えたのは


未来の信長と少女


そして、織田家の旗だった


やがて光が消える


信長たちは海岸へ戻ってきた


そこは、最初に時の門を開いた場所だった


波が静かに打ち寄せている


幸村が空を見る


「戻ってきましたね」


「ああ」


天狼が周囲を見る


「未来へ行ったとは思えません」


ルーカスは時の鍵を確認する


「しかし、記録は残っています」


「未来の記録?」


「いえ」


ルーカスは首を横に振った


「新しく書き換わっています」


古い本を開く


そこには新しい文章があった


『織田信長、本能寺より生還』


その下に、さらに一行


『その後、歴史を支配することなく、歴史と共に歩む』


信長はその文字を見る


「未来も変わったのか」


ルーカスは頷く


「おそらく」


幸村が笑う


「では、これで終わりでしょうか」


信長は首を横に振った


「いや」


「まだ余たちの時代が残っている」


「未来を見たからこそ、今をどう生きるかを決めねばならぬ」


天狼が笑う


「また忙しくなりそうですね」


信長も笑った


「ああ」


その時だった


海の向こうから、一隻の船が近づいてきた


船には見覚えのある旗が掲げられている


ルーカスが驚く


「これは……」


幸村が目を細める


「何の船ですか」


ルーカスは答えた


「ヨーロッパの船です」


信長は船を見る


「また海外か」


その瞬間


船から一人の男が降りてきた


男は信長を見ると、深く頭を下げた


「織田信長様」


「何者だ」


男は一枚の手紙を差し出す


「あなたに、海の向こうから届けられたものです」


信長が手紙を受け取る


封を開ける


そこに書かれていたのは――


『未来を見た者へ』


『次に見るべきものは、世界である』


信長は手紙を読み終える


そして、海を見る


幸村が尋ねる


「信長様」


「何だ」


「まさか……」


信長は笑った


「そのまさかだ」


「また海を越える」


天狼が苦笑する


「本当に休みませんね」


ルーカスも笑う


「歴史が終わるまで、旅は続くということですか」


信長は答えた


「歴史に終わりなどない」


「人が生きている限り、次の一日が始まる」


「ならば余も歩く」


「まだ見たことのない世界へ」


海から風が吹く


信長の髪を揺らす


その風は、未来から来た風なのか


それとも、これから始まる新しい旅の風なのか


誰にも分からない


ただ一つだけ確かなことがある


本能寺で終わるはずだった織田信長の人生は


もう、誰にも止められない


過去を越え


未来を越え


そして今度は――


世界へ


信長の新たな旅が始まろうとしていた

:::

未来での戦いを終えた信長たちは、無事に自分たちの時代へ戻ってきました。


しかし、帰ってきた信長は、以前の信長とは少し違っていました。


本能寺で生き残った意味。


過去を変えることの怖さ。


未来を支配しようとした、もう一人の自分。


そして、人間が自分の手で未来を選ぶということ。


そのすべてを知ったからです。


未来の信長もまた、変わりました。


人々を管理するのではなく、人々と共に歩く道を選びました。


それは、未来を完全に変えてしまうことではありません。


過去を消すことでもありません。


自分の間違いを認め、その先へ進むことでした。


信長は本能寺で死ななかった。


だからこそ、見たことのない未来を見ることができた。


未来を見たからこそ、今をどう生きるのかを考えることができた。


そして今――


信長たちの前には、再び海があります。


遠くからやって来た一隻の船。


そこから届けられた一通の手紙。


その手紙が、次の旅への扉を開きます。


未来の次は、世界。


日本の外には何があるのか。


誰が信長を待っているのか。


そして、海の向こうにある国々は、信長たちの存在をどう受け止めるのか。


本能寺から始まった「もう一つの天下」の物語は、


いよいよ日本という舞台を飛び出していきます。


次なる舞台は――


世界です。

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