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2年前のトラウマに囚われたら、幻覚が話しかけてくるようになった  作者: スズミヤ


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5/6

幻想の終わり

【前回までのあらすじ】


試験期間中、キョウラはナユキの姿を一度も見かけなかった。廊下で、教室で、どこにいても彼女はいなかった。


試験が終わった日、校門の前で立ち止まった。彼女がいつも待っていた場所は、誰もいないまま風に吹かれていた。


あの「欠落感」が再び脈打つ――。

今日 2025年2月15日。


試験が終わった。今日は、親友のイケと一緒に、試験終了のお祝いの会を開くことにした。クラスの友達も誘った。半分くらいしか来られなかったけど。


私たちは昼過ぎからキッチンに立って、料理の準備を始めていた。でも、突然イケが頭痛を訴えた。彼は薬を飲んで、客間で休むことにした。


私は一人で料理を続けた。


料理をしている途中、足りない材料があることに気づいた。イケはまだ寝ているし、コンビニまで買いに行くことにした。門を出た瞬間、ナユキに会った。


「キョウくん?どこに行くの?」


「コンビニ。ちょっと足りないものがあって。」


私たちは並んで歩きながら、いつものように話した。


「試験どうだった?うまくいった?」


「うん。ちゃんとできたよ。」


コンビニに着くと、ナユキは立ち止まった。


「キョウくん、私、公園のベンチで待ってるね。」


私はうなずいて、店内へ入った。買い物をしていると、またアイスクリームが目に留まった。前回、ナユキにあげられなかったことを思い出した。


今回は三つ買った。一つは自分用。一つはイケ用。そしてもう一つはナユキ用に。


レジを済ませて、ドキドキしながら公園へ向かった。また前みたいに、ナユキが消えているんじゃないかと怖かった。


でも、着いてみると、彼女はまだそこにいた。


ブランコに乗っていた。


私は近づいて、声をかけた。


「ねえ、ユキ。今日の夕方、うちでやるパーティーに来ない?」


「え?何のパーティー?」


「試験終わりのお祝い。クラスの友達とうちでやるんだ。」


「ああ、そうなんだ…でも、私が行ってもいいの?キョウくんのクラスだけのパーティーでしょ?」


「大丈夫だよ。クラス関係なく来ていいってことになってるから。」


「ああ、そうなんだ。じゃあ、行くね!」


ナユキは俺のビニール袋をチラッと見た。


「それ、材料を買ってきたんだね…もしかして、今から料理を作ってるの?」


「うん。イケと一緒に作ってたんだけど、彼、頭が痛いって言って休んじゃって。」


「ああ、かわいそうに。」


ナユキは立ち上がった。


「ねえ、私、手伝おうか?」


「え?いいの?迷惑じゃない?」


ナユキは小さく笑った。


「迷惑って何?私たち、幼なじみじゃん。じっとしてるより、キッチンで手伝ってた方がいいでしょ?」


私はさっき買ったアイスクリームを彼女に渡した。私たちはしばらくブランコに座ってアイスクリームを食べてから、一緒に家に帰った。


家に着くと、すぐに料理の準備を始めた。


数時間が経った。もうすぐ午後2時になろうとしていた。ナユキは疲れたようで、「ちょっと休ませて」と言って、リビングで休むことにした。私はうなずいた。私も疲れていたので、キッチンで少し残っていた作業を片付けながら休むことにした。


10分後。


突然、イケに驚かされた。


「バァ! 」


「わあっ!あ、イケか…もう良くなったの?」


「ああ、もう大丈夫。って、キョウ、これ…全部一人で作ったのか?俺、何を手伝えばいい?」


「うん、配膳の準備をしてくれればいいよ。」


「わかった。悪いな、キョウ。」


「いいよ、気にしないで。」


5分後。 全ての料理が完成した。


ナユキに手伝ってくれたお礼を言いたかった。でも、リビングに行ってみると、彼女の姿はどこにもなかった。隣のソファの席は空っぽだった。


「また…消えたのか?」


不安になりながら、イケに聞いてみた。


「ねえ、イケ。」


「うん?何?」


「ナユキ、見なかった?さっきまでここにいたはずなんだけど…手伝ってくれたからお礼を言いたくて。」


イケは一瞬黙った。そして、不思議そうな表情で私を見た。心配と戸惑いが混ざったような顔だった。


「えっと…キョウ。それって、ナユキ・ノキハラのことか?」


「そうだよ。他に誰がいるんだよ?」


「ねえ、キョウ…お前、まさか本気で忘れてるのか?」


「何を?」


「ナユキは二年前に引っ越したんだよ。北海道に。 」


「はあ?何言ってるんだ?彼女はさっきまでここで料理を手伝ってたんだぞ!なんでそんなこと言うんだよ!」


「落ち着けよ、キョウ。でも、これが事実なんだ。ナユキは二年前にもう――」


「うるさい!もういい、やめろ! 」


これ以上聞いていられなかった。


私は家を飛び出した。


走った。


ナユキの家に向かって、全力で走った。足は軽いのに、胸は張り裂けそうだった。彼女はあそこにいるはずだ。イケが間違ってる。ナユキはさっきまで確かに一緒にいた。アイスクリームを食べて、笑ってた。


彼女は現実だ。


ナユキの家の前に着いて、私は立ち止まった。


言葉を失った。


そこにあったのは、昔よく遊びに行ったあの家じゃなかった。暖かい灯りが玄関先に灯っていたあの家じゃなかった。


そこにあったのは、誰も住んでいない家だった。


生きている気配がまったくない。


枯れ葉が庭中に散らばっていた。どの窓も真っ暗だった。錆び始めた鉄の門には、分厚い埃が積もっていた。その家はあまりにも汚くて、まるで最初から誰も住んでいなかったかのようだった。


私は錆びた門の取っ手に触れた。手のひらに、ザラザラとした冷たさが伝わってくる。


音がしない。


「ただいま」の声も。笑い声も。「キョウくん、いらっしゃい」の声も。


ただ、2月の冷たい風だけが、長い間手入れされていない戸の隙間を通り抜け、かすかに唸っていた。


「何だよ…これ…」


私は自分に呟いた。


「じゃあ、今までずっと…?」


そしてその時、ダムが決壊したように、記憶たちが戻ってきた。


一つ一つ。一枚一枚。


ナユキと公園のベンチに座ったこと。ナユキと学校の廊下で話したこと。ナユキとコンビニへ行ったこと。ナユキと門の前で別れたこと。ナユキがブランコに乗っていたこと。ナユキがキッチンで笑いながら料理を手伝ってくれたこと。


そして、全ての記憶がある一点で止まった。


「最後のキッチン」で。


それ以降は、何もない。


一緒に帰った記憶も。教室の前で待っていた記憶も。隣にいてくれた記憶も。


――ずっと、ずっと私のそばにいてくれたのは、ただの幻だった。


私は錆びた門の前で、膝から崩れ落ちた。濡れた地面に膝がつく。手はまだ、冷たい鉄の柵を握ったまま。


でも、泣けなかった。


ただ、黙り込んだ。


目は虚ろに。


体はぐったりと。


まるで、全ての糸が同時に切れた操り人形のように。


そして、ゆっくりと地面から立ち上がった。足はまだ少し震えていたけれど、無理に歩き出した。足は自然とあの公園へ向かっていた。数週間前、ナユキと一緒に座ったあの公園。アイスクリームをあげられなくて、失敗したあの場所。


着いてみると、目に飛び込んできたのはブランコだった。


その上に、アイスクリームの棒が一つ、落ちていた。


アイスクリームはもうなかった。溶けてしまったのか、風に飛ばされたのか、あるいは最初からそこに存在しなかったのか。アイスクリームの棒だけが、虚ろに転がっていた。これまでずっと、全てが幻だったということを、より確かに証明しているかのように。


私はそれをしばらく見つめていた。


それから、向きを変えて家に帰った。


家の門の前で、イケが待っていた。彼は心配そうな顔で、私の頭のてっぺんから足先までじっと見つめた。


「キョウ…大丈夫か?」


私は答えなかった。ただ、門の前に立っていた。虚ろな目で――まるで、まだ歩ける死体のように。


イケは深く息を吸った。それから、そっと優しく、でも確かな力で、私の肩に手を置いた。


「なあ、キョウ。もういいんだ。過ぎたことは、過ぎたままにしとこう。


いいか?もうすぐ卒業だ。俺たちは新しい世界に進むんだ。自分の準備をしろ。ずっと過去に縛られたまま生きるな。


現実を受け入れろ、キョウ。たとえ…たとえそれが、痛くても。 」


なぜだろう。


きっと、彼の声があまりにも優しかったから。

彼の手が、肩に置かれたまま、温かかったから。

彼が僕を責めなかったから。気が狂ったとも言わなかったから。僕を見捨てて去っていったりしなかったから。


それとも、この2年間、一度も泣いたことがなかったからだろうか。


でもその時、心の中の最後のダムが決壊した。


2年前、ナユキが去ってからずっと――一度も出てこなかった涙が、突然、激しく溢れ出した。止められなかった。もう二度と隠せなかった。


僕は前に倒れ込んだ。両手でイケの服を掴んだ。彼を抱きしめた――少し強く抱きしめすぎたかもしれない。そして、2月の冷たい空気の中に、嗚咽が響いた。


「ナユキ…ごめん…」


涙と嗚咽で声は途切れ途切れだった。


「ちゃんと…ちゃんと別れを言えなくて…ごめん…自分のプライドが邪魔をして…ごめん…許して…」


イケは何も言わなかった。ただ、僕が涙が枯れるまで泣くのを許してくれた。時々、優しく背中を叩いてくれた。本物の親友がそうするように。


しばらくして、涙がようやく落ち着いた。


「なあ、キョウ。」


イケがそっと言った。


「もし…お前がそこまで辛いなら、いつか…俺が手伝うから。」


僕はその意味をすぐには理解できなかった。


でも、その時はただうなずくだけだった。


僕は、ずっと心の中に閉じ込めてきた感情を、全部吐き出した。何も残らないまで。


胸の奥が空っぽになったけど、でも、違う種類の空っぽだった。ずっと心に引っかかっていた重りが、ようやく落ちたような。そんな感覚だった。


泣き止むと、イケはそっと微笑んだ。


「もういいのか?続けるか?」


僕はジャケットの袖で目をこすった。


「うん。続けよう。」


私たちは家の中に戻った。あまり言葉を交わさずに、パーティーの準備を黙々と進めた。多くを語る必要はなかった。私たちの間の距離は、それで十分に温かかった。


数時間後、クラスの友達が一人、また一人と集まってきた。


笑顔。笑い声。久しぶりに聞く、家の中の賑やかな音。


今日という一日で起きた全てのこと――崩れ落ちるような絶望。涙。イケの抱擁。そして、あの錆びた門の前での現実――それらを通して、僕は一つだけ、確かなことに気づいた。


ずっと、自分自身を騙していた。


あまりにも身勝手だった。冷たい現実に向き合うよりも、幻と過ごす暖かい世界の中で生きることを選んでいた。


でも、今日からは――


前に進もう。


もう二度と、過去に縛られない。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


次がいよいよ最終話です。

1時間後に公開しますので、ぜひお楽しみに。


最後までよろしくお願いします。

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