無駄に溶けるアイスクリーム
【前回までのあらすじ】
2025年1月1日。キョウラは初詣でナユキと出会う。ピンクの着物を着た彼女と一緒に神社へ行き、二人でお願い事をした。
ナユキが人混みの中へ消えた後、キョウラの両親は奇妙な反応を見せる。何かを知っているかのような沈黙。
キョウラはまた、あの胸の奥の違和感を感じる――。
今日 2025年1月中旬。期末試験の2週間前。
空気はさらに冷たさを増していた。学校の中はひどく重い雰囲気だった。いつもは騒がしい廊下も、今は教科書を手にした3年生たちが急ぎ足で行き交うだけだ。
僕は図書館で追加の参考書を借りて、教室へ戻る廊下を歩いていた。すると、掲示板の前に一人の少女が立っているのが見えた。新しく貼られた試験日程を真剣に読んでいるようだ。
「大変だよね、日程がぎっしりで。」
少女はこちらを見ずに言った。
ナユキだった。彼女はきちんと制服を着こなし、こちらを向いてそっと微笑んだ。
「キョウくん、図書館から帰ってきたの?真面目だね。」
彼女はそう言いながら、歩調を合わせて隣に並んだ。
しかし、教室の前に着くと、彼女は立ち止まって手を振った。
「じゃあ、休み時間にね、キョウくん。私、こっちの教室だから。」
彼女は隣の教室へと入って行った。僕は一瞬、その後ろ姿を見つめてから、自分の教室へと足を踏み入れた。彼女が残してくれた束の間の温もりを感じながら。
日々は、山積みの教科書の重圧の下であっという間に過ぎていった。
下校のベルが鳴ると、外の空はもう青白いオレンジ色に変わっていた。荷物をまとめていると、いつものようにナユキが校門の近くで待っていた。
「帰ろう、キョウくん。」
僕たちは凍てつく歩道を並んで歩き、住宅街へと向かった。道すがら、いつものコンビニの前を通りかかった。
「ちょっとここで待ってて。お菓子を買ってくる。」
「うん、私はここで待ってるね。」
ナユキはそう言って、自販機のそばに背中を預けた。
「何も買いたいものないから。」
僕は温かい店内へと足を踏み入れた。冷凍食品の棚を通りかかったとき、目が留まった。期間限定の冬のアイスクリーム。
――そうだ、これを彼女にあげよう。
僕はアイスクリームを2つと、他にもいくつかお菓子を買って、すぐにレジへ向かった。
自動ドアが開き、僕はすぐにナユキが立っていた場所を見た。
「ユキ、これアイス――」
言葉が止まった。
そこには誰もいなかった。自販機のそばは空っぽだった。
僕はキョロキョロと左右を見回した。彼女が着ていた学生服の姿を探した。
――寒いから、ちょっと散歩してるだけかもしれない。
僕はコンビニの駐車場をぐるっと回り、脇の小さな路地まで覗いてみた。
でも、何も見つからなかった。
ナユキは完全に消えていた。
僕は数分間、道端に立ち尽くしていた。アイスクリームが入ったビニール袋が、手のひらを冷やし始める。
ずっと胸の奥にあったあの違和感が、今は不安に変わっていた。
結局、僕は重い足取りで、混乱した気持ちのまま、一人で家に帰ることにした。
帰り道、僕が買ったアイスクリームはビニール袋の中でゆっくりと溶けていった。
まるで、ぼやけて、もう何が何だかわからなくなっていく僕の記憶のように。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
明日、残り3話を公開して、この物語は完結します。
ぜひ最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
どうぞお楽しみに。




