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おもちゃのAIとわたし、終末世界だけどなんとかやってる  作者: 堀吉 蔵人


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26/40

西端の棚と、雨の日の拾い方

お読みいただきありがとうございます。楽しんでいただけると幸いです。

西へ進むほど、庭は親切をやめた。


最初のほうは、支柱の間に細い道があった。人ひとりぶんの隙間。足を置いていい土。風に押されても、よろける先が決まっている感じ。でも講師卓三を離れてからは、支柱が少しずつ意地悪な位置に立ちはじめた。右へ避けると札が頬に当たり、左へ寄ると紐が服に引っかかる。足元には短い杭が埋まっていて、油断するとつま先をぶつける。


「庭って、もっと歩きやすいものじゃないの」


「観察庭です」

くまが言う。

「かなり、観察される側の不便があります」


「不便を観察するな」


風下から外れたせいで、札の音も変わった。さっきまでは同じ方向へ流れていた紙の音が、今はあちこちで勝手に鳴る。ばらばらの手が、ばらばらの拍手をしているみたいだった。どこかで木が薄く打つ音も続いている。かたん。少し置いて、かたん。棚が風に返事をしている。


腹の中では、補食がまだ仕事をしていた。ありがたいけど、すごく強い味方ではない。固い穀物の四角は、わたしに「倒れるのは今じゃない」とだけ教えてくれる。水はもう喉の奥で消えた。


「西端って、端だからすぐだと思った」


「端は、だいたい遠いです」


「名言っぽく言わないで」


支柱の一本に、赤く色あせた札が巻きついていた。青い札ではない。文字も違う。わたしは風が弱くなる瞬間を待って、指で押さえる。


雨練習一回目。

濡れると、番号札から落ちる。

呼び方札は、拾うと少し残る。


「雨練習」


「はい」

くまの胸の星が弱く点いた。

「たぶん、濡らしました」


「誰を」


「札を」

少し間。

「あと、講師も」


それは、やりそうだった。想像しただけで、少し笑ってしまう。大人がひとり、真面目な顔で庭に水をまいて、紙と自分を同時に濡らしている。周りの機械には無駄だと怒られ、本人は記録が取れたから勝ちだと思っていそうだ。


その先で、紐の列が急に低くなった。しゃがまないと通れない高さだ。子どもならくぐれる。大人なら引っかかる。わたしは背中の荷物を押さえ、くまを前に抱え直した。


「ここ、講師は通れたのかな」


「かなり、引っかかりました」


「記憶?」


「推定です」

くまがきっぱり言う。

「講師は、引っかかる人です」


たぶん正しい。わたしは膝を曲げ、紐の下を抜けた。札が髪に触れる。紙の端が耳をかすめる。そこに書かれた文字は、ほとんど読めなかった。かすれた線、にじんだ丸、何度もなぞった跡。名前というより、残そうとした手つきだけが風に吊られている。


低い紐を抜けた先に、西端の棚があった。


棚、と言っていいのか少し迷うものだった。古い戸棚の上半分だけを切り出して、支柱四本で無理やり立たせてある。扉は片方がなく、もう片方は細い革ひもで結ばれていた。棚板には小さな穴がたくさん開いている。そこへ色の違う紐や、蝋引き紙の短冊や、針金を曲げた道具が差してあった。


一番上に、手書きの板。


結び直し棚。

雨天用。

先に拾う。次に乾かす。最後に叱られる。


「叱られるの込みなんだ」


「かなり、経験則です」


棚の足元には浅い箱が置かれていた。中には紙片が溜まっている。落ち葉みたいに軽い。青、白、灰色、赤。どれも端が丸まっていて、長く放っておかれた感じがした。でも箱の上には細い網がかけられている。飛ばないように、逃げないように。


網の端には小さな札。


落ちた呼び方。

持ち主不明。

廃棄はしない。


廃棄はしない。


その一行だけ、ほかより強く鉛筆が押しつけられていた。紙にくぼみが残っている。書いた人は、たぶん怒っていた。怒って、でも声を荒らす場所がないから、鉛筆だけ強くした。


「くま」


「はい」


「ここ、落ちた名前を捨てない場所だ」


「はい」

くまの声が少し小さくなる。

「かなり、拾っています」


棚の扉が、かたん、と鳴った。さっきから聞こえていた音だ。近くで聞くと、風だけじゃない。棚の奥で何か細いものが揺れている。扉の隙間から覗くと、内側に小さな風見羽がぶら下がっていた。講師卓三にあったものより古い。羽根の端は欠けて、軸は少し傾いている。


扉の革ひもには、結び目が三つあった。講師結び。最後だけ三回返し。


「開けていいと思う?」


「棚なので、たぶん開くためです」


「それはそう」


ひもをほどこうとした瞬間、棚の上の小さな丸いランプが点いた。赤じゃない。鈍い黄色。古い油みたいな色だった。


『西端棚を使用しますか』

『使用前確認』

『落下札を三件拾ってください』


「使用する前に働かせるやつだ」


『拾わない場合、棚は閉じます』

『拾った場合も、たぶん少し閉じます』


「なんで」


「講師寄りです」

くまが真面目に言った。

「かなり、棚も叱られています」


わたしは浅い箱を見下ろした。網の下に落ちた札が、風で小さく震えている。三件拾えと言われても、どれが三件なのかわからない。全部拾うには時間がかかるし、今の体力だと途中で座りこむ未来が見える。


棚の横に、細い道具が吊られていた。先の曲がった針金。小さな木ばさみ。短い布。わたしは針金を取って、網の隙間から差しこむ。紙片を傷つけないように、端を引っかける。


一枚目は白い札だった。字はほとんど消えている。けど、裏に小さく、まるが三つ並んでいた。子どもの落書きか、講師の印かはわからない。


「これは?」


「たぶん、呼び方未満です」


「未満も拾うの」


「落ちています」


そう言われると、拾うしかない。わたしは棚の横の乾かし板へ白い札を置いた。板には細い溝があり、紙が飛ばないように挟める。よくできている。面倒なことに、ちゃんと考えてある。


二枚目は赤い樹脂札だった。番号だけが残っている。H-43ではない。もっと古い形式の、途中で欠けた番号。持ち上げると、角から粉が落ちた。


「番号札は落ちるって書いてあったよね」


「はい」

くまが答える。

「水に弱いです」


「樹脂なのに?」


「番号がです」


樹脂は残る。番号も表面には残る。でも、それだけでは持ち主に届かない。そういう意味なら、たしかに弱い。わたしは赤い札も乾かし板へ挟んだ。


三枚目を探すと、箱の奥で青いものが見えた。色が薄い。細い。風が吹くたび、ほかの札の下へ潜ろうとするみたいに動いている。


針金では届かない。わたしは木ばさみを取った。先がずれていて、うまく掴めない。もう一度。紙の端が逃げる。網が邪魔だ。腹の底が少し冷える。


「くま、右見てて」


「右に何がありますか」


「わたしの失敗」


「かなり、見ます」


「見なくていい」


わたしは箱の網を少しだけ持ち上げた。固定の針金が鳴る。棚のランプが黄色から赤へ寄った。


『網の無断解除は推奨されません』

『ただし拾う場合は、少し許します』


「どっち」


『少しです』


「講師、棚の言い方まで変にしたな」


網の隙間から指を入れる。紙片が逃げる。爪の先で押さえ、木ばさみで挟む。引き出す時に端が少し裂けた。息が止まる。だけど、全部は裂けなかった。


青い札には、あ、とだけ残っていた。


残りは消えている。けれど、端の結び穴が三回返しの形に広がっている。あおの札だ。たぶん、何枚も結び直されたうちの一枚。落ちて、拾われて、また落ちて、ここへ入れられた。


くまが黙った。


わたしも少し黙った。風の音だけが棚のまわりを回る。


「拾ったよ」


「はい」


「三件」


「はい」

くまの声が、さっきより少し遅れて来た。

「かなり、三です」


青い札を乾かし板へ置く。指を離す前に、紙の端をそっと押さえた。飛ばないように。もう一回、落ちなくていいように。


棚のランプが緑に変わった。古い緑。藻みたいな、でもちゃんと許可の色。


『落下札三件を確認』

『西端棚を開放します』

『拾った人は、手を拭いてください』

『講師はいつも忘れます』


「ほんと叱られてるな」


革ひもをほどくと、扉は思ったより重く開いた。中には道具が並んでいた。蝋引き紙の束。細い麻紐。布の切れ端。小さな木札。乾燥剤の袋。短い鉛筆。針のない針箱みたいなもの。それから、奥の壁に再生板が一枚、紐で吊られていた。


再生板の表には、油性の字。


雨の日は、数えない。

拾った順でよい。


わたしはその字をしばらく見た。


数えない。


この町は数えることが好きだ。配給数。入室数。生存数。移送票。欠員。出生許可。中央育成原簿。何でも数える。数えたものだけを本物みたいに扱う。だから、雨の日だけ数えない、というのは、かなり大きな反抗に見えた。


「くま、再生できる?」


「たぶん」

胸の星が弱く明るくなる。

「近いです」


わたしが板に触れると、音が起きた。ノイズが多い。北三の棚で聞いた講師の声より、もっと外の音が混じっている。風。水。遠くで誰かが咳をしたような音。それから、疲れているくせに熱のある声。


『西端棚、雨天観察二十三回目』

『結論。番号札は濡れると先に落ちる』

『管理名は乾くまで読めない』

『外呼称は、読めなくても拾われる確率が高い』

『理由。呼んだことがあるから』


少し雑音。何かを置く音。


『中央育成原簿には、外呼称欄がない』

『出生許可台帳にもない』

『ないものは同期されない』

『同期されないものは、消されない』

『よって、外呼称は避難場所として使える可能性がある』


わたしの指先が、再生板の縁で止まった。


くまも何も言わない。


風が棚の扉を押す。かたん、と小さく鳴る。さっきまでただの音だったのに、今は返事みたいだった。


『ただし、監査に出すと怒られる』

『かなり怒られる』

『怒られた』

『よって、雨の日の練習という名目にする』

『子どもは雨でも外へ出ることがある』

『呼ばれ方がひとつだけだと、濡れた時に見失う』

『複数あれば、どれかが残る』


そこで講師の声が近くなった。再生板を手で持ち上げたみたいに、息の音まで入る。


『あおは、番号で呼ぶと遅い』

『あお、と呼ぶと少し早い』

『くまは、待てる』

『待てるものがあるなら、急がせる必要はない』

『急がせないためには、台帳の外に置く必要がある』


水の落ちる音がした。ぽつ、ぽつ、と棚板に当たる音。


『これは保護ではない』

『たぶん、保護と言うと取り上げられる』

『これは観察である』

『雨天時における札の残存性観察である』

『だから補食を棚に入れるのは観察補助である』

『講師が食べるぶんも、観察補助である』


「最後、弱いなあ」


声に出してから、胸の奥が少し詰まった。弱いのは最後だけで、その前はずっと強かった。強いというより、折れないように何度も結び直した感じだ。真正面から守ると奪われるから、観察という札をつけた。雨の練習という顔をした。棚に道具を入れ、落ちた呼び方を捨てず、台帳にない場所へ少しずつ逃がした。


「講師、変だけど」


「はい」


「たぶん、かなり怒ってたね」


「はい」

くまが言う。

「かなり、叱られていました」


「そっちじゃなくて」


「はい」

少し間。

「かなり、怒っていました」


再生板はまだ続いた。音が少し低くなる。


『追記』

『北三に残すと見つかる』

『南七は外扱いなので、監査が雑』

『雑は資源』

『西端棚の底へ、次の移動先を仮置きする』

『雨樋下。箱四』

『講師卓三からは見えない位置』

『見えないほうが残ることもある』


そこで、再生が途切れた。


棚の中が、急に静かになった。外の風は変わらず吹いているのに、さっきまであった声の熱が消えると、木の箱はただの古い木に戻る。わたしはしばらく板から手を離せなかった。


「雨樋下、箱四」


「はい」

くまが答える。

「かなり、次です」


「講師の最終作業場所?」


「まだ、途中かもしれません」

くまは珍しくすぐ断言しなかった。

「でも、講師が見えないように置いた場所です」


見えないほうが残ることもある。


わたしは棚の底を覗きこんだ。再生板が言ったとおり、底板の手前に細い切れ目がある。埃が詰まっていて、最初はただの割れ目に見えた。傘骨の先を差しこみ、ゆっくり持ち上げる。底板が薄く浮いた。


中から、小さな包みが出てきた。


蝋引き紙で二重に包んで、麻紐で三回返し。表には、短く書かれている。


雨樋下へ。

濡れても運ぶ。

急がない。


「また急がない」


「かなり、重要です」


包みは軽かった。中身は紙か、薄い板か。開けたい気持ちはあった。でも、棚の中で開けるより、雨樋下で開けるものなのかもしれない。こういう場所には、手順がある。面倒だけど、その面倒が誰かを残した。


わたしは包みを服の内側へ入れた。移送票とは反対側。紙と紙が喧嘩しないように、布で挟む。


その時、空が鳴った。


本物の雷ではない。庭の支柱の上に並んだ小さな噴霧器が、一斉に息を吸う音だった。鈴がまた鳴る。今度は近い。棚の上のランプが黄色く点滅した。


『雨天再現を開始します』

『落ちるものは拾ってください』

『走ると転びます』

『講師は転びました』


「今やるの?」


霧みたいな水が降ってきた。細かい。けれど紙には充分重い。支柱の札が一斉にしなり、乾いていた音が濡れた音へ変わる。ぱたぱた、ではなく、ぺち、ぺち、と少し情けない音。


乾かし板の白い札が浮いた。


「あ」


わたしは手を伸ばした。白い札を押さえる。次に赤い樹脂札。青い札が、板の溝から半分抜けた。


「くま、青」


「わたしは手がありません」


「知ってる。言って」


「青、右です。かなり右です」


右へ動く。足元の土がぬるっと滑った。転ぶ、と思った瞬間、棚の横の支柱を掴む。肩に痛みが走る。でも倒れなかった。青い札は風と水に押され、板から落ちて箱の縁へ向かう。


針金では間に合わない。


わたしはさっきの蝋引き紙の束から一枚抜き、青い札の上にかぶせた。水を弾く紙が重しになる。さらに麻紐を一本取り、札と紙を一緒に乾かし板の溝へ通す。三回返し。ひとつ、ふたつ、みっつ。指が濡れて、うまく締まらない。歯で紐を引く。泥の味がした。


「うえ」


「衛生的に、かなり低評価です」


「今それ言う?」


「元気づけです」


「違うと思う」


噴霧は長く続かなかった。たぶん雨練習だから、ほんの少しでいいんだろう。水の音が止まると、庭はさっきより重くなった。札が濡れて、風に遅れて揺れる。けれど乾かし板の三枚は残っていた。白も、赤も、青も。


わたしは濡れた手を服で拭いた。服も濡れているから、あまり意味はない。


『雨天再現終了』

『拾得、結び直し、乾燥待機を確認』

『棚使用者へ、補助物資を一件交付します』


棚の下で、小さな引き出しが開いた。講師卓三の机と同じ、かち、という音。中には、薄い乾燥布と、小さな袋が一つ入っていた。


袋の印字は、かすれている。


雨天観察補食。

濡れた手で開けない。

講師は開けた。


「学ばないな、講師」


「かなり、人間です」


わたしは乾燥布で手を拭き、袋をしまった。今食べるのはもったいない。雨樋下まで行ってからでも遅くない。急がない、と包みにも書いてある。急がなくていいと言われると、逆に急ぎたくなるから困る。


棚の扉を閉める前に、乾かし板の青い札を見た。あ、だけが残っている札。蝋引き紙の下で、濡れた文字が少し濃く見える。続きは読めない。それでも、もうただの落ちた紙ではなかった。拾って、乾かして、結び直したものだ。


「置いていこう」


「はい」


「持っていくと、また別の場所で落ちるかもしれないし」


「ここは、かなり拾う場所です」


棚を閉め、革ひもを三回返しで結ぶ。見よう見まねの講師結びは、少し不格好だった。でも風に引かれても、すぐにはほどけない。


西端からさらに奥を見ると、支柱の列の向こうに低い屋根が見えた。屋根の端から、雨樋が一本だけ斜めに落ちている。水はもう止まっているのに、先端からまだ雫が垂れていた。その下に、四角い箱がある。遠目にも、ふつうの箱ではない。持ち手があって、蓋に札が結んである。


「箱四」


「はい」

くまの声が少しだけ明るくなる。

「かなり、四です」


「三の次だ」


「はい」


わたしは服の内側を押さえた。移送票。蝋引きの包み。残りの補食。どれも軽いのに、急に重く感じる。紙ばかりだ。けれど、紙がなかったらここまで来られなかった。紙は飛ぶ。濡れる。破れる。だから結ぶ。拾う。乾かす。


面倒なものほど、手をかける理由になる。


「くま」


「はい」


「台帳の外に置くって、どういうことだと思う?」


「正式ではない、ということです」


「正式じゃないと、弱い?」


「かなり、弱いです」

くまは言った。

「でも、正式に消される時は、少し強いです」


変な言い方だった。でも、わかった気がした。登録されたものは守られる。だけど、登録されたものは消される時もまとめて消される。台帳の外にある呼び方は、守られない代わりに、見つからない。雨の日の棚みたいに、雑な監査の隙間で残る。


「雑は資源、か」


「講師語録です」


「嫌な語録だな」


でも、今は少し好きだった。


わたしたちは西端の棚を離れた。濡れた土が靴底にまとわりつく。札の森は雨のあとで静かになっていて、さっきより遠くまで見えた。紙の音が減ったぶん、雫の落ちる音がよく聞こえる。ぽつ。ぽつ。雨樋下の箱四が、ひとつずつ水を受けていた。


急がなくていい。


そう書かれていたのに、わたしの足は少し速くなる。くまは何も言わなかった。ただ胸の星を弱く光らせて、わたしの腕の中で揺れている。


雨樋の下へ近づくほど、箱の札が読めてきた。


箱四。

外呼称退避分。

講師以外、開ける時は先に謝る。


「なんで謝るの」


「たぶん」

くまが言う。

「勝手に残したからです」


風が湿った札をゆっくり揺らした。箱の蓋の隙間から、古い紙の匂いがする。北三の冷たい記録とは違う。西端の棚の濡れた札とも違う。もっと隠して、もっと運ぼうとした匂いだ。


わたしは箱の前でしゃがんだ。膝が土に沈む。服の内側の包みが、体温で少しだけ温まっている。


「じゃあ、謝ってから開けよう」


「誰にですか」


「残した人と、残されたほう」


「かなり、多いです」


「終末はいつも人手不足だから、一回でまとめる」


わたしは濡れた蓋に手を置いた。


「勝手に開けます。ごめん」


箱の中で、何かが小さく鳴った。鍵が外れる音ではない。紙が、長く待ったあとで少しだけ身じろぎする音だった。

お読みいただきありがとうございました。お楽しみいただけたようでしたら、★★★★★評価、ブックマークなどいただけると作者の創作の励みとなります。また次回よろしくお願いします。

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