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第八話 ジェプニア(二)

 翌朝。


 ジェプニア国立迎賓ホテルを出た日本の使節団は、南泊駅へ向かっていた。


 昨夜は歓迎の晩餐が開かれ、ジェプニアの料理人による食事が振る舞われた。


 見慣れない料理もあったが、味付けはどこか親しみを感じるものが多かった。



 駅に到着すると、すでに葦原行きの特急列車がホームに入線していた。


 先頭では、三軸の動輪を持つ大型の黒い蒸気機関車が白い蒸気を吐いている。


 その後ろには、七両の客車が連なっていた。


「これが葦原行きの列車ですか」


「はい。全車一等車の、最速達の特急列車です」


 一行は客車へ乗り込んだ。


 長い汽笛が鳴り、列車はのっそりと動き始める。


 南泊の街並みが、少しずつ後方へ流れていく。


 しばらくすると、左手には海が見え、右手には山肌が迫ってきた。


 市街地を離れるにつれて建物の数は減っていく。

 小さな集落が現れては消え、その周囲には畑や林が広がっていた。


「葦原までは、どのくらいの距離ですか?」


「40kmほどです」


「それなら、そう遠くはありませんね」


「この列車なら40分ほどで着きます」


 列車は速度を上げながら山沿いを進んでいく。



「おお、っと!」


 荷物棚に上げておいた鞄の中身を取ろうと立った時、急に列車が大きく揺れた。


 一本の線路が左へ分岐し、そのまま海岸線に沿って伸びていく。


「大丈夫ですか?」


 何とか座席に戻り、窓の外を見る。


「……あれは貨物線でしょうか」


「西へ向かう支線です。海沿いの町をいくつか結んでいます」


 列車は進む。


 山が少しずつ遠ざかり、左右に住宅と農地が混じるようになっていた。


 木造の家々が点在し、その間を細い道が走る。



 やがて畑が減り、建物の数が増えてきた。


「……街が近いようですね」


「はい。もうすぐ葦原です」


 列車が市街地へ入る。


 窓の外には、木造の住宅や商店が途切れなく続いていた。


 中にはところどころ、煉瓦造りの建物が見える。


 列車が速度を落とすと、その先に大きな赤煉瓦造りの駅舎が見えてきた。


「葦原駅です」


 機関車が汽笛を鳴らし、列車はホームへ滑り込んだ。


 南泊駅よりも大きな駅舎だ。


 ホームでは多くの乗客が行き交っている。


 一行は列車を降り、中央改札へ向かった。



 改札を抜けたその先には、広い道路が真っ直ぐ伸びていた。


「……広いですね」


 雪が薄く積もった白い石畳の大通りだった。


 道路の中央には線路が敷かれている。


 路面電車が、その上を走っていた。


 右手には駅前の大きなロータリーがあり、ボンネットバスが回っている。


 タクシーが停まり、乗客を待っている。


「南泊で見たような馬車が一つもいませんね」


「葦原ではもう、ほとんど走っていません」


「かなり違いますね。流石は首都なだけあります」


「はい。葦原では路面電車や乗合自動車の利用が多いです」


 一行は駅舎を振り返った。


 大きな赤煉瓦の建物が、背後の街並みを従えている。


「反対側にも駅前広場があります」


 案内役が説明する。


「そちらは主に乗合自動車が発着する場所です」


「こちらのより大きいのですか?」


「ええ」


 再び前を見る。


 真っ白な大通りは、駅からひたすら真っ直ぐに伸びている。


 その先には、雪を被った大きな赤煉瓦造りの建物がいくつも並んでいた。


「……あれが官庁街ですか?」


「はい。葦原の中心部です」


 一行はロータリーに止まっている迎えの車に乗り込んだ。


 車は大通りを進んでいく。


 路面電車が車の横を走り抜けていく。


 大通りの両側には、官庁や銀行、商業施設などの建物が並んでいた。


 赤煉瓦の建物が並ぶ一方で、その隣には真新しいコンクリート造の建物もある。


「新しい建物も多いですね」


「はい。葦原では、近年になって鉄筋コンクリート造の建物が立ち始めています」


 車が官庁街の端へ差しかかる。


 そこには、周囲の建物とは少し雰囲気の違う四階建ての建物があった。


「こちらは?」


「省庁の別館です。昨年完成しました」


「これも鉄筋コンクリートですか」


「はい」


 一行は建物を見上げた。


 決して高くはないが、都市の古い街並みの中に新しい建築技術が入り始めていることは、はっきりと分かった。



 官庁街を抜ける。


 脇道へ入ると、街の様子はがらりと変わった。


 未舗装の砂地の道路。


 二階建ての木造住宅。


 小さな個人商店。


 その中に三階建て、四階建ての集合住宅が混じっている。


 そのような景色が、ずっと続いていた。


「……広いですね」


 使節団の一人が、窓の外を眺めながら呟いた。


 人口50万人。


 日本側が事前に得ていたこの街についての情報は、それだけだった。


 しかし、実際に目の前に広がるこの大都市は、その数字から想像していたものより遥かに大きく感じられた。


 高層建築はない。


 それでも車窓の向こうには、延々と建物が続いていた。


 人の住む街が続いていた。

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