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第六話 ジェプニア(一)

 宗谷岬沖。


 護衛艦ゆうだちに、一隻の戦艦が並走していた。


 先日、使節団の交換がジェプニア共和国側から提案され、それに応じた形である。


「……おお」


「戦艦だ」


「本当に戦艦ですよね、あれ」


「カッコいいな」


「実物を見ると迫力がある」


「薩摩型っぽいな」


「河内型のほうが似てないか?」


「そうか?」


「まさか令和の海で戦艦を見るとは思わなかった」


 少し離れたところでその会話を聞いていた高橋が口を挟んだ。


「戦艦って、思ったより小さいんですね」


「え?」


「いや、もっと大きいものかと」


「まあ……現代の感覚だとそうかもしれませんね」


 高橋は前方の艦を眺めた。


「大和とか、200m超えてますよね?」


「263mです」


「そんなにありましたっけ」


「はい」


「じゃあ、あれは?」


「150メートル前後じゃないですかね」


「……思ったより差がありますね」


「第一次大戦前後の戦艦なら、そんなものですよ」


「そうなんですか」


 高橋の同僚も前方の艦を眺める。


「それでも、あれが戦艦なんですね」


「はい」


「なんというか……歴史の教科書から出てきたみたいだ」


「分かります」


「しかも、現役なんですよね?」


「新しそうな見た目ですし、恐らくは」


「不思議な感じだな……」


 海自隊員の一人が笑った。


「むしろ向こうの方が、我々を見て驚いてるでしょうね」


「確かに」


「まあ少なくとも、歓迎してくれていることは間違いなさそうですね」


 前方の戦艦が、ゆっくりと進路を変えた。


「進路変更」


「こちらを先導するようです」


 高橋は、前を進む戦艦を眺めた。



 しばらくすると、一隻の小型艇がゆうだちへ近づいてきた。


「ジェプニア側の案内役です」


「移乗します」


 内火艇から数名の外交官と軍服姿の者たちが乗り移ってくる。


「ここから先は、私がご案内いたします」


「ありがとうございます」


「港に入る前に、予定を確認させていただきます」


 案内役が資料を手に説明する。


「上陸後は、こちらで用意した車で市街地へ向かいます」


「分かりました」


「その後、市街地をご案内します」


「よろしくお願いします」


 これから向かうのは、ジェプニア共和国最大の港湾都市だった。



 水平線の向こうに陸地が見えてきた。


「見えてきましたね。あちらが南泊です」


 南泊へ近づくにつれて、市街地の様子がはっきりしてくる。


 港の近くには比較的新しい建物が多い。


「思っていたより大きいですね」


「我が国最大の港湾都市ですから」


 港には船が並び、倉庫や工場が建っている。

 その向こうには山地が見えた。


「首都ではないんですよね?」


「はい。首都は葦原です。南泊はその外港となります」


「なるほど」


 ゆうだちが港へ入る。


 前方の戦艦が発光信号を発する。


 戦艦は先に進み、港内でゆっくりと進路を変えた。


「戦艦はここまでですか?」


「ええ。母港へ戻ります」


 高橋は遠ざかっていく戦艦を眺めた。


 岸壁には、数台の黒塗りの自動車が並んでいる。


「迎えが来ております」


「ずいぶん立派ですね」


「共和国政府の車です」


 案内役に続いて、使節団が上陸する。

 荷物を預け、用意された車へ乗り込んだ。



 港を離れると、街の中心部が見えてきた。


 駅の周辺には、新しい建物が並んでいる。

 銀行、郵便局、政府関係の建物、商社などの事務所も集まっていた。


「随分と整っていますね」


「同感です」


「この辺りは、ここ十年ほどで整備された地域です」


「なるほど」


 車は駅前へ向かう。


 駅前の広場で車が停まった。


「こちらで一度、お降りいただきます」


「分かりました」


 一行が車を降りる。


 駅前から周囲を見渡すと、新しい建物が並んでいる。


 銀行、郵便局、政府関係の建物。

 その間には商社や企業の事務所も並んでいた。


「南泊の中心部になります」


「随分と近代的ですね」


「この辺りは比較的新しい地区ですから」


 高橋は周囲を見回した。


「……人々の暮らす街並みも見たいのですが、よろしいでしょうか?」


「え?」


 案内役の表情が一瞬、固まった。


「もちろん、構いませんが……」


「ありがとうございます」


 案内役は少し困ったように笑った。


「では、こちらへ。少し離れたところに、昔からの市街地があります」


「ぜひ見せてください」


「承知しました」


 一行は再び車へ乗り込んだ。


 駅前を離れると、新しい建物は少しずつ減っていった。


 代わりに、木造の二階建てが増えていく。


「……なんだか、昔の日本に来たみたいだ」


 同僚が窓の外を見ながら呟いた。


「確かに」


 高橋も頷いた。


 暗い赤色の瓦屋根。


 木造の商店。


 住宅。


 その間を人々が行き交っている。


 建物はそれほど大きくないが、道路は整然としており、街区も規則正しく区切られている。


「この辺りも普通の市街地なんですか?」


「はい。我が国では一般的な街並みです」


「中心部から離れていても、かなり整っています」


「そうですか?」


 案内役は窓の外を見る。


「ええ」


 高橋は街並みを眺めながら言った。


「日本人からすると、少し懐かしい感じもします」


 案内役は不思議そうな顔をした。



 しばらくして、車は再び中心部へ戻っていく。


 高橋がふと思い出したように口を開いた。


「そういえば、以前いただいた資料にあったのですが」


「何がですか?」


「ジェプニア共和国の建国についてです。確か建国から100年ぐらいでしたよね?」


「はい。今年で102年です」


「それで、この街ですか」


「はい」


 高橋は窓の外を眺めた。


「正直、建国100年の国と聞いて想像していたものとは、かなり違いますね」


「そうでしょうか?」


「ええ。何もないところから、ここまで作ったとは思えません」


 案内役が少し考える。


「そういえば……建国初期の記録に、当時としては高度な知識を持った人々がいたとある、と聞いたことがあります」


「建国当初から、ある程度の知識や技術を持った人々がいた、と」


「はい。農業、鉱業、造船、測量などについて、周辺諸国より進んだ知識を持っていたそうです」


「なるほど……」


 高橋は納得したように頷いた。


「それなら分かります」


「何がでしょう?」


「100年でここまで発展した理由です」


「最初から技術を持った人たちがいて、その上で100年かけて発展させた」


「そのような理解で良いと思います」


「それでも100年は短く感じますけどね」


「お褒めいただき、ありがとうございます」


 案内役が頷いた。



 やがて車は坂道を上っていく。


 窓の外に、石と煉瓦で造られた大きな建物が見えてきた。


「こちらが、本日お泊まりいただくホテルです」


「これは……」


 使節団の一人が窓の外を見る。


「ジェプニア国立迎賓ホテルです」


 煉瓦の壁に石の装飾が施された、重厚な建物だった。


 駅周辺にあった新しい建物とは、明らかに雰囲気が違う。


「立派ですね」


「建物自体は、南泊の中でも古い方だったかと」


「そうなんですか?」


「はい。当初は外国の使節を迎えるための迎賓館として建設され、今でもその目的で使われています」


「なるほど」


 車がホテルの玄関前で止まる。


「到着しました」


「どうも、ありがとうございました」


 使節団が車を降りる。


 案内役に続いて、ホテルの玄関へ向かう。


 その背後で、車が静かに坂を下っていく。


 高橋はふと足を止め、振り返った。



 夕日に照らされた南泊の街が、眼下に広がっていた。


 その向こうでは、橙色に染まった海が広がっている。


 港の一角には、海軍の施設も見えた。


「……100年か」


 高橋はしばらく街を眺めていた。


 そして、使節団の後を追うように、ホテルの玄関へ入っていった。

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 読みやすい文章で内容が難無く入ってきました。    他の読者の方はこれからの展開を期待すると思います。    返信は不要です。
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