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第四十五話 聖カリストラ大聖堂

 セレノア王国 王都カリストラ。


 日本国使節団は、王国政府が用意した馬車に乗り、王都の中心部へと向かっていた。


 沿道には石造りの建物が並び、街路には商人や職人、巡礼者らの姿が見える。王都の主要な通りには聖教に関する意匠が施され、建物の壁面や広場には聖人を描いた彫像が置かれていた。


「この先に見えますのが、聖カリストラ大聖堂でございます」


 案内役のセレノア王国外務省職員が、車窓の向こうを指し示した。


 建物の屋根と尖塔が、周囲の街並みから頭一つ抜けている。近づくにつれて、その規模が明らかになっていった。


「かなり大きな建物ですね」


 日本側の随員が口にした。


「はい。聖カリストラ大聖堂は、我が国のみならず、東方諸国における聖教の重要な中心地でございます。国内外から多くの巡礼者が訪れます」


「周辺諸国からも……ですか」


「ええ。ここは聖カリストラが教えを説かれた地と伝えられております。その歴史は千五百年を超え、長く東方の信仰を支えてまいりました」



 一行は大聖堂の正面広場へ入った。


 広場には巡礼者と思われる人々が集まり、正面入口へと続く階段を上っている。


 建物の正面には聖人たちの彫像が並び、その中央には聖カリストラの大理石像が置かれていた。


 使節団が馬車を降りると、出迎えの聖職者たちが一行を待っていた。


「遠路よりお越しいただき、歓迎いたします。私は大聖堂の案内を務めます、司祭のマルティヌスと申します」


「日本国使節団を代表し、訪問を歓迎していただいたことに感謝いたします」


 使節団長が挨拶を返す。


 マルティヌス司祭は一行を正面入口へと案内した。


 大聖堂の内部に入ると、高い天井と広い身廊が目に入った。柱や壁面には聖典に記された出来事や聖人の生涯を描いた装飾が施され、窓には色鮮やかなステンドグラスがはめ込まれている。


「こちらの大聖堂は、長い年月をかけて現在の姿になりました。王国の歴代国王陛下が、修復や増築を重ねてこられたのです」


「一度に建てられたものではないのですか」


「はい。古い部分を残しながら、時代ごとに新たな建築が加えられております。こちらの側廊は数百年前に整備されたもので、正面の礼拝堂とは建築様式も異なります」


 司祭は壁面や柱の装飾を示しながら、説明を続けた。


「この大聖堂は、セレノア王国の歴史とも深く結びついております。王国の建国以前から、この地には聖カリストラを祀る小さな礼拝堂があったと伝えられています」


「王国が成立する前から、ですか」


「はい。初代国王陛下は、王国をお建てになるにあたり、この地で聖別を受けられました。それ以来、王家は聖教を保護し、総主教座は王国の信仰を支えてまいりました」



 司祭は身廊の奥へと一行を導いた。


 その先には、周囲の装飾とは対照的に、簡素な石の聖壇が置かれていた。


「こちらが、初代国王陛下が聖別を受けられた聖壇でございます」


 聖壇は大きな自然石をほぼそのまま用いたもので、表面は長年の使用によって滑らかになり、角も丸みを帯びている。側面には自然石の凹凸が残っていた。


「聖カリストラの時代から、この場所で用いられてきたと伝えられております。初代国王陛下も、この聖壇の前で聖別を受けられました」


「現在も使われているのですか?」


「もちろんでございます。周囲は幾度も修復されておりますが、この聖壇の石は今日まで受け継がれております。歴代の国王陛下も、戴冠に際してこの聖壇の前に立たれました」


 司祭は聖壇に向かって一礼した。


「我が国では、国王陛下は聖教を守護する方とされております。そして、総主教猊下は国王陛下を聖別し、王国の正統性を支えるお立場にございます。両者はそれぞれの務めを果たしながら、王国と信仰を守ってまいりました」


 日本側の随員たちは、説明を聞きながら聖壇を見つめていた。


 セレノア王国が東方国家群の中でも大きな影響力を持つことは、ジェプニア共和国からの情報で把握していた。その背景には、軍事力や経済力だけでなく、周辺諸国から巡礼者を集める宗教的な権威もあった。


「総主教猊下は、こちらにいらっしゃるのでしょうか」


 使節団長が尋ねた。


「本日は別の公務に当たられております。ご希望であれば、後日、謁見の機会を調整することも可能でございます」


「ありがとうございます。ぜひ検討させていただきます」


 司祭は一礼し、一行を大聖堂の奥へと案内した。



 その後も、使節団は礼拝堂や歴代国王の記念碑、聖人たちを描いた壁画などを見学した。


 大聖堂の見学を終えた頃には、広場に多くの巡礼者が集まっていた。


 大聖堂を訪れる多くの巡礼者の姿は、聖教がセレノア王国の人々だけでなく、東方諸国にも深く根付いていることを示していた。


 王家の統治と宗教的権威が結びついたセレノア王国にとって、聖カリストラ大聖堂は、その歴史と伝統を象徴する場所だった。

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