第四十話 戦術研究
ジェプニア共和国陸軍参謀本部。
日本との軍事交流を受け、陸軍参謀本部では、外国軍の作戦思想及び戦術研究に関する臨時研究会が設置されていた。
この日の議題は、日本側から得た軍事資料の分析と、セレノア王国との合同演習に対する再評価である。
会議室には参謀将校が集まり、机上には日本側の提供資料と、過去に実施された合同演習の報告書が並べられていた。
「先般のセレノア王国との合同演習について、諸君の所見を伺いたい」
「はっ。演習は当初の計画に従い、所定の期間内に終了しております。参加部隊の損害も軽微であり、作戦目的は概ね達成されたものと判断しております」
報告を聞き終えた年長の参謀は、手元の書類を揃え、静かに口を開いた。
「なるほど。滞りなく終了したことは結構なことだ。しかしながら、予定どおりに終わったというだけで、演習の内容まで適切であったと言えるのかどうか。そこは、もう少々慎重に検討する必要があるのではないか?」
若手の参謀が顔を上げた。
「と申されますと?」
「駐日武官からの資料によれば、日本国自衛隊において作戦の成否は、敵部隊の撃破数のみをもって判定するものではない、と。作戦目的の達成状況、損害、補給の継続性、さらには作戦終了後の戦力まで含めて評価する。そういう考え方でありますな」
「我が軍におきましても、損害及び補給の状況は当然考慮しております」
「勿論、それは承知しているとも。私が気になっているのは、敵がこちらの想定どおりに動いてくれなかった場合のことでね」
年長の参謀は、合同演習の作戦図を机上に広げた。
「例えば、敵が正面攻撃を陽動とし、別働隊をもって後方の補給拠点を襲撃した場合。あるいは、意図的に退却して我が追撃部隊を誘引した場合。こうした状況に対し、我が方はどのような判断基準を設けているか」
「……合同演習では、そこまで複雑な状況は想定しておりません」
「その通り。セレノア王国との関係は良好であり、演習も長年にわたって円滑に実施されてきた。しかし、友好国との演習が円滑に進むことと、敵軍との戦争において適切な判断ができることは、必ずしも同じではありますまい」
室内が静まり返った。
「魔物の討伐と、意思を持って作戦を立案する敵軍との戦争は異なります。此度の資料を一つの契機とし、我が軍の戦術教範のみならず、演習の実施要領についても再検討する必要があるのではございませんか」
年長の参謀は、出席者を見渡した。
「本研究会では、まず現行の教範及び過去の演習報告を照合し、対人戦を想定した作戦研究に不足がないか、皆には具体的に洗い出していただきたい」
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