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第四話 星空

 ジェプニアとの初接触を終えた直後、首相官邸では先ほどまでの会談と、その相手について報告が行われていた。


「ジェプニア共和国海軍を名乗る艦艇との接触について、報告します」


「続けてくれ」


「相手は我が国、つまり日本という国家を認知していませんでした」


「では、あの艦艇が偽装工作をしている可能性は?」


「現時点では低いと考えられます」


「根拠は?」


「通信、艦艇の装備、乗員の反応、いずれも事前に用意された偽装工作としては不自然です」


「日本語を使っているのに、日本を知らないとは。それが一番おかしいな」


「はい」


 室内に沈黙が落ちた。


「国内の過激派、あるいはテロ組織が、何らかの目的で国家を名乗っている可能性については?」


「こちらも調査中ですが、可能性は低いと思われます」


「なぜだ?」


「アヅマという艦艇そのものです。アヅマに乗艦した職員と自衛官が確認した限り、乗員は本気で自分たちをジェプニア共和国海軍の軍人だと認識しています」


「演技ではない、と?」


「そう判断するのが妥当かと」


「では、外国勢力による偽装工作という線も?」


「それも現時点では、裏付けがありません」


「……」


「さらに重要なのが、先ほど述べた通り先方が日本についてほとんど何も知らなかったことです」


「こちらの情報を探っていたわけではないのだな?」


「むしろ逆です」


 報告官が資料をめくる。


「先方は、日本列島そのものを知らない様子でした」


「日本を知らない国が、北海道の北にあるのか?」


「はい」


「そんな国が存在するなら、我々が知らないはずがない」


「その通りです」


 誰も反論できなかった。



 同じ頃。


東京・市ヶ谷。


 防衛省の一室には、宗谷岬沖から撮影された航空写真が並べられていた。


「これは?」


「三沢から上がったF-35からの撮影です」


「樺太か?」


「現在のところ、その可能性が高いと考えています」


 画面に映っているのは、海岸線と背後の山地だった。


「地形は?」


「遠距離からの撮影ですので、細部までは確認できません。ただ、大まかな地形は我々の知る樺太とよく似ています」


「真ん中の都市部は?」


「こちらです」


 別の画像が表示された。


 海岸沿いに広がる市街地。


 その先には港があり、複数の船影も確認できる。


「……大泊に見えるな」


「はい」


「港湾施設もある」


「ただし、問題があります」


「何だ?」


「市街地です」


 画像が拡大された。


「何か違うのか?」


「明確に何が違うとは、まだ言えません」


「なら、問題ないのでは?」


「いえ。違和感があります」


 担当官が画面を指した。


「建物の配置なのか、屋根なのか、道路なのか……現時点では特定できません。ただ、我々が知っているコルサコフ市街地と完全には一致していません」


「写真の解像度の問題では?」


「確かに、その可能性も高いです」


「それで、地形そのものが違うとは言えないのだな?」


「はい」


「樺太である可能性は?」


「依然として高いです」


「なら、現段階では『樺太と思われる島』として扱う」


「了解しました」


 画面には、大泊と思われる港が映っていた。


 港湾施設の一角には、明らかに軍事施設と思われる区画も存在している。


「それにしても……」


「はい」


「なぜ北側に、我々の知らない国家がある?」


「それは……分かりません」


「ジェプニア共和国……本当に、存在しているのか」


「しかし少なくとも、その艦艇は存在していました」


「……そうだな」


 誰も、それ以上は言わなかった。



 その日の夜。


 国立天文台。


「もう一度、確認してください」


「何度もやっています」


「誤差ではないんですね?」


「ありません。既知の天体がなくなり、未知の天体が出現しています」


 天文学者はモニターを見つめていた。


 観測された星々の配置を、過去の観測データと照合する。


「この星は?」


「カシオペヤ座のα星、シェダルかと思われます」


「なら、位置が違う理由は?」


「分かりません」


「観測機器の問題では?」


「複数の観測装置で確認しています。結果は同じです」


「大気の状態は?」


「観測に影響するほどではありません」


 別の研究者が画面を切り替える。


「こちらも確認してください」


「……」


「既知の星座との照合結果です」


「合わない」


「はい」


「どの程度ですか?」


「単純な観測誤差では説明できません」


「季節の違いでは?」


「ありません」


「時刻の違いは?」


「それもありません」


「地球の自転軸や公転軌道が変化した可能性は?」


「天体の配置自体が異なります」


「政府からの情報によれば、日本の周囲の地形が変わったらしい」


 天文学者は、再び画面を見る。


「であれば尚更です」


「……」


「星を見れば分かります」


 しばらくして、解析結果が表示された。


「これは……」


「はい」


「地球から見える夜空ではありません」


 そして、観測データをもう一度確認する。


「ですが、一つだけ確かなことがあります」


「何ですか?」


「ここは地球ではありません」


「……」


「別の星です」

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