第三話 接触(二)
宗谷岬沖 北東20km地点
海上自衛隊 護衛艦ゆうだち。
「アヅマとの接舷、完了しました」
「外交官、移乗します」
「了解。予定通り進めてくれ」
「はい」
「護衛は?」
「数名を同行させています」
「分かった。移乗攻撃に警戒。ただし、先方を刺激しないように」
「了解しました」
しばらくして、護衛艦から数名の日本人がアヅマへ移乗した。
「日本国政府を代表して、参りました」
「日本国……」
アヅマ艦長は、その言葉を聞いてわずかに眉を動かした。
「どうされましたか?」
「申し訳ありません。存じ上げない国名だなと」
「……そうですか。では、改めて。こちらは日本国外務省の、高橋信吾です」
「ジェプニア共和国海軍、アヅマ艦長のサエキです。どうぞこちらに」
艦長は副長に艦の指揮を任せ、自ら日本側の一行を艦内へ案内した。
通されたのは、艦内に設けられた小さな応接室だった。
「狭い部屋で申し訳ありません」
「いえ。こちらこそ、お時間をいただきありがとうございます」
「こちらも、未知の国家との接触など初めてのことです」
「それは我々も同じです」
「そうでしょうな」
互いに向き合う。
「まず、いくつか確認させてください」
「答えられる範囲であれば」
「ジェプニア共和国は、どのような国なのでしょうか」
「我々の知る限りでは、ごく普通の共和国です。議会があり、政府があり、軍があります」
「日本……という国については?」
「申し訳ありません。聞いたことがありません」
「そうですか……。では、ジェプニアでは日本という国そのものが知られていない、と」
「少なくとも私は知りません。おそらく、一般の国民も同じでしょう」
「周辺には、どのような国がありますか?」
「我が国の西には、遊牧系国家があります。その南に、東方国家群。東については海が広がっています」
「北は?」
「我が国の北部には遊牧民族である先住民が住んでおります。海を越えて、更に北には魔王領が広がっています」
「魔王領?」
「ご存じありませんか?」
「……ええ」
「魔王領というのは、魔族が住んでいるのですか?」
「その通りです。魔物が跋扈する土地でもあります」
「魔族とはどのような存在ですか?」
「我々の国にとって、無視できない隣人です」
「敵国、という理解でよろしいでしょうか」
「ええ。我が国の建国以前から、人類と魔族は敵対していました」
「なるほど」
短い会話の中でも、知らないことが次々と増えていく。
我々の知っている世界地図と、この艦長が語る世界が一致しない。
「こちらからも質問してよろしいでしょうか」
「もちろんです」
「高橋さん。あなた方の国……日本は、いつからこの海域に存在しているのですか?」
「それは、こちらも確認したいところです」
外交官は慎重に言葉を選んだ。
「定説では、少なくとも十万年以上前から日本列島が存在していたとされています」
「それは……」
艦長は言葉を失う。
しばらく沈黙が続いた。
「本日は、これ以上の確認は難しいでしょう」
「そうですね」
背後に立っていた水兵が艦長に何か耳打ちする。
「次はこちらも外交官を連れてきます」
艦長が言った。
「その上で正式に話し合いたい、というのが本国の意向です」
「異論ありません」
「では、次の会合をいつ行いましょうか」
「こちらも準備が必要ですので……三日、いただけますか」
「三日ですね」
「はい」
「分かりました。本国へ確認します」
数分後。
水兵が報告に戻り、艦長に内容を伝える。
「本国から返答が来ました」
「どうでしたか?」
「三日後の正午に、同海域で構いませんか?」
「承知しました」
「では、三日後に」
「ええ」
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