第三十六話 入植開始(二)
道路工事の予定区域から少し離れた場所では、石油開発会社などの社員たちが搬入された設備を確認していた。
「蒸留設備は、ここに置くんですか?」
「ええ。原油の貯蔵設備と製品タンクも、この区域にまとめる計画です」
「河川からは距離を取るんですね」
「万が一の漏洩を考えれば、当然です。排水の管理も必要ですし、居住区画からも離しておきたい」
この地域では、すでに試掘が行われ、原油の存在が確認されている。政府は開拓地で使用する燃料の一部を現地で供給するため、小規模な精製設備の設置を進めていた。
「設備の規模は、これで足りるんですか?」
「最初から大量生産するつもりはありません。まずは建設機械や輸送車両に使う軽油を、現地でどれくらい供給できるか確かめます」
「ガソリンは造らないんですか?」
「当面は必要ありません。ここで使う機械はディーゼルが中心ですから」
「地産地消というわけですね」
「本土から燃料を運ぶのにも、船や車両が必要ですからね。現地で使う分を現地で賄えれば、それだけ輸送の負担を減らせます」
「原油の性状によっては、追加の処理設備も必要になるんでしょう?」
「そこは分析結果次第です。蒸留しただけで、そのまま使える燃料になるとは限りませんから。まずは原油の性状を確認して、必要な処理を決めます」
「設備の保守部品や消耗品も、本土から運ぶ必要がありますね」
「ええ。完全に自給できるわけではありません。それでも、毎回運び込む燃料の量を減らせるなら意味はあります」
設備の設置場所では、原油の貯蔵設備や製品タンクの配置についても検討が進められていた。
現地での燃料生産は、開拓地の活動を支えるための取り組みの一つだった。
それぞれの現場で作業が進む一方、開発予定区域全体の測量も始まっていた。
図面には、将来の居住区や農地、倉庫、資源開発施設などを含む広い区域が示され、その外周には防護壁の予定線が引かれていた。
魔物の侵入を防ぐため、開発区域を一体的に囲う構想である。
「この外周線、ずいぶん長いですね」
図面を確認していた建設会社の技術者が言った。
「居住区だけではなく、農地や生産施設も含める計画ですから」
「全部を囲うとなると、かなりの工期になりますよ」
「一度に造る予定ではありません。開発の進み具合に合わせて、工区を分けて整備します」
「まずは、どこから着手するんですか?」
「当面は居住区周辺の防護設備を維持します。外周部については測量を進め、優先順位を決めていくことになります」
「道路と同じで、先に全体の配置を固めておく必要があるわけですか」
「そうです。あとから施設の位置を変えることになれば、防護線も道路も引き直すことになりますから」
現段階で建設が始まっているのは、居住区周辺の有刺鉄線などの簡易な防護設備だけだった。
広大な外周部については、測量と計画策定が始まったばかりである。
「さて、こちらも始めましょうか」
測量用の杭が打ち込まれた土地の向こうでは、搬入された重機がエンジンを始動していた。
道路の整備、農地の調査、資源開発の準備。それぞれの工事が動き出し、開拓拠点は少しずつ形を取り始めていた。
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