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第三十五話 入植開始(一)

 (仮称)魔王領入植地・中部第一開発地区。


 北辰国の北辺を流れる大河の支流、その中流域。


 川沿いの高台に切り開かれた土地に、開拓拠点の整備が進められていた。


 施設科が造成した仮設道路を、本土から到着した大型トラックが進む。荷台には鉄筋や鋼材、セメント、建設用機材などが積まれている。後続のトレーラーには、ブルドーザーや油圧ショベルも載せられていた。


 車列が指定された荷下ろし場所に到着すると、自衛隊員たちが誘導を始めた。


「もう少し前です。そこで止めてください」


「了解。荷台のクレーンを使いますか?」


「いえ、こちらのクレーンで吊ります。荷台の固定を外す前に、周囲の安全確認をお願いします」


 作業員たちが声を掛け合い、鋼材の荷下ろしを始めた。


 別の場所ではフォークリフトが資材を運び、トレーラーから重機が順番に降ろされていく。


「これで第一陣ですか?」


「第一陣です。道路工事用の資材は、まだ後続がありますよ」


「道路だけでこれだけ必要なんですか」


「道路だけじゃありませんよ。排水設備も必要ですし、大型車両が走れる路盤を造らないといけませんから」


 建設会社の現場監督が、積み上げられた資材を確認しながら答えた。


「トラックも通れましたよ?」


「通れるのと、まともに走れるのは別です」


「……そういうことでしたか」



 現在、将来的な居住区の周囲には有刺鉄線が張られ、出入口には警備所が設けられている。施設科が切り開いた土地はまだ限られており、その外側には森林と未整地の土地が広がっている。


 仮設道路の先では、民間の建設会社の技術者たちが施工図面を広げていた。


 施設科が先行して確保した進入路を基点に、本格的な道路工事が始まろうとしていた。


「ここの路盤は、自衛隊が造ったものをそのまま使えますか?」


「大型車両を通すには、補強が必要ですね。仮設道路としては十分ですが、長期的に使うなら路盤から手を入れたいです」


「分かりました。資材輸送の動線を確保しながら工事を進めましょう。開発予定の農地への進入路も、この道路から分岐させるんですよね?」


「その予定です。倉庫や農業施設の配置が固まったら、分岐位置を決めます」


「先に道路だけ造って、あとから位置を変えるのは避けたいですからね」


「ええ。測量結果を確認して、今日中に担当の方とも調整します」


 技術者たちは図面と現地の地形を見比べながら、道路の経路を確認していった。



 資材置き場の一角では、農業関連企業の社員たちも準備を進めていた。

 大型農機を扱うメーカーの担当者に加え、自動走行や圃場管理システムの開発を手がける新興企業の社員も参加している。


「農地にする予定の場所は、どのあたりですか?」


「この道路から川側に下りた平地です。ただ、まだ測量の途中なので、確定ではありません」


「見たところ、場所によって土の状態が違いそうですね」


「施設科が造成した場所と、手つかずの土地では条件が違います。土壌分析の結果を待って、区画を決めることになると思います」


 農業系スタートアップの社員が、タブレット端末に表示された地図を確認した。


「土壌のデータが取れたら、圃場ごとに管理できるようにしたいですね。水分や地温も測定して、作物ごとに生育状況を比較できるようにします」


「そこまで細かく管理するんですか?」


「大規模にやるなら、経験だけに頼るわけにはいきませんから。どの区画で何が育つか、数字で残しておきたいんです」


「ただ……現地の気候がまだ分かりませんよね」


「ええ。なので、最初は試験栽培です」


 農機メーカーの担当者が、別の資料を取り出した。


「候補としては、大麦とライ麦が中心です。裸麦も試したいですね。小麦は夏の気温と生育期間を確認してから、作付けの規模を決めたいところです」


「米はどうします?」


「北海道向けの耐冷性品種を持ち込みます。しかし、いきなり水田を広げるわけにはいきませんから、まずは小さな試験区を造って、生育状況を見ます」


「春に播種できれば、秋には生育状況や収量を確認できるものもありますね」


「そうですね。ただ、作物によっては播種時期も違いますし、収穫できたとしても、初年度から十分な収量が得られるとは限りません」


「まずは何が育つか、確かめるところからですか」


「そういうことです。来年以降の作付け計画を立てるためにも、今年のデータは重要になります」


 現地の測量図を確認し、初年度に試験栽培を行う区域について話し合っていた。


「農機の自動走行は、この環境でも使えそうですか?」


 農業用の大型機械が搬入されれば、広い土地を少ない人員で管理できる可能性がある。


「測位方式次第ですね。衛星測位が安定して使えない状況なので、別の方式も検討しています」


「通信環境も必要ですよね」


「ええ。農地全体をカバーできるようにしたいですが、まずは基地局を置いて、どの程度の範囲まで通信できるか調べる必要があります」


「農業を始める前に、やることが山積みですね」


「農地を造って、種を蒔けば終わりというわけにはいきませんから」

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