第三十四話 国家重要技術管理法
国会議事堂 衆議院本会議場。
「転移世界における国家重要技術の管理及び保全に関する法律案に、賛成の諸君はご起立願います」
議長の求めに応じ、賛成する議員が一斉に起立した。
議長は議場を見渡し、採決結果を確認した。
「賛成多数をもちまして、本案は可決されました」
議場から、一際大きな拍手が沸き起こった
転移後、日本政府は異世界各国との外交関係の構築及び技術交流を進める一方、国内の重要技術を保全するための法整備を進めてきた。
その中心となるのが、通称「国家重要技術管理法」である。
本法は、国家の安全保障及び産業競争力に重大な影響を及ぼす技術を管理対象とし、外国政府や外国企業への技術提供、共同研究その他の技術移転に関する管理体制を整備するものであった。
異世界各国との関係構築を進めるにあたり、技術協力の促進と重要技術の保全を両立させることが、政府の課題となっていた。
同日夜、首相官邸。
閣議が開かれていた。
「本日、国家重要技術管理法案が衆議院において可決されました。これにより、重要技術の提供及び移転に関する管理体制の整備に向け、一歩前進したことになります」
首相は出席した閣僚たちを見渡した。
「続いて、エネルギー需給の状況について報告を求めます」
担当大臣が資料を手に、説明を開始した。
「省エネルギー施策の実施により、国内のエネルギー需要は転移前と比較して約一割減少しております。一方、現時点で確保の見込みが立っている供給量は、転移前の需要に換算して約六割にとどまっております」
「需要が転移前の九割に減少したとしても、なお供給不足が生じているということだな」
「そのとおりです。現時点で見込まれる供給量は、現在の需要の約三分の二に相当します。また、原子力発電所の新設には、着工から運転開始まで少なくとも五年程度を要する見込みです」
首相は資料に目を落とした。
「……供給力の拡大に向けた各施策の進捗状況について、説明してください」
「国内では、再生可能エネルギーの導入拡大及び原子力発電所の再稼働について、電力各社への打診と協議を進めております。併せて、国内炭田の再開発、北海道沖及び千葉沖における海底油田・ガス田の調査についても、実施可能性を検討しております」
「いずれも、供給力の拡大には一定の期間を要する。国外における資源開発の状況はどうなっているか」
「ジェプニア沖の海底油田及び魔王領の油田について、開発に向けた調査と関係各国との交渉を進めております。ただし、開発権益の確保に加え、採掘設備の整備や輸送手段の確保など、事業化に向けた課題が残されております」
「原子力発電については、新設に向けた建設候補地の選定を進めてください。再生可能エネルギーについても、導入可能量と安定供給上の課題を整理する必要があります」
「承知しました。各施策の実施工程及び供給力の見通しを取りまとめ、改めて報告いたします」
首相は担当大臣にうなずいた。
「エネルギーの安定供給は、国民生活と国内産業の維持に直結する問題です。省エネルギー施策を継続するとともに、供給源の多様化と国内生産能力の回復を並行して進めなければなりません」
続いて、首相は関係閣僚に向き直った。
「異世界各国との資源交渉については、外交、安全保障及び経済面への影響を総合的に勘案し、政府として一貫した方針の下で進めてください。重要技術の保全についても、必要な技術協力を確保しつつ、管理対象と提供条件を明確化する必要があります」
「関係省庁間で調整の上、対応方針を策定いたします」
「それでは、各省において具体的な工程、必要な予算及び実施上の課題を整理し、次回の閣議に報告してください」
「承知しました」
閣議では、その後もエネルギー供給の確保と重要技術の管理体制を中心に、各省庁の対応方針について協議が続けられた。
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