第三十三話 地球航空史
都内某ホテル。
ホテルの会議室で、ジェプニア陸軍の技術士官が地球の航空技術の発展について説明を受けていた。
「こちらが、地球で初めて動力飛行に成功した航空機です」
「これが……ですか?」
スクリーンに映る複葉機を、技官はじっと見つめた。
「ライト兄弟が世界で初の飛行に成功したのは1903年。初飛行での飛行距離は約36メートルでした」
「我が国でも、初期の機体はこれに近い構造でした」
「そうなんですか?」
「ええ。もっとも、我が国では野生の飛竜への対処も考慮する必要がありますので、開発の方向性には違いがあるかもしれませんが」
日本側の担当者は次の資料を表示した。
「その後、エンジンの出力や機体構造が改良され、1914年に勃発した第一次世界大戦では、偵察のほかに戦闘用途でも使われるようになります。航空機同士の空戦が始まったのも、この時期です」
「我が国と違って、最初から戦闘を目的としていたわけではなかったのですね」
「はい。偵察機としての運用が先行し、やがて敵の偵察機を排除する必要が生じて、そこから戦闘機が発達しました」
「エンジンの出力が向上したことで、速度も上昇したのでしょうね」
「それだけではありません。機体の形状、重量、空気抵抗、翼の構造。それぞれが関係します。エンジンを強力にすれば、その分だけ機体も重くなりますから」
「砲と同じですね。砲もただ砲身を長くし、装薬を増やせばよいというものではありませんからね」
「そういえば、砲兵のご出身でしたね」
「ええ。現在は技術士官として、兵器の改良に携わっています」
スクリーンに映る機体をもう一度見た。地球とジェプニアでは事情こそ違うが、技術の進歩には共通する部分もあるらしい。
「明日は、航空自衛隊の施設で、もう少し詳しい説明を受けていただく予定です」
「実際の航空機も見られるのですか?」
「公開できる範囲だけではありますが」
「承知しました。ぜひお願いします」
翌日。
埼玉県入間市 入間基地。
「あちらが、ジェットエンジンを搭載した輸送機です」
「本当にプロペラがありませんね」
「空気を取り込み、圧縮・燃焼させ、その排気によって推力を得ます」
「やはり、アルヴェインの魔導エンジンと方式が似ています」
「地球では、第二次世界大戦の末期には実用機が登場しました。その後、さらに改良が進みました」
「我が国の主力戦闘機は、最高速度が時速260キロ程度です。複葉機としては健闘しているつもりですが、こうして比べてみると、まだまだですね」
「そう気を落とされずに。航空機の性能は、速度だけでは決まりません。上昇力や航続距離、武装なども重要です」
日本側の担当者はそう説明した。
「ひとつ、お尋ねしてもよろしいですか?」
「どうぞ」
「ヴァルデンとアルヴェインの戦闘機についてです。あれらの機体は我が国より先を行っています。そちらの世界の航空史では、いつの時代に相当するのでしょうか」
「性能が分かりませんので、それは何とも……。何かご存知のことはありますか?」
「ヴァルデンの戦闘機は、魔法で動くエンジンを搭載しています。燃料として魔力源を積んでいると聞いています。アルヴェインでは、搭乗員の魔力を燃料の代わりとしているそうです」
「魔力を燃料に、ですか……。興味深い技術ですね。最高速度など、具体的な性能は分かりますか?」
「正確な数字は把握できていませんが……我が国の複葉機の少なくとも倍以上です」
担当者は少し考え込んだ。
「速度から考えれば、第二次世界大戦相当でしょうか。ただ、上昇力や航続距離、武装など、比較したい項目はほかにもいくつもあります」
「機体そのものだけでなく、運用方法も重要ですからね」
日本は、ジェプニアの知る世界の常識から大きく外れた国である。
ヴァルデンやアルヴェインの航空機についても、日本ならば何らかの評価を下せるかもしれない。
今度はジェプニア側が提供できる情報を整理する必要がありそうだ、と彼は考えていた。
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