第三十一話 法的根拠
時は少し遡る。
4月2日。
魔王領への資源調査団派遣が決定した直後。
首相官邸の一室に、関係省庁の担当者が集まっていた。
「問題は、自衛隊の武器使用の根拠についてです」
防衛省の担当者が資料を机に置く。
「調査団に同行する警護部隊です。予定では、89式装甲戦闘車を主力とした普通科小隊です」
「魔物への対処を想定しているわけですね」
「はい」
「魔物は、法律上どう扱われるんですか?」
「野生動物であることには変わりありません」
「ならば、自衛隊法第100条に基づいて、有害鳥獣駆除とするのはどうですか」
「……厳しいかと。派遣の目的は調査団の警護です。駆除が任務ではありません」
「それに、有害鳥獣駆除は都道府県知事の要請に基づくものであり、国外での適用を考慮していません」
「ですが、調査団を襲うのであれば、有害な野生動物と言えますよね?」
「それだけでは、自衛隊が武器を使う根拠には……」
「そこが問題です」
内閣法制局の担当者が口を挟んだ。
「法解釈が曖昧になりすぎてしまいます。そのような前例は作れません」
「……では、自衛隊法第84条の3に基づき、在外邦人等の保護措置とするのは?」
「魔王領は無主地です。現地政府の承認という要件を満たせません」
「やはり、難しいですか」
「有害鳥獣駆除の適用よりかは、現実的ではありますが……」
「警護部隊の派遣そのものについては、問題ないんですよね?」
「ええ。そちらについては問題ありません」
「武器使用だけが問題になるということか」
「その通りです」
外務省の担当者が資料をめくる。
「それに、ジェプニア軍も同行します」
「自衛隊が魔物と戦闘を行う場合、ジェプニア軍とも足並みを揃える必要があります」
「向こうは魔物との戦闘経験があるんですよね?」
「あります。……また、我が国とは軍隊の法的な位置付けが少々異なります」
「つまり、日本だけ対応が難しいのですね」
「そういうことになります」
防衛省の担当者が少し苛立ったように言った。
「では、現地で自衛隊員が襲われたらどうするんですか?」
「自己防護については、別途整理できるかと」
「調査団が襲われた場合は?」
「そちらは問題があります」
「研究者が目の前で襲われているのに、法的根拠が曖昧だから武器を使えないということですか?」
「無制限に武器の使用を認めることはできません」
「……現場の人間がどうなってもいいのか」
「そうは言っていません」
「では、どうするんですか」
室内が静かになる。
内閣官房の担当者が口を開いた。
「まあ、まずは整理しましょうか。前提として、自衛隊の魔王領派遣自体には、問題はありません。そうですね?」
「ええ。一番の問題は、何を根拠に、何がどこまで認められるか、ですね」
「そうですね」
「現場に判断を押し付けるわけにはいきません」
防衛省の担当者が頷いた。
「各省庁での検討を願います」
「法制局でも検討を開始します」
「今から新たに法案を立案、通過させることはできません」
「調査団が出発する日までには、なんとかして結論を出しましょう」
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