第二十五話 魔王領(一)
横須賀港。
呉から回航された輸送艦「ようこう」が停泊していた。
岸壁には、経済産業省と外務省の職員、そして今回の資源調査を担当する研究者たちが集まっていた。
「『ようこう』艦長の山下2等海佐です。よろしくお願いします」
「お世話になります」
乗艦した一行は、案内された区画に荷物を置いた。
「思ったより広いですね」
「輸送艦ですからね」
「これから小樽まで?」
「はい」
ようこうは横須賀を出港した。
大洗沖。
艦内の食堂の一角を借りて、調査団の一行は打ち合わせをしていた。
「今回の調査について、改めて説明します」
外務省の職員が地図を広げる。
「ようこうは、このまま北上して小樽へ向かいます」
「小樽で自衛隊の部隊が乗る予定でしたよね」
「はい」
「その後は?」
「北辰国へ向かいます」
「北辰国?」
「北辰国東部の港、東湊です」
「そこから魔王領へ?」
「はい」
「北辰国の領土を通るんですよね」
「ええ。通行許可は北辰国から既に得ています」
「そんな簡単に?」
「条件付きではありますが、ジェプニア軍と合同で調査を行うことも、許可された理由の一つですね」
「なるほど」
「ジェプニア側からも、事前に部隊の通行を北辰国へ通告してもらっています」
「じゃあ、向こうにも話は通っているんですね」
「はい。今回の調査については、北辰国側も把握しています」
「東湊から魔王領までは?」
「東湊の少し北から魔王領に入ります」
「魔王領って、どんなところなんですかね?」
「そちらについては、ジェプニア側から専門家を派遣してもらいます」
「向こうの軍人さんでしたっけ」
「はい。ジェプニア陸軍の将校の方です」
「魔王領での経験もあるのですか?」
「そう聞いています」
「それなら、現地ではその方に聞けばいいわけですね」
「その予定です」
小樽港。
横須賀を出発した翌日の夕方、ようこうが岸壁に接岸した。
陸自隊員たちが乗艦する。
その中から、一人の自衛官が調査団のもとへ歩いてきた。
「調査団の方々ですね」
「はい」
「第11普通科連隊 第3普通科中隊 第2小隊、小隊長の杉田1等陸尉です。本日から皆さんの警護を担当します。どうぞ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「行政上の判断が必要になった場合に備えて、我々も同行します」
「承知しています」
「それが今回の車両ですか?」
「はい。89式装甲戦闘車になります」
「4両ですか」
「今回の調査に合わせた編成です」
「かなり本格的ですね」
「未知の土地となりますと、何が出てくるか分かりませんので」
「なるほど」
杉田1尉は敬礼し、部下のもとへ戻っていった。
89式装甲戦闘車の積載を終えた「ようこう」は、小樽を出港した。
4月11日。
北辰国、東湊沖。
「東湊、見えました」
「まだ海氷が残っていますね」
「四月ですからね」
ようこうが岸壁に接岸する。
「ジェプニア軍です」
外務省の職員が言った。
「第103連隊……の小隊だそうです」
前部の扉が開き、行政関係者と研究者、自衛隊員が順に降りていく。
続いて、89式装甲戦闘車の揚陸も完了した。
「日本の調査団の皆さんですね」
「はい」
「ジェプニア共和国陸軍、第一〇三連隊司令部附の鈴木少佐です」
「今回の調査では、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「では、簡単な打ち合わせからしましょうか」
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