第二十三話 少女の親戚
日本の外交官二人は、北辰国での予備調査を続けていた。
政治制度や産業、人口。
周辺諸国との関係。
まだ分からないことは多い。
そんな中、ナランが二人の前で立ち止まった。
「今日は、もう一か所行くところがあります」
「どこですか?」
「おじさんの家に挨拶に行くので、付いてきてください」
「ナランさんの親戚の方ですか?」
「はい」
「有名な方なんですか?」
「……たぶん?」
「たぶん?」
ナランは笑った。
「行けば分かります」
翌日。
三人は町の中心から少し離れた場所へ向かった。
やがて、日本側の外交官が足を止める。
「……あれですか?」
「はい」
そこには、巨大なゲルが建っていた。
これまで見てきたものとは明らかに違う。
大きさだけではない。
白いフェルトの外側には細かな装飾が施され、入口の木材にも彫刻がある。
内部もかなり広いらしく、外から見ても普通の住居とは思えなかった。
日本側の二人は顔を見合わせた。
(一体、何者なんだ……)
ナランは何も気にせず、入口へ向かう。
「おじさん、いますか?」
「入りなさい」
中から声がした。
ナランが中へ入る。
日本側の二人とジェプニアの外交官も続いた。
ゲルの中央には、一人の男が座っていた。
落ち着いた色調の服装だが、周囲の調度品や装飾を見るだけでも、普通の人物ではないことが分かる。
ナランが男の前まで歩いていく。
「おじさん」
「おお、ナランか」
「日本の人、連れてきました」
「そうか」
男は日本側の二人を見る。
ナランが振り返った。
「私のおじさんです」
「初めまして。日本国から来ました外交官の矢田です」
「同じく井口です」
二人が頭を下げる。
すると、隣にいたジェプニアの外交官が口を開いた。
「……この方が、北辰国の可汗です」
「えっ!?」
顔を上げる。
男は二人の反応を見て、少しだけ笑った。
「そうだ。余が北辰の王、名はアムフランという。よろしく頼むぞ」
「……」
「……」
二人は完全に固まった。
どうすればいい。
握手をするのか。
もう一度頭を下げるのか。
跪く必要があるのか。
そもそも、北辰国の外交儀礼など知らない。
隣を見る。
ジェプニアの外交官は、何事もなかったかのように立っている。
「……あの」
「はい」
「どうすればいいんですか?」
「普通にしていただいて大丈夫です」
「普通に……?」
男が苦笑した。
「余も客人に、そこまで堅苦しくされるつもりはない」
「……失礼しました」
「構わない」
ようやく二人も、少しだけ肩の力を抜けた。
その様子を見て、ナランが首を傾げる。
「どうして困ってるですか?」
「いや、だって……」
外交官の一人が言葉を濁す。
「まさかナランさんのおじさんが、北辰国の王様だとは思わないでしょう」
「私は言いましたよ?」
「え?」
「おじさんです」
「そうですけど……」
アムフランが笑う。
「ナランは昔からこういう娘だ」
「おじさん、私のこと褒めてますか?」
「褒めている」
「じゃあ、よかったです」
「私には息子しかいないからな。ナランが来ると、つい甘くなってしまう」
「おじさん、いつもそう言います」
「事実だからな」
「そうですね」
ナランは嬉しそうに笑った。
「それで、ナラン。今日は何をしに来た?」
「日本の人を連れてきました」
「それは見れば分かる」
「北辰と日本が仲良くなるんです」
アムフランは日本側を見る。
「そうか。ならば、余も日本の話を聞きたい。北辰のことも聞いていくといい」
「ご厚意、ありがとうございます」
日本側の二人は、改めて姿勢を正した。
「……ナランさん」
「はい?」
「本当に、すごい人だったんですね」
「おじさんです」
「いや、そういう意味ではなくて……」
ナランは首を傾げた。
アムフランは、そんな姪を見て笑っていた。
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