第十七話 富士の裾野
「いいんですか!?」
「はい。通常演習の見学許可が下りました」
「ありがとうございます!」
彼は嬉しそうに頭を下げた。
日本に滞在しているジェプニア側の調査員の一人で、軍の技術士官らしい。
「共和国でも戦車の導入を検討していますので、ぜひ実物を見てみたかったのです」
「そうでしたか」
外務省の職員は頷いた。
数日後。
二人は東富士演習場を訪れていた。
職員は付き添いとして同行している。
一方、技術士官は到着してからというもの、周囲を忙しそうに見回していた。
「こちらで演習を行っております」
教導連隊から派遣された隊員が説明する。
遠くから低い轟音が響いてきた。
「あちらです」
土煙の向こうから、戦車が姿を現した。
「……!」
技術士官が立ち止まる。
四両の戦車が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「これが……」
「はい」
「実際に見たのは初めてです」
技術士官は食い入るように戦車を見つめた。
「想像していたより、大きい」
「そうですか?」
「ジェプニアで見た図面とは、かなり印象が違います」
戦車小隊が転針し、速度を上げる。
「……速い」
「速度は状況によりますが、最高で七十キロほどです」
「なんと……」
技術士官は一度、頷いた。
「では、不整地では?」
「走行できます」
「道路がなくても?」
「はい。それどころか、普通の道路では傷めてしまいます」
「重いんですね……」
そこから先は、技術士官の質問が止まらなくなった。
「乗員は?」
「四名です」
「主砲は?」
「120mm滑腔砲です」
「ライフル砲ではないのですか?」
「砲弾の関係上、滑腔砲となりました」
技術士官はさらに質問する。
「整備は?」
「専門の部隊があります」
「燃料の補給は?」
「支援部隊が担当します」
「なるほど」
外務省の職員は黙って二人の会話を聞いていた。
最初のうちは何となく理解できていた。
しかし、話が進むにつれて専門的な内容が増えていく。
「……」
口を挟む余地がない。
少し分かる話になったところで、外務省の職員が口を挟んだ。
「つまり、戦車そのものだけでなく、整備や補給を含めた体制が必要なんですね」
「はい」
自衛官が答える。
「戦車だけあっても動かせませんから」
「なるほど」
技術士官も頷いた。
「ジェプニアでも、そこは考えているところです」
外務省の職員が技術士官を見る。
「ジェプニアでは、どのような運用を?」
技術士官は少し考えた。
「日本の戦車は、かなり機動力を重視しているように見えます。まだ検討中ではありますが……我が国でも、そういった運用を考えています」
「なるほど」
自衛官が頷く。
「ただ、戦場によっては運用が難しくなることもあります」
「例えば?」
「地形ですね」
自衛官は演習場の先を指した。
「ここは比較的開けていますから」
「森林では?」
「当然、条件は変わります。進路の確認には、普通科……歩兵の随伴が必要となります」
技術士官は黙って考えた。
「……魔物相手には、どう戦うんですか?」
「魔物?」
自衛官が聞き返す。
技術士官も一瞬止まった。
「……そういえば」
少し苦笑する。
「日本は、魔物がいない世界から来たんでしたね」
「ええ」
外務省の職員が答えた。
技術士官は再び、演習場を駆ける戦車を眺めた。
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