↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/47

第十六話 北辰(二)

『あれが、北辰です』


「やっと着きますね」


「ええ」



 ソリはゆっくりと町中へ入っていく。


 石置屋根の木造建築が街道沿いに並んでいた。


 宿屋や商店が多く、荷物を積んだ馬車やソリも行き交っている。


「思ったより大きな町ですね」


『この辺りでは一番大きい町です』


「降りますよ」


 ナランに案内され、町の中を進んでいく。



 しばらく歩くと、町の景色が突然終わり、一面の雪原が広がっていた。


 雪原の端には、何艘もの舟が引き揚げられていた。


「……あれ?」


 日本人外交官の一人が足を止める。


「舟、ですよね?」


『はい』


「こんなところに?」


 ナランが雪原の先を指差す。


『あれは川です』


「川?」


『河口に近いので、かなり広いです』


 日本人外交官は雪原を見渡した。


「……川には見えませんね」


『冬ですから』


「なるほど」


 川岸には、何艘もの河川舟艇が並べられている。


「舟が揚げられてますね」


『冬は使わないので』


「春になると?」


『川を上って、内陸へ荷物を運ぶのに便利です』


「なるほど……」


 船体には、見覚えのある文字が刻まれていた。


「あれは……ジェプニア製ですか?」


 ジェプニアの外交官が確認する。


「そうですね。ジェプニア製の河川舟艇です」


『この辺りではよく使われています』


 ナランが答える。


『春から秋は、ジェプニアから来た荷物をあの舟で内陸へ運びます』


「冬は?」


『馬とソリです』


 日本人外交官が、先ほど渡ってきた凍った海峡を見る。


「海峡を渡って?」


『はい』


「川も?」


『川もです』


「……冬のほうが便利なんですね」


『そういうことです』


 川岸には、舟の代わりに何台ものソリが並んでいた。


 馬も多い。


 荷物を積んだソリが街道を行き交い、宿屋の前では旅人が馬を休ませている。


「冬のほうが人が多いんですか?」


『ジェプニアとの交易が増えるので』


「船が使えないのに?」


『船を使わないからです』


「……なるほど」



 町を歩いていると、ナランに声を掛ける者がいた。


『ナランか?』


 ナランが振り返る。


『ん、久しぶり』


『いつ戻ってきたんだ?』


『今日』


『ジェプンからか?』


『うん』


 男がナランの後ろを見る。


『それで、その人たちは?』


「日本から来ました。外務省の矢田と井口です」


『そうか、お前たちもジェプンから来たのか』


「……?」


 ジェプニアの外交官が男に尋ねる。


『すみません。今、何と言いましたか?』


 男が怪訝そうな顔をする。


『ジェプンから来たのか、と』


「……ジェプニア?」


『そうだ』


 外交官は日本人二人を見る。


「皆さんは、何と言いました?」


「日本から来ました、と」


 外交官が黙り込む。


 ナランも日本人を見る。


『……待ってください』


「どうしました?」


『さっき、「ニホン」と言いましたよね?』


「はい」


『私には……ジェプンと言ったようにも聞こえました』


「ジェプン?」


『はい。でも、あなたたちは「ニホン」と言っている』


「そうですけど……」


『……』


 ナランはしばらく黙っていた。


『あなたたちは「ニホン」と言っているのに、私たちには「ジェプン」……つまり「ジェプニア」に聞こえる』


『……そうですか』


 ジェプニアの外交官が頷いた。


 ナランが男のほうを見る。


『あなたには?』


『ジェプンだ』


『やっぱり……』


 男が首を傾げる。


「ええと……我々の国の名前は、『日本』です」


『同じじゃないか』


「……?」


『……だから、違うんだって』


『何が?』


『ニホンだよ』


『ニホン?』


『そう』


 ジェプニアの外交官が小さく息を吐く。


「これは、少し調べたほうがよさそうですね」


「そうですね……」


 北の町では、何事もなかったかのように人々の往来が続いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。