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第十三話 訪日使節団(四)

 首相官邸 総理執務室。


「ジェプニアに滞在中の外交官から、報告が届いています」


「それで、内容は?」


「ジェプニアの工業力は、我々の想定を上回るものであったとのことです。工作機械をはじめ、工業製品に使用される部品の多くを、国内で製造する能力を有しています」


「それは、かなりの技術力だな」


「自動車についても、エンジンや変速機に至るまで、国内で生産しているとのことです」


「そこまでの工業基盤を有しているのか」


「はい」


「他には?」


「少し話題は変わりますが……ジェプニア使節団の発言を記録したものの中に、いくつか留意すべきと思われる内容がありましたので、併せてご報告します」


「留意すべき内容?」


「ヴァルデン帝国という国では、箱型テレビが実用化されているとのことです」


「……」


「また、神聖アルヴェイン王国においても、ジェットエンジン、あるいはそれに類する推進装置を用いた航空機が実用化されているとの情報があります」


「航空機まで……。国によって、技術の発達している分野が異なるということか」


「そのようです」


「分かった。では、本日の会談では、ジェプニア側から、この世界の国際情勢についても聴取することにしよう」


「承知しました」



 首相官邸 特別応接室。


「先方の到着まで、あと五分です」


「分かった」


 ほどなくして、ジェプニア使節団が応接室へ入ってきた。


 双方が正式な挨拶を交わし、それぞれの席に着く。


 会談が一段落したところで、日本側から話を切り出した。


「ところで一点、確認したいことがあります」


「何でしょうか?」


「皆様は移動中も、我が国の技術について、あまり質問をされませんでしたね」


「……お気づきでしたか」


「ええ。こちらから説明しなければ、ほとんど質問がありませんでした」


「申し訳ありません」


「いえ、責めているわけではありません。ただ、少々不思議に思っておりました」


 ジェプニア側の代表は、わずかに考える素振りを見せてから口を開いた。


「我々は、日本の技術には強い関心があります」


「それは、我々も同じです」


「ですが、同時に慎重にもなっています」


「慎重、ですか?」


「日本は、魔導技術を秘匿していますよね?」


「……魔導技術?」


「はい」


「……日本に魔法は存在しません。以前にもお伝えしましたが、正確に伝わっていなかったのでしょうか?」


「いえ。事前にいただいた資料にも、魔法についての記述はほとんどありませんでした」


「そうでしょうね。安心しました」


「だからこそ我々は、日本が魔導技術を意図的に秘匿しているものと判断しました」


「そういう認識だったのですか」


「それに、初日に何度か、日本の技術について質問しました」


「そうでしたか?」


「はい。しかし、その際にご説明いただいたのは、主としてその性能や用途についてでした」


「なるほど……。しかし、ジェプニアも科学文明国家ですよね?」


「はい」


「我々としては、皆様であれば当然、科学技術として解釈されるものと考えていました。それにもかかわらず、なぜ魔法だと判断されたのでしょうか?」


「我々の世界では、日本が有するような高度な技術の多くが、魔法によって実現されています」


「そうなのですか?」


「例えば、テレビや航空機です」


「……」


「ですから、日本側が魔法について説明しないことも、技術の仕組みについて詳しく説明しないことも、我々には秘匿措置の一環であるように見えました」


「なるほど……。我々としては、そのような意図はまったくありませんでした」


「では……昨日まで我々が見てきた技術は?」


「魔法ではなく、科学です」


「つまり、日本では魔法を用いることなく、あの技術を実現しているということですか?」


「そういうことになります」


「……それは、驚きました」


「こちらの説明が十分ではなかったようですね」


「いえ。我々も少々、早計に判断していたようです。それでは、我々からも一点、申し上げておきたいことがあります」


「何でしょうか?」


「本音を申し上げれば、日本国の技術供与を、我が国が一国で独占したいという考えはあります」


「率直ですね」


「隠しても仕方がありませんから。しかし、どの国に技術を供与するかは当然、日本政府が判断されることです」


「そうなりますね。それでも、何かご要望があるということですか?」


「はい」


「お聞かせください」


「まず、可能であれば、我が国の友邦を優先していただきたいと考えています。我が国と軍事的、経済的に協力関係にある国々です」


「なるほど」


「反対に、現在我が国と敵対している国、あるいは将来的に敵対する可能性がある国への技術供与については、慎重にご判断いただきたい」


「敵対国への技術供与を避けてほしい、ということですね」


「はい。そして我が国は、日本国から供与された技術が第三国へ流出することを防ぐため、必要な管理体制を整備する用意があります」


「なるほど」


「皆様の世界がどのような状況であったのかは存じ上げませんが、この世界には覇権主義的な国家も複数存在します」


「やはり存在するのですね」


「はい。我が国も、そのような国に対して軍事技術を供与することは避けています。また、各国とも、自国の軍事技術については秘匿するのが一般的です」


「日本も、技術供与に一定の制限を設けるべきだと?」


「ええ。日本の持つ技術が軍事目的に利用される可能性がある以上、供与先や使用目的について、一定の条件を設けることが必要かと考えます」


「それは、ジェプニア以外の国についても同様ですか?」


「……その点については、ぜひお願いしたいと考えています」


「つまり、日本国から技術供与された国が、その技術をさらに第三国へ再供与することも防いでほしい、ということですね」


「その通りです」


「ジェプニア自身も、その条件を受け入れると?」


「もちろんです」


「……それは、我々にとっても重要な点ですね」


「我々としても、日本国との協力関係を長期的に維持したいと考えています」


「そうなると、技術の重要度に応じて、供与条件を区分する必要もありそうです」


「我々も、そのように考えています」


「例えば?」


「民生用の一般的な技術と、軍事転用が容易な技術を、同一の条件で扱う必要はありません」


「技術を段階的に区分するわけですね」


「はい。軍事転用の可能性が高い技術ほど、供与先や用途について、より厳格な制限を設けています」


「合理的な考え方だと思います。ところで、ジェプニアでは、他国への技術供与はどのように行っているのですか?」


「基本的には、相手国の信用や外交関係、安全保障上の関係などを考慮します」


「やはり、単純な商取引ではないのですね」


「ええ。特に軍事に関わる技術については、そのように扱うことはできませんから」


「他国への技術供与そのものが、国際関係に影響を及ぼすということですか」


「その通りです」


「では、その国際関係についても教えていただけますか? 我々は、この世界の国際社会について何も知りませんので」


「もちろんです。それでは、まず近隣諸国から――」

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